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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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疑心暗鬼の夜-9

「まあでも、全員が通れるサイズで掘り直すってなるとやっぱり時間はかかるから、閉じ込めるのが目的なら半分上手くはいってるんだけどな。どっちにしたって制限解除をしないとそんなに早く掘れないし、俺はもう今日は制限解除を使えないから一日は完全に閉じ込められたままだ」


 その時、メノウの見解を鏡本人は否定する。


 制限解除をして掘ると言っても、メノウの言うスピードが出るケースとは直下で掘る場合であり、上に向かって掘る場合はちゃんと歩いて登れるように斜めに掘る必要がある。また、アースクリアの再生する土の時とは違い、ちゃんと掘った後に通れるようにしなければならないため、掘った後の邪魔な土をどける作業が発生する。それを含めればそれなりに時間を必要とするため、鏡は閉じ込めるのが意図であるなら間違いでもないと考えていた。


「むぅ……ならば鏡殿の言う通りやはり閉じ込めるのが目的なのか? 考えにくいが……」


「目的はわからないけど……身動きがとりずらくなったのは事実じゃないかしら? 少なくとも、単体行動は絶対に避けるべきね。もしかしたらこういう不安な状況にして暫く泳がせておくのが目的なのかもしれないし」


 パルナも自分なりに色々と可能性を模索したが、明確な答えはわからず、アリスや仲間を守るための一旦の行動を提案する。


「お風呂の時は要注意ですね、それ以外はパルナさんの言う通り極力固まって行動しないと……というより、やっぱりこういう状況でもレジスタンス内で生活するんですか? ここは一旦退いて、機を窺った方がいいんじゃないです?」


 ティナも同意見なのか、敵の目的や意図を考えるよりも先に、今後の行動について思考を回す。不安そうな表情を浮かべるパルナとティナを見て、メノウも「ふむ」と一考し――、


「外で生活するのも困難であろう? ここに来る前にも論議した通り、既に動向がばれている状態とはいえど、結局我々がレジスタンスに戻った段階でいずれはばれることではあったのだ。当初の予定通りでよかろう……ここまできたらなるようにしかならん」


 既に結論付いていた対策とは言えない最善を、メノウは言葉にして再度二人に向けて告げた。


 二人にとってもわかってはいたことだが、どうしても何か対策を考えないと不安が押し寄せる。もしくは、いや、やはりというべきか、この精神状況をもたらすのが目的だったのではないかと、ティナとパルナは頬に冷や汗を垂らした。


「鏡さんはどうするの? この分だと鏡さんの住処もばれてるよね? ピッタちゃんと朧丸ちゃんもいるから、ボクたちと一緒に行動も出来ないだろうし」


「……本当ならあそこを拠点に來栖が拠点にしているノア中央の施設を少しずつ探索しようと思ってたが、そう言ってもいられないからな。俺たちは暫く身を隠そうと思う」


 その返答を聞いて、アリスは表情を曇らせる。


「身を隠すって……どこに?」


「敵の素性もわからない上に表立って行動もできない分、俺たちが多分一番危険が多いだろうし……位置を把握されないように転々と移動して、敵に位置がばれないようにする。拠点がばれても、常に移動されてたら把握もしずらいだろうしな」


 合理的な意見ではあったが、それでもアリスの表情は曇ったままだった。また自分の傍から離れてしまうことに対し、またずっと会えなくなってしまうのではないかと、心配しすぎではあったが恐れを抱いていたからだ。


「……それがいいかもしれんな。もしどこにいても位置を特定する何かしらの道具か力があるなら効果は小さいかもしれんが、やらないよりはマシだろう」


 メノウはアリスの表情からそれを察したが、それでもそれが最善だと鏡の言葉に賛成の意志を示す。普段はアリスに甘いメノウも、今は個人的な感情よりも優先しなければならない現実があると理解していたからだ。


「そうと決まったなら今日はとにかく休んだ方がよさそうですね。疲れを残した状態で敵と相対する状況になるのが一番まずいでしょうから」


 先程まで顔を赤くしていたクルルも周囲の雰囲気に感化されて落ち着きを取り戻し、冷静に周囲の疲れ切った顔色を考慮して、提案をかける。タカコも同じことを考えていたのか、「そうね」と頷いたあと、「そろそろテントに戻りましょう」と、身体を自分たちが休むための専用のテントのある場所へと向ける。


「……その前に……一応聞いておくが……僕たちは師匠と連絡を取ることは出来るのか?」


 そろそろ行くと耳にして、ベンチの上でぐったりしていたレックスが起き上がり、よろめきながらも鏡に質問を投げかける。


「三日に一回、こちらから顔を出す。もし顔を出さなかったら……何かあったと思ってくれ」


 鏡のその物言いは、必ず何かが起きることを伝えてるようにレックスには感じ取れた。


 鏡が向ける真っ直ぐな視線から、その時は任せると遠回しに言っているのが伝わり、レックスは瞼を閉じて軽く鼻で笑い、「任せろ」と、頼ってくれていることを嬉しがる。


「ところで……寝るにしても固まった方がいいと思うんですけど、メノウさんとレックスさんはどうするんです? 男性用テントと女性用テントで別々ですが」


 戻ろうと皆が足を踏み出したところで、ティナが最もなことを口にする。


 実際、今回の入浴中の騒動も、男女がわかれていたからややこしくなったのもあり、タカコたちは歩を止めて、「それもそうね……」と一考し始めた。しかし、入浴もそうだが男女分けているのには理由がある。それを無視してひとまとめにするのもどうなのかとタカコが悩んでいると――、


「テントの位置は近いし、何かあったらすぐにわかるでしょ。まあでも……念のために私とアリスがレックスとメノウのテントで休むようにするわ、二手に分かれましょう?」


 パルナが「そんなしょうもないことで悩まなくていいわよ」と、自分から男性用のテントに行くことを提案する。


「え、ボクも?」


 何故か巻き添えを喰らったアリスが、少し嫌そうな表情を浮かべながら反対の意を唱える。だが、すぐにパルナに「ん~?」と笑顔で睨まれ、「異論はないです」と、渋々視線を逸らして承諾した。


「お前は……それでいいのか? いや、別にいいならいいんだが」


 さすがのレックスも、アリスとは関係なく色々なまずさを感じてか言葉を挟む。メノウはむしろ大歓迎なのか、何も言わず、わざとらしくただ遠くを見つめていた。


「一緒に旅をして、野宿だってしてたんだし今更でしょう? あたしは気にしないわよ? アリスとメノウも今更でしょうし……何? それとも何かする気なのあんた?」


 悪戯な笑みを浮かべながら見つめてくるパルナから視線を逸らし、「いや、何もしないが」とレックスは言葉を詰まらせる。普段は色々な煩悩を抱えているレックスだったが、いざという時になると異常に気弱なるヘタレだった。


「油機ちゃんとメリーちゃんも、私たちのテントで一緒に休みなさい。特にメリーちゃんなんて普通の人間なんだから、安全のためにも一緒にいた方がいいわ」


「えーいいのぉ? あたし寝相悪いよ?」


 てっきり分かれて休むことになると思っていた油機も、一緒のテントで休めると聞いて「楽しそう!」と、危機的な状況で致し方なしの提案であること関係なしに笑顔を浮かべる。


「大丈夫よ。私はもっと悪いから」


 だがすぐに、「あははぁ……」と乾いた笑みを浮かべて乗り気にならなければ良かったと油機は後悔する。


「おい、確かお前ら女性用で二つテント支給されてただろ? 私は油機とタカコとは別のテントにしてくれよな」


 対してメリーは、油機を生贄に条件を提示し、それを呑むのであればと睡眠に対する安寧を得る。一人憐れな想いをすることになった油機を、たっぷりと恐怖を植え付けられた男性陣は、心底憐れんだ表情で見つめていた。


「それじゃあ……ボクたち行くね。ちゃんと……三日に一回は連絡してね、約束だよ?」


「ああ、約束だ」


 それから、一同は長かった一日を終え、暫くの疲れをとろうと鏡たちを置いてテントへと向かう。去り際、念強く「もう……約束破ったら駄目だよ?」とアリスに言われ、安心させるかのような笑顔を向け、鏡は皆を見送った。


「お父……今日はどこで寝るです? 隠れ家……ばれてるです。戻ったら」


 アリスたちの姿が見えなくなると同時に、ピッタがそう呟く。


「ん? ……そうだな、掘った洞窟の中で寝よう。正規のルート以外のどこかで寝ていれば、探されても数時間くらいは見つからずに済むはずだろうし……近付いてきたらピッタが――」


 そこまで言葉にして、鏡は突然表情を強張らせた。


「お父? どうしたです?」


「なあ……隠れ家にいたとしても、誰かが近付いてきたらピッタ、お前なら気配でわかるよな?」


「寝ててもわかるです」


 それを聞いて、鏡は一考する。


 今まで、世界を救うための調査をする過程で、隠れ家ではなく外で野宿することはいくらでもあった。


 それでも、獣牙族や喰人族の脅威に晒されることなく生活できていたのは、ピッタの絶対的とも言える五感があったからだった。音を発さない喰人族であってもその気配を察知できるピッタの力で、今まで難なく外の環境でも過ごせていた。それだけ、ピッタの五感は絶対的な信用があった。


「あの隠し通路が爆発する直前に……人の気配はあったか?」


「遠すぎて自信はあまりないです……でも、気配があったのはお父とお姉たちだけ……です」


 妙な違和感が鏡を襲う。仮に、隠し通路の出口周辺を破壊するだけの火薬が詰められた爆弾が設置されていたのであれば、気付けないわけがないからだ。


 少なくとも、隠し通路からノアへと戻る時、爆弾らしきものは置かれていなかった。


 魔法や兵器で破壊したのであれば、ピッタがそれを使用した存在に気配で気付く。でも、感知しなかったことからその線は限りなく薄い。


「つまり……あの段階ではなかった? 転送で爆弾を? いや……それならレジスタンスの人間の犠牲を減らすために使ってるだろうし……さすがにありえない。ならどうやって……? 俺たちの理解を超えた能力? もしくは道具? いや、一番可能性が高いのは……」


「ご主人? どうしたでござるか?」


 突然ぶつぶつと一人で考え事を始めた鏡を、朧丸とピッタの二人は心配そうに見つめる。暫くして、結論付いたのか鏡は「ふぅー……」とうんざりしたような表情を浮かべながら、手を額へと当てて溜息を吐く。


「……やっぱ一応、先手を打っておくか。……犠牲を払ってでも」


 想像以上に追い詰められた現状に鏡は冷や汗を垂らす。


「もう、あとには引けない。なら……臆さず進むだけだ」


「悪い顔をしてるでござるよ」


 一つだけ、出来ればやらないでおこうと考えていた現状の打開方法を頭に思い浮かばせ、鏡は見るものを不安にさせるような嫌な笑みを浮かばせた。


 仮に、自分が行きついた最悪の未来が正解であるならば、最早それ以外に前へ進む方法はなかったからだ。それが正しい場合、これから成すこと全てに意味がなくなるから。


「お父……怖い」


 だがそれは、もしかしたら自分にとっても不利益になるかもしれず、仲間たちからも恨まれるかもしれない方法だった。それ故に、それを実行するにはリスクを背負う覚悟が必要だった。


 しかし、それくらいの覚悟も出来ないようでは世界を救えない。何も前に進むことはできない。そう考え、意を決し、アリスたちが向かった先とは真逆の方向へと鏡は歩きだした。


「なら……利用してやるさ。その逆境をな」

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