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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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疑心暗鬼の夜-7

 だが鏡は、残った冷静な思考力で必死に周囲に目を配って状況を確認しようとする。周囲には、


 何かあったと思っていた他の女性陣が普通に浴場内に健在していた。


 ドン引きした表情でパルナとクルルがタオルで胸元を隠しながらこちらに視線を送り、メリーとアリスとティナの三人は湯船の湯に肩まで浸かって裸体を隠し、少し怒った表情で鏡へと視線を向け、そのすぐ隣で油機が「あらー」っと「やっちゃったねー」とでも言わんばかりの微妙な表情で湯船に浸かり、そして湯船の隅っこの方で、とても機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら、ピタが湯に浸かっていた。


「いや、あれ? あいつ何してんの?」


 一見普通に見えた光景だったが、よくよく何かがおかしいと鏡はピッタに視線を向ける。


 ピッタの片手には、先に透明化して中に入ったであろう朧丸が動けないように握られていた。


「ん? ピッタさん? ん? え? そういうこと?」


 暫くして、ピッタと鏡の視線がピッタリと合う。するとピッタは、「ッハ⁉」と、忘れていたのか、


「ばれた……怒られる」と言いたいのか、どちらとでも取れるような微妙な表情を浮かべる。


「いや、これはあれだな。完全に後者だな」


 ピッタの片手に握られている朧丸に視線を向けて、冷静に鏡は判断する。ピッタであれば、透明化した朧丸であっても、五感が鋭い獣牙族の数倍の感知能力の前では無意味に等しい。


 透明化は姿が見えないだけで、気配や音までは誤魔化すことが出来ないからだ。


「お父……変態です」


「いや待って? おかしくない? おかしいよねピッタちゃん? 君は俺に変態っていう資格ないよね?」


「ピッタだけならともかく……お姉たちも……いるのに」


 そう言われて鏡は再び周囲に視線を向ける。ピッタの言葉により鏡とメノウとレックスは謎にただ女性風呂に突入してきた変態と化し、更なる嫌悪の視線を女性陣から向けられていた。


 もしかしたら何か理由があって突入してきたのではないかと希望を残していたアリスとクルルの眼差しからも光が消え、まるで汚物を見るかのような表情へと変わっている。


「ちょっと待ってほしいんです。弁解させてほしい、いやほんと。俺ね? 皆が心配でめっちゃ必死に走ってきたんですよ?」


「最低です……鏡さん。神が許しても私は絶対に許しません」


「いや、ちょっと、あれ? なんで? ティナたん俺の今の話聞いてた? ていうか俺だけ?」


「レックスさんはともかくメノウさんが覗きなんてするわけないでしょう。鏡さんがそそのかした以外ありえないですから」


 湯船に浸かりながらティナは、小さい身長にも関わらず豊満な胸元を両手で隠しつつ、むーっとした表情を鏡へと向ける。


「とりあえず爆破魔法でいいかしら?」


「よくないと思う」


 湯船から出ていたパルナは有無を言わさず、片手に持ったタオルで裸体を隠し、もう片方の手に魔力を込めて鏡へと向けていた。


「鏡さん……スキルで魔法を跳ね返したら駄目ですよ?」


「ちょ、お前ら! こんなところで魔法なんて使ったらレジスタンスの連中が起きてくるだろ!」


 その隣で希望を失ったかのような瞳のクルルも、パルナと同じように片手に持ったタオルで裸体を隠し、魔力の籠った手を向けていた。


「やっぱりてめぇはがっかり英雄だったみたいだな。最低中の最低だぜ」


 続いて、ない胸を必死に隠そうと両手を胸元でクロスさせながら、メリーが嫌悪の視線を鏡に向けてそう言い放ち、すぐさま気恥ずかしいのか隠れるように顔の半分を湯に浸けてぶくぶくと泡をたてる。


「あっはっはっは! やっぱ面白いなぁ鏡さん! いや、本当に面白い」


 特に見られても良いと思っているのか、胸元にタオルを置くだけで湯に浸かりながら豪快に笑い、油機は湯船のふちをバンバンと叩く。いつもであれば「何笑ってんだ」と一言言ってやりたいところだったが、今はそんな場合ではないと鏡は視線をアリスへと向ける。


「アリス! お前なら俺が意味もなく女性風呂に突入してきたりしないってわかるだろ? こいつらに落ち着くように何か言ってやってくれ!」


「大丈夫だよ鏡さん。ボクがもう大人だからって見られて恥ずかしいなんてことはないから。大丈夫! ちゃんと今日のこのことは忘れるから! そう、忘れるから……これから起こることはボクハナニモシラナイ」


「駄目だこりゃ」


 自分が覗かれたことよりも、鏡が他の皆の裸体を見ようとしたことがショックだったアリスは、隣にいるメリーと同じく徐々に顔を湯へと浸からせ、ジト目で鏡に視線を送りながらブクブクと泡をたてはじめる。


「そろそろいいかしら? お待ちかねのデストロイタイムよ?」


「やばいやばい。全然待ってないし、このままだと聞いたこともない謎の時間がやってくるぞ。メノウ、とりあえずここは逃げよう」


 ジリジリと詰め寄ってくるタカコとパルナとクルルを前に、鏡は命の危険を感じて浴場から逃げ出そうとする。だが、何故かメノウはその場から逃げ出さず、立ち止まった。


「何してんだメノウ⁉ 死ぬぞ⁉」


「いや……だがレックス殿が! 最初は敵だったとはいえ……奴はもう魔族である私を何も気にせず支えてくれる立派な仲間。その仲間を私は置いていくわけには……置いていけば……レックス殿は恐らく……! 駄目だ……私は、私はここで逃げるわけには!」


「お前は何を言っているの?」


 さすがに本当に殺されるわけがないだろうと考えていた鏡は、メノウのあまりにもアホな発言を聞いて呆れた表情を浮かべる。その数秒後、鏡は自分の考えは間違っていたと思い知らされる。


 鳴ってはいけない音が、レックスの頭部から鳴り響いていたからだ。


「タカコちゃん落ち着いて? ちょっと、いやマジ……ちょ! レックスの顔からミシミシ音が鳴ってるから、これ以上は本当にやばいから落ち着いて!」


 それから、言うに言い出せなくなったピッタがさすがにまずいと感じて半ベソをかきながら「ごめんなさい」と言うまでの数分の間、男たちの命を繋ぐための報われない戦いは続いた。

いつもご愛読ありがとうございます。

いよいよ本日LV999の村人③巻発売です!

活動報告にて、残りの公開できるイラストを添付していますので、よろしければお目通しいただければ幸いです。

今回もたくさんの方に支えられて出版することが出来ました。感謝感激です!

今後ともLV999の村人をどうぞよろしくお願い致します。


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