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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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疑心暗鬼の夜-6

「鏡殿……血相を変えてどうしたのだ? 何かあったのか?」


「ああ、実はかくかくしかじかで」


「落ち着いてちゃんと話せ師匠。それで伝わるのは漫画のキャラクターだけだ」


 その後、メノウとレックスは裸のまま事情の説明を受けるのもなんだと、一度浴場から出て脱衣場で着替え、鏡と共に外へと出る。それから鏡より、ここに戻る時にも使った外へと通じる抜け道が何者かによって破壊され、塞がれたことを知る。


 それがどういった事態で、どれだけ深刻な問題なのかを瞬時に察したメノウとレックスは、「悠長に風呂に入っている場合ではないな」と、表情を曇らせる。


「敵には既に、我々の行動が筒抜けているということか……まずいな、いつ奇襲を受けるかわからん。だが……これでここが小型のメシアを扱っていた敵の本拠地である可能性が高まったな」


「ああ、師匠が事態に気付いてすぐに我々と合流してくれたのはさすがとしか言えん、孤立した時に奇襲を受ける可能性が一番高いからな」


「しかし、ここは敵の本拠地だ。孤立していなくとも戦力が分散した段階で襲われる可能性もある……女性陣は無事なのだろうか?」


 メノウはアリスの御身を案じ、不安そうな表情ですぐ隣にある女性側入り口を見つめる。レックスと鏡も同じく心配しているのか、どこか落ち着かない様子で女性側入り口を見つめていた。


 その光景を朧丸は鏡の頭から降りて傍らで傍観し、「こういう事態でなければ中々にヤバい光景でござるな……」と、別の意味で深刻そうに冷や汗を浮かべていた。


「一応、女性陣への警告はピッタに任せてある。予定通りならそろそろ皆に事情を話してここに連れ出してくるはずだけど……遅いな。何やってるんだ?」


 すっかりと保護者の感覚になってしまっているからか、ピッタとアリスが危険な目に遭っているかもしれないと想像し、落ち着かない様子で鏡は女性側入り口前でうろうろと歩き回る。


「男と違って女は手間のかかるものだ師匠。もう少し気を落ち着かせて待たないか? それにあいつらのことだ。そんなに心配しなくともなんとか難を切り抜けてるはずだ」


「……っつ、そうだな。もう少し落ち着いて皆を待つとしよう」


 見かねたレックスがそう言って鏡を宥めると、三人は、今は大人しく待とうと、近くにあった薄汚れた木造のベンチの上に座り、ただジッとピッタが女性陣を連れて浴場から出てくるのを待った。


 それから三分後、女性陣は姿を現さず、痺れを切らしたメノウがベンチから立ち上がる。


「何かあったに違いない……乗り込むべきだ……鏡殿!」


「待つでござるよ。まだ待ち始めてから三分も経ってないでござろう? それにご主人や貴殿たちが女性側の浴場に入るのは万が一の時、気まずいことになるでござる。仮にまずい状況になっていた場合も、そのまま巻き込まれて全員犠牲になって終了という可能性もあるでござるしな」


「ならどうするんだ? 言っておくが、僕だってむやみに突入したいわけじゃないからな」


 朧丸の制止を受けて、最初にレックスが踏みとどまる。


 それに続いて、鏡とメノウの二人はレックスの言葉返しにピタッと足を止め、「本当か? 本当にむやみに突入したくないのかこいつ?」と、レックスがむっつりであるのを知っているが故に心の中で疑問を抱き、ツッコんだ。


「某が行くのが一番安全でござるよ。某なら自分の姿を透明化することもできる故、敵がいたとしても安全に皆の安否を確認できるでござる」


「そういえば師匠、朧丸はオスなのか? メスなのか?」


「いやわからん? 全然気にしたことなかった。どっちなの?」


「某にもはっきりとしたことはわからんが……多分メスでござるかな。まあ、生物的に別種すぎる故、どちらでもよいでござろう? 某にとって人間の性別など、どうでもよいでござるからな」


「よし、行ってよし」


 どこか検査を受けたかのような言いようのない感覚に包まれ、「某の性別なんてそんなに重要なことでござるか?」と、疑問を抱きながら、鏡の許可を得て朧丸は女性側の浴場へと透明化したうえで入り込む。


 そんな朧丸を三人は、透明化する間際まで不安そうな表情で見つめていた。


 それから十分後――、


「戻って……来ないんだが?」


 朧丸は戻って来なかった。透明化できる朧丸が何もないのに戻って来れないわけがなく、明らかに朧丸の能力を上回る何者かが関与していると鏡とメノウは判断した。


「師匠……最早悠長なことを言っている場合じゃない! 今すぐ乗り込んで何が起きているのかを確かめるべきだ!」


「お前なんでちょっと嬉しそうなの?」


「ふざけるな! こんな一大事に……そんなわけないだろう!」


 確かに少し焦って深刻そうな表情をしていたが、レックスはどこか女性側の浴場に入るのをワクワクしているかのような、浮足立った様子だった。その様子に鏡はどこか腑に落ちない何かを感じ始める。


「鏡殿、レックス殿の言う通り悠長なことを言っている場合ではない。レックス殿内心はさておき、ここは今すぐに突入するべきかと私も思う」


「いや、そう……だな。そうだよな。いや、俺も今すぐに突入したいんだがちょっとなんか気になって……いや、うん、よし! 行こう!」


 意を決し、三人は女性側の入り口へと突入する。まず最初に視界に広がった脱衣所には女性陣の服が綺麗に畳まれて置かれてあり、浴場内に入ったきり出て来ていないのが窺えた。


 浴場内で何かが起きた。もしくは朧丸が戻って来ないことから今現在も起きていると、三人は瞬時に理解する。


 浴場内で何かが起きている。三人は息を呑んでその浴場内の入り口に視線を向けた。


「透明化していた朧丸が戻って来ないってことは扉が開いた瞬間に作動する罠って可能性もあるぞ? アースクリアと違ってアースの文明で作られた罠は幅広いからな。下手すれば全員お陀仏って可能性もある」


「ならどうするのだ? 鏡殿?」


「一人先に入って、その後から残りが入るのが安全且つ妥当な方法だろうな」


「僕が行こう」


 罠の可能性を考慮してすぐには突入せずに、冷静に踏みとどまっていると、レックスは自分が犠牲になると言って一歩前へと足を進めた。


「先陣を切って出るのは……勇者の務めだ。そうだろう?」


「お前……こういう時だけ勇者とか言って……いや、でも頼もしい。なんかいつもの五倍くらいは頼もしく見えるぞ! なんでだこれ!」


 レックスは輝いていた。まさしく勇者と名乗るに相応しいほど、恐れのない表情で、何かに期待しているかのような不敵な笑みを漏らしながら、前へ、前へと進んでいく。


 一番危険な仕事を自分からやると言ってくれたレックスを止める理由はなく、鏡とメノウは黙ってレックスの背後を見守る。


 そして次の瞬間、レックスは意を決したのか、勢いよく浴場の扉を開き、そのまま一気に中へと入り込んだ。すると――、


「ぐぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 中へと入り込んで間もなくして、レックスの苦しみを訴えるかのような、ヒキガエルが鳴くような叫び声が、鏡とメノウのいる脱衣所にまで響き渡った。


「メノウ! 師匠! 絶対にこっちに来るな! 来ては……なら……ぁぁあああああ!」


 何かに襲われているのか、締め付けられているかのようなレックスの苦しむ声が聞こえ、メノウと鏡は顔を見合わせたあと、レックスのあとを追って浴場内へと突入する。



「あら……またネズミが入り込んだみたいね」



 二人が浴場に入り込んだ瞬間、二人の背筋に悪寒が走った。恐怖で今すぐ逃げ出したいほどの威圧が襲い、顔を蒼褪めさせて震え上がった。


 そこに立っていたのは、この世のものとは思えない、言いようのない化け物だったから。


「覚悟…………出来てるわよね?」


 二人の視界いっぱいに、片手に持ったタオルを女性らしく筋肉ムキムキの胸元へと当てて裸体を隠し、もう片方の手でレックスの顔面を肉がめり込む程の力で鷲掴んだタカコの姿が映る。


 先に入ったレックスは、既に息絶えたのか、顔面を鷲掴みにされながらぷらんっと力なく垂れ下がっている。


「覚悟……出来てません」


 あまりの恐怖に、メノウはなんとか助かろうと敬語で答え返し、冷や汗を頬に垂らす。


「……倒し方がわからん」


 同じく鏡も、今まで戦ってきたどのモンスターよりも圧倒的な力強さを持つ相手を前にして冷静な思考力を失い、仲間である目の前の相手を新手のモンスターとして認識し始めていた。

いよいよ明日、LV999の村人3巻発売!

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