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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
189/441

覚えていますか?-11

 それから鏡が作った抜け穴を再び通り、ノアの施設内へと戻ったのは二時間が経過してからのことだった。幸いにも、道中で他の異種族に出くわすことはなく、モンスターに遭遇はしても全てレックスとタカコの力により掃討され、一同は大きく消耗することなく戻る。


「いたた……ここまでで大丈夫ですタカコさん。ある程度歩けるくらいには回復しましたから」


「その割には足ぶるっぶるじゃない」


 ノアの地下施設内にある中央施設から遠く離れた外壁に密接した、外への抜け道のある鏡が隠れ住んでいたテント前で、ここに来るまでの間ずっとタカコに運んでもらっていたティナがようやく地面に足をつける。だが、生まれたての子羊かのように足を震わせる様をみかねてか、パルナが溜息を吐きながら肩を貸した。


「情けないぜティナティナ、そんなのでこれから起こり続けるであろう困難に立ち向かっていけると思ってんのか? 今回の戦いはそんなに甘くないぜ?」


「鏡さんもぶるっぶるだよ?」


 自動で傷や体力を回復するスキル『オートリバイブ』の効果によって徐々に回復しつつあった鏡だが、それを上回るほどに己が本来の力の70%を解放するスキル『制限解除』の反動は大きく、同じくメノウに肩を借りてここまで戻ってきた鏡も、メノウから離れた途端、ティナに負けず劣らず足を震わせていた。


 あまりの震えっぷりに思わずアリスは苦笑し、鏡の足をツンツンと触るが、「調子にのってすみませんでした」と、触れられるだけでもかなり辛いのか、すぐに心変わりして鏡は頭を下げる。


「お父……面白い」


「いや、マジやめて、本当、それ洒落になってないから。聞こえてる? 聞こえてますかピッタちゃん? それツンツンしちゃだめなの、わかる? わかるよね? わか……わかって!」


 そして辛そうにする鏡に遠慮なしにピッタがツンツンと指を連打し始める。


 そんな一同の様子をメリーは呆れ果てた表情で額に手を当てながら、「呑気なやつらだ……これからが大変だってのに」と溜息を吐く。


「まあまあいいじゃんメリーちゃん。これがこの人たちの良いところなんだし。あたしはもう慣れたよ? むしろこれから大変になるかもしれないからこそ、今を楽しんどくべきだってあたしは思うな~」


「私は今回のことをそんな楽観的に考えてないんだよ。というか油機は順応しすぎだ逆に」


「えー普通だって普通」


 いつもであれば、深夜帯であるこの時間はメリーにとって気分の落ち着く大好きな時間でもあった。音のない静かな空間に包まれて、これまでのことを思い出しながら、これからのことを想い描く。娯楽の少ないノアの施設内で、メリーが唯一楽しみにしている時間だった。


 だが今は、むしろ早くこの時間が終わってくれないかと思えてしまった。


 ノアの施設内は外の状況に合わせてほとんどの照明が落とされる。ノア施設内を照らす光が暗闇を仄かに照らす常夜灯だけになると、住民は一斉に寝床へとつき、ただでさえ静かなノアの施設内は、施設内の環境を整えるための装置の稼働音以外の音がなくなっていた。


 この薄暗い施設内で、誰かに狙われているかもしれないと考えるだけで不安が襲い、いつもは心地の良い静けさも、何かが起きる前触れなのではないかと、不安を助長していた。


「とにかく行くぞ。あまりここに長く留まって話し込んでも目立つだけだし、とにかく今は身体を休めることを先決して素早く行動するべきだ」


 不安を振り払うようにメリーが提案すると、それに賛同なのか、戻ってきたことで少し安心していたティナやアリスも顔を引き締めなおしてゆっくりと頷く。


「そうだね……今は何よりも」


「お風呂が先決ですね……騒いで見つかって入れなかったら……それこそ最悪です」


 ティナに賛同してか、クルル、パルナ、タカコは頷く。そして、「行くわよ! 案内して頂戴!」と、戦地へ赴く戦士のような顔つきでタカコが先陣を切ると、それに女性陣は同じような表情で続き、メリーと油機もヤレヤレと溜息を吐きながら続いた。


「どれだけ風呂に入りたいんだあいつら……」


「師匠たちは来ないのか?」


 ピッタと共にタカコたちを見送る鏡が気になってメノウは立ち止まり、それに気付いたレックスが去り際に声をかける。


「万が一もあるし、俺たちは後でお前たちに合流するよ。先にピッタを寝かしつかないといけないからな」


「なんだ? ピッタは風呂には入らないのか?」


「ピッタには獣耳と尻尾があるからな。服を脱ぐことになる浴場に行かせられんだろ? あ、でも勘違いするなよ? ちゃんと普段は外で水浴びさせてるから汚くはないぞ? 多分」


 本当の父親のような言動に、「昔と相変わらず面倒見が良いな」と、思わずメノウは苦笑する。


 すると何故か、暫くおとなしくボーっと去りゆくタカコたちを見ていたピッタは突然、鏡の服の裾を引っ張り、顔を見上げてジーッと鏡を見つめ始めた。


「お父……ピッタもお風呂……入ってみたいです。なんか楽しそうです」


「これは困った」


 子供が「やってみたい」と考えると、説き伏せるのに時間が掛かるのを知っている鏡は今まで、風呂は地獄のような熱湯に身体をひたす代わりに身体を清潔にする地獄と、一人浴場に行く理由を作っていた。

 ピッタが浴場に行くのはリスクが大きく、鏡は思わず助けを求めてメノウに視線を向ける。


「良いではないか鏡殿。この時間帯であれば浴場に人はこないとメリー殿たちも言っていたであろう? それに万が一が起きてもタカコ殿が上手く誤魔化してくれるはずだ」


「うぇー、助けを求めたのに肩をもたれた」


 予想外の返答だったのか、鏡は呆けた顔を見せる。対するメノウは念を押すように「何事も経験だ。知らない世界があるなら教えてやりたいではないか?」と、まるで孫を見る祖父のように言葉を放った。


「普段は慎重なお前が珍しいな」


「慎重だからさ。慎重だからこそ別に連れていても大きな問題にはならないと判断した。そもそもピッタ殿が浴場に行くことよりも、この状況で風呂に入ろうとするのがそもそも間違いではないか?」


 説得力のあるメノウの言葉に鏡は論破され、思わず「確かに!」と声を出してしまう。その傍らで、知的に鏡を説き伏せたメノウにピッタは尊敬の眼差しを向けていた。


「メノウも……ピッタの家族です?」


「お前気に入ったらすぐに家族かどうか聞くな。ちなみにメノウはおじさんポジション」


「おじ……」


 さすがにジジイ扱いはメノウも堪えたのか、すぐに訂正しようとしたが、既に刷り込みが完了したのかピッタに「オジィ」と呼ばれてメノウは何も言わずに諦める。


「よし、それじゃあどっちにしても一緒に行動するのはリスク高いから先に行っておいてくれ、俺たちも後で合流するから」


 その後、あとで合流すると言葉を交わしてから、レックスとメノウはタカコたちのあとを追いかけて浴場へと向かい、鏡とピッタは身を隠すようにしてテントの中へと戻って行った。

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