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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
186/441

覚えていますか?-8

 それから一同は獣牙族が隠れ家としていた街を離れ、モンスターや他の異種民族の襲撃に合わないように人目につかない建物の影や、木々の中を極力移動し、地下施設ノアへと向けて移動していた。


 その道中、嫌でも道のひらけた外敵から狙われやすい場所を移動しなければならない地点にまで来たところで、そこを通る前に一度休憩しようと、そこから近くにそびえ建っていた複数ある廃屋となった家屋の中の一つへと足を運んでいた。


 現在、ボロボロながら遥か昔の生活が窺える家具が乱暴に散乱する埃っぽい一室の中で、それぞれが疲れ切った様子で失った体力の回復に努めていた。


「いやー一時はどうなるかと思いましたが……なんとかなりましたね」


 家屋内にあったソファーの上に仰向けに横になったティナが、心底安堵したかのような表情を浮かべながら溜め息を吐く。


「なんでティナはソファーで俺は地べたなの? ねぇねぇ、扱いの差激しくない? 扱いの差激しくないですかアリスさんとクルルさん?」


 家屋内に入るや否や、メノウは埃の被ったソファーから埃を払ってティナをその上に寝かせ、鏡を運んでいたクルルとアリスは、重い荷物を降ろすようにそのソファーのすぐ傍の地べたに鏡を横にして寝かせた。埃は払ってくれたので鏡もそこまで文句はなかったが、あまりの扱いの差にブーブーと文句を垂れる。


 しかしクルルとアリスは冷たい視線を向けるだけで何も言おうとはしない。


「いや、まあしかしなんとかなったな。話しかけられた時はどうしようかと思ったけど、心強い味方も得られたかもしれんし……結果オーライ、いや、あれはもう味方になったな。名前も教えてくれたし……手応えあった……ふぎっ⁉」


「手応えあったじゃないからね鏡さん?」


 そこで、にっこりと明らかに作ったとわかる微笑みを浮かべながらアリスが鏡の頬をつねる。あまりにも突然の攻撃に困惑しながらもアリスの隣に視線を向けると、同じように威圧的な雰囲気を感じられる笑みを浮かべたクルルが鏡に視線を向けていた。


「そうですよ? あのウルガって人はともかく、他の獣牙族の人たちは終始、殺気を放っていましたからね? さすがに今回は駄目かと思いました」


それだけつぶやくと、本当に内心はらはらしていたのかクルルは大きく溜め息を吐く。


「ちなみに万が一を考えて、ご主人が話し合いに失敗した時はすぐ透明化して隠れられるように某は準備していたでござるよ」


 その時、「ご安心を!」と言いながら、ずっと鏡の胸元に隠れていたのか、朧丸がピョコっと勢いよく姿を現す。それをピクピクと耳を動かしながら「へぇ」と、パルナが詳しく話を聞こうと朧丸に顔を近付けた。


「あんたのその透明化って全員にかけられるの?」


「そんなわけないでござるよ。それなら最初から声を張り上げて提案しているでござる。某の透明化はせいぜいご主人と某を隠すので精一杯……ッウ⁉」


 朧松の返答を聞くや否や、パルナは勢いよく朧丸の胴体を掴み取り、「へぇ~……そうなんだー……」と、不敵な笑みを浮かべる。


「じゃあもしそうなった時、あたしたちはどうなってたわけ?」


「それは勿論、とても口惜しながら諦めて死んでもらっていたでござる。某が守るべきまずご主人でござるから……ッグホ⁉」


 さっぱりとした物言いではっきりと告げられた慈悲のない言葉に、パルナは思わずキュッと手を握って、朧丸の胴体を締め付ける。そしてそのまま怒りの矛先を鏡に向けて睨みつけると、鏡は「いや! ちょっと待って! 俺そんなの頼んでないから!」と必死に弁解を始めるが、「ペットの不始末はあんたの不始末よね」と聞く耳を持とうとせず、アリスに頬をつねられている鏡へと顔を近付けて威圧する。


「まあそうだとしても……もうちょっと考えて行動できないのあんた? たまたま上手く話が済んだから良かったけど、メリーの言う通りあそこはとりあえず切り抜けるために適当に取り繕うか、無視すればいいところでしょ? 何相手の生き方全否定して未来を見ろとか難しい要求してんのよ」


「でも上手くいったじゃん。俺は上手くいくと思ったからあの話をしたんだぜ? いや本当」


 何も間違いはなかったと自身満々に親指を立てる鏡を見てイラっとしたのか、パルナもアリスに加わり反対側の頬をつねり始める。それを見て、はっと気づいたようにクルルも負けじと張り合うかのように鏡の額を指でピンピンと弾いて叩き始めた。


 その様子を楽しそうと思ったのか、ピッタもトコトコと鏡に近付いて鏡の鼻をつまみ、「ならば僕も」と、面白半分でレックスが鏡の腹に座り始める。


 最後に、そんな仲睦まじそうな光景を見て、自分もその仲間なんだなと、ほんの数時間前までは敵対していたのに、いつの間にかすっかり信頼して仲間と言い放ってくれた鏡の台詞をふと思い出し、妙にツンツンとしていた自分が恥ずかしくなって、それを誤魔化すかのようにメリーが赤面しながら「っふん!」と鏡の足を踏みつけた。


「俺が動けないのをいいことにやりたい放題かお前ら」


 そのやりたい放題の様子を傍らで、油機がケタケタと面白がって笑い、メノウは懐かしさを感じているのか微笑を浮かべ、タカコも同じで少し懐かしさを感じているかのような暖かい表情で「呆れた」と溜息を吐く。


「それで、話は変わるけど……ノアに戻ってからのことをそろそろ詰めておきましょう。向こうに戻ってから話すよりも、今話しておいた方が怪しまれずに済むでしょう?」


 そこで、タカコが手をパンパンと叩いて気持ちを切り替えるように促す。すると、全員それを合図に表情を切り替え、ボコボコにやりたい放題されている鏡から離れてタカコへと注視した。


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