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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
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覚えていますか?-6

「難しく考えるなよ? 敵かどうかなんてその程度でしかないんだ。利害が一致しているかどうか、それだけだ。利害が一致していればどんな奴が相手でも味方にだってなれるし、逆に利害が一致してなければ同じ人間でも争いが起きる。そんなもんなんだよ」


 遠い過去を思い浮かべているかのような、どこか寂し気な表情を鏡は浮かべた。その顔を見て、獣牙族のリーダーは一考する。


「……我等ハ人間に同胞を多ク殺サレテきた。ソシテ我等も多く殺シテきた。ソレを知らナイワケではあるまい。オ前は……ソレでも、我等を敵デハないと?」


「それって、仲間が殺されたから復讐のためだろ? 俺は別に獣牙族に何かされたわけじゃないし、私怨はない。まあそこに復讐したくてたまらない仲間が二人いるけど……」


 ふと鏡がメリーと油機に視線を向けると、明らかに敵意をもった眼差しを獣牙族にぶつけていた。その様子を見て、こちらの意図を理解してくれたとはいえ、やはり募った憎しみはそう簡単には消し去れないのだなと鏡は改めて認識する。


 そしてそれは、この獣牙族たちも一緒であり、今、こうしてコンタクトを取ってきているのも、ただ気になって話しかけてきているだけで、人間に憎しみを抱いているのは変わらないのだと、同じくこちらに敵意を向けている周囲の獣牙族たちを見て感じた。


 大事なのは、その憎しみを押さえこんで前に進めるかどうか。鏡はそう判断した。


「でもこの二人には絶対手出しさせない。戦っても、何も解決しないからな」


「解決……? ソレでソノ二人は納得シテいるノカ?」


 質問が投げられたその瞬間、メリーは憎しみの籠った視線を獣牙族のリーダーへとぶつける。


「納得してるわけねえだろ。私は今でもあんたたちが殺したいほど憎い。でもな……それで憎しみをぶつけてるだけじゃ何も変わらないってのを……その、こいつから学んだんだ」


 言葉途中でメリーの憎しみの籠った眼が徐々に緩み、どこか気恥ずかしく感じているようなものに変わっていく。その様子に鏡が思わず微笑を浮かべ、それに気付いたメリーが「何にやついてんだ? あぁ⁉」と顔面を躊躇なく殴る光景を見て、獣牙族のリーダーは思わず面喰らう。


「ワカラン……憎シミとは、ソウ簡単に抑えラレルモノではないハズだ。ナニガお前たちの考えを変エタ?」


「そんなの理解しようと努力してるからだろ」


 疑問視する獣牙族を前に鏡はさも当たり前のようにはっきりとそう告げる。


「分かり合えるやつはたとえ立場が敵だったとしても分かり合える。なんなら、ここにいる俺の仲間連中のほとんどが、最初、俺とは敵対してたんだ。でも今は皆仲間として一緒に居てくれる、そして理解しようとしてくれたから、憎しみを抑えられた。それだけの単純な話さ」


「……むぅ」


「理解しようとせずに憎しみに身を任せて暴れるのは簡単だ。でもそれを抑えて、本当に見つめないといけない問題に立ち向かえる強さを持ってるんだよ、こいつらは」


 鏡が自信たっぷりにそういうと、メリーが少し機嫌よく鼻をふんっと鳴らし、「私はまだ仲間になったつもりはないぞ……敵でもないがな」とつぶやく。殺気を放っているにも関わらず、言葉通り理解しようと努めているのか、その感情を押し殺しているメリーを見て、獣牙族のリーダーは「……ナルホド」と感慨深くつぶやいた。


「というより、何でそんなこと聞こうと思ったんだ?」


 その時、どこか求めていた答えが聞けたとでもいうような満足そうな表情を浮かべる獣牙族のリーダーを見て、鏡がそう問いかける。


「何故ソンナことを聞ク?」


「いや、俺もまさかコンタクト取ってくるとは思ってなかったからさ。お前らって敵だと思ったらまともに話すこともなく襲い掛かるし、危険だと思ったら殺気を放って警戒するし、こうやって話しかけてくるなんて珍しいなって」


「似テイタカラダ……」


「似ていた? 誰に?」


「我等が同胞ナノにモ関わらラズ、人間、我等問わず戦イを鎮圧シヨウトする者トダ。名は知ランがな」


 それを聞いて、鏡は思わず傍にいたメリーと顔を見合わせた。すぐさま鏡はメノウに自分を降ろすように頼みこむと、ピッタに傍に寄るように手を招く。すると鏡はまだ回復しきってないおぼつかない足取りでピッタと自分にマントを被せ、アリスたちに正体を明かす前の姿、獣牙族のエースと呼ばれていた時の見た目を獣牙族のリーダーの前にさらす。


「それってこんな感じでマント被ってた黒い人と、こんな感じの幼女がセットになって邪魔してた奴等のことか?」


「ソウダ……ソンナ感ジ…………ンん⁉」


 その姿を前に、獣牙族のリーダーは困惑した表情を浮かべ、まるで見定めるかのように凝視し始める。そして確信を得たのか、目を見開いて驚愕すると、「お、お前ガ……!」と声を震わせて指を差した。

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