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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
183/441

覚えていますか?-5

 そこでふと、背後に立つ獣牙族に鏡が視線を送ると、その獣牙族は殺気を放つことなく、見定めるかのような視線をこちらへと向けていた。周囲にいる殺気を放っている獣牙族とは違い、どこか風格のあるその佇まいに、思わず鏡は「ほぉ……」と、感心したかのように声をあげる。


 その獣牙族の男は老人と呼べるほどに年老いてはなく、風になびく無造作な黒髪と短く生えた顎鬚の似合う三十代前半くらいの男性だった。鋭くもどこか知的な雰囲気の漂う眼光と、現役で戦っているであろう強靭で引き締まった肉体は、この獣牙族たちを現在まとめているリーダーであることが窺えた。


「なんでそんなこと聞いてくるんだ?」


 少なくとも会話が出来る相手であると判断するや否や、鏡は獣牙族のリーダーであろう男に視線を合わせる。すると、会話をする気があるのか相手も視線を鏡へと合わした。


「ヤハリ、オ前が……リーダーか」


「どうしてそう思うんだ?」


「殺気ヲ放つ我等に囲まれナガラ、お前ダケ心音がずっと乱れナイ。……普通じゃナイ」


 それを聞いて、自分たちの状態を見抜くほどに獣牙族の五感は鋭いのかと、一同は思わず額に汗を浮かべる。鏡も、ピッタほどに五感が鋭くないとはいえ、獣牙族全員がそこまで見抜ける力を持っているという事実に、少しだけ驚き、表情を歪ませた。


「どうするの鏡ちゃん? あれ……恐らくだけど、私でも苦戦する相手よ。攻撃を当てられれば話は別だけど……当てれるかどうか」


「多分さっきの戦いでタカコちゃんの力を見ているはずだから、戦ったとしてもタカコちゃんの攻撃に当たらないように注意してくるだろうな。それでもタカコちゃん有利なのは間違いないけど……多分あいつ、不利な状況でわざわざ真っ向から戦うようなタイプじゃない」


「やっぱり……そうよね」


 普通の獣牙族を相手するのとは違い、一筋縄ではいかない相手だと、鏡とタカコは直感的に理解していた。ただ戦うのではなく、勝つための戦い方を恐らくする。それだけの器量を持っている相手であると、今まで様々な相手と戦ってきた鏡とタカコは経験から察していた。


 だからこそ、どうあがいても勝てないと判断した相手を倒した自分たちを脅威と思っているし、こうやって話しかけて様子見を仕掛けてきているのだということも。


「何故我等を助ケタ? 我等は敵同士ノはず」


「別に助けた覚えはない。俺たちが倒さないといけない敵を倒しただけだ!」


 メノウに担がれながら、鏡は視線を獣牙族の男から一切外さずにはっきりと言葉を返す。すると、返答を聞いたメリーと油機がすぐさま慌てた様子で鏡に「待て待て!」と近寄った。


「ちょ、鏡さん! そこは助けたって言って恩をうっとくべきでしょ! あーもぉー、鏡さんに商談任せたら絶対失敗するやつだよこれ! アホだなぁ」


「そうだぜ! 助けてもらったと思ってる相手にわざわざ……! 鏡……馬鹿かてめぇは!」


「言いたい放題で泣きそう」


 二人に問い詰められて少し落ち込むが、すぐさま間違っていないと主張するように真っ直ぐにリーダーと思われる獣牙族に視線を向け直し、鏡は二人を諭すように「大丈夫だ。これで合ってる」と告げる。


 嘘を言ったところでばれる。それを鏡は理解していた。見定めるかのような鋭い眼光はこちらの嘘を恐らく見逃さない。信用を得るのであれば、本当のことを話す以外にないと判断しての言葉だった。


 実際、鏡の考えは当たっていた。目の前に立ち塞がる獣牙族の男は、相手の心音、息づかい、表情の微々たる変化、その全てを五感で感じ取り、鏡の言葉を耳にしていた。


「敵ヲ倒したダケ? ワカラン……ワカランが、嘘ハ言っテイナイ。オマエタチにとって我等は敵のハズ……敵を倒シニ来タのなら、我等も倒スベキ相手ノハズだ」


「え、いや、別に俺は敵だと思ってないけど? 確かに襲ってきたりすればその成り行きで敵になるけど、今は少なくとも倒すべき敵じゃない」


「敵……ジャない?」


 予想外の言葉返しだったのか、獣牙族の男は目を細めて困惑した表情を見せる。だがすぐさま、その真意を確かめるためか、パルナの胸元で抱きしめられているピッタを指差した。


「気にナッテイタガ、ソコにいる我が同胞ハ、何故共ニ行動シテイル? 我等と人間は相容レヌ存在……敵同士のハズ」


「そりゃ……敵じゃないから」


「ワカラン……ソノ理由がワカランと言っテイル!」


「むしろ、お前たちは何をもって敵としてるの? 自分たちと違うから敵なのか? 自分たちと同じだったら仲間なのか? それが違うことくらいわかるだろう?」


 鏡の言葉に思い当たる節があるからか、獣牙族のリーダーは押し黙る。少なくとも、人間は敵と認識しているが、獣牙族以外にも味方と思える存在はいる。森に住まう多くの動物たちはそれに該当した。同時に、同じ獣牙族であっても、他の集落に住まうものであれば命のやり取りはないとはいえ、物を巡って争うこともあった。


「なんならピッタは元々お前たち獣牙族と一緒にいたんだ。お前たちとは別の集まりにだけどな。でもピッタは捨てられた、自分たちにとってピッタの存在が都合悪かったからだ。でも俺たちはそんなことなかったし、むしろピッタは良い子だし凄い頼りになる。だから今は頼れる味方だ」


 はっきりと告げられて気恥ずかしくなったのか、ピッタは嬉しそうににへら笑いを浮かべると、そのまま誤魔化すようにパルナの胸元に顔をうずめる。


 獣牙族のリーダーは逆に、同族の仲間を捨てたという事実が信じられなかったのか、目を見開いてそれが真実か否かを探った。だが、五感を研ぎ澄ましても鏡に嘘を言っている節はなく、思わず額に汗を浮かべる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間と魔族とのやり取りをそのまま繰り返しているような・・・・
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