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LV999の村人  作者: 星月子猫
第四部
181/441

覚えていますか?-3

 それは逆に、この状況でも呑気にそんな言い合いが出来るほどの心の余裕があることにも繋がった。

「それで……鏡殿、何か策があるのだろう? そろそろ話してはくれないか?」


 それを察してメノウは、這い蹲る鏡の傍へと寄って声をかける。やはり策があるのか、鏡は地面に這い蹲りながら鼻でふっと笑うと、そのまま親指を立てて見せた。


「大丈夫、あいつらは放っておいても攻撃なんてしてこないよ。もしその気があるならとっくの昔に攻撃してきてるはずだ。警戒してるんだろ。このままここで寝てても警戒するだけで何もしてこねえよ。向こうも痛い目にはあいたくないだろうからな」


 自分たちに手も足も出なかった小型のメシアを倒してしまった存在を前に、襲い掛かるという選択肢は無謀。その程度の考えであれば、獣牙族であったとしても抱くだろうと鏡は判断していた。このまま少しずつ自分の体力をもとに戻し、回復しきったところで出発すればいい、そう考えていた。


「ならば、こちらから攻撃を仕掛けなければ、襲われる心配はない……か。なるほど」


「って、ちょ、メノウさん? 何してるの?」


 だが、鏡の言葉に納得すると、メノウは鏡とティナの身体を突如担ぎ上げる。そのまま、ノアのある方角へと視線を向け、歩き始めた。


「ちょ、ちょっとメノウさん! 何をしてるんですか!」


「なるほど……これが荷馬車に乗せられて売られていくだけの伝説の子牛の気分か」


 あまりにも唐突な行動に、ティナはぐったりしながらも声を張り上げ、鏡はわけのわからないことを口走る。


「メノウちゃん、ここは鏡ちゃんとティナちゃんが回復してから動いた方が得策だわ」


「そうです。万が一のことがあります……落ち着かない状況ですが、今はここで休むべきです」


 さすがに危険だと思ったのか、包囲する獣牙族の元へ向かおうとするメノウを見て、慌ててタカコとクルルが止めに入る。だがそれでも、メノウの歩みは止まらなかった。


「万が一はたとえここで休んでいたとしても起きることだ。今は警戒しているだけかもしれないが、警戒を解いて襲い掛かって来ない保証はない。ならば、警戒をしている今の内にこの危険地帯から抜けるべきだ。向こうも、自分たちの住処に危険な人物が滞在しているからこうして包囲しているのであろうし、いなくなってくれるのであれば、向こうにとっても好都合であろう?」


 メノウは、冷静だった。周囲を包囲されているにも関わらず、いつもの鏡のように迷いなく、至って冷静にすました表情で淡々と言葉を吐いた。だが、そこに心の余裕はないように感じた。まるで何かに追われているかのように、逃げるようにメノウは歩き続けた。だが、その可能性も充分にあったから、タカコとクルルもそれ以上何も言わず、後に続いた。


「……何を焦っている?」


 睨みつけると同時に放たれたレックスの一言に、メノウは一瞬歩を止める。


 レックスは、なんだかんだでメノウのことをよく理解していた。かつて敵であった魔族と共に行動する過程で、レックスは共に行動していける仲間なのかと、メノウとアリスをよく観察していたからだ。


 いつもであれば、メノウは自分から提案はせず、周りに合わせるか、周りから出た意見を考慮して見解を述べる。自分の考えを無理やり押し通して実行に移すようなことはしない。


「お前は……アースに来てから何かがおかしい。何を隠している?」


 その核心がレックスにはあった。いつもであれば率先して皆を守ろうと戦闘態勢にはいるメノウが何もしようとはせず、ティナがいつもするようなサポートに徹している。それだけでも不自然なのに、先程の小型のメシアとの戦闘を終えて、メノウからさらにどこか焦っているかのような切羽詰まった雰囲気を感じるようになった。


何かを隠している。そう考えるしかなかった。


「あ……あのね、レックスさん」


「何も隠してなどいないさレックス殿」


 もう隠せない。そう思ったアリスは話そうとするが、それを遮るかのようにメノウが笑みを浮かべながら答え返す。


 ばらしたくはなかった。皆の助けになるためにこの世界に来たのに、気を遣われて足手まといになるのが、考えられる最悪な状況だとメノウは判断していたから。だからこそ、何も打ち合わせいないにも関わらず、メノウとアリスは真実を告げずにいる。


 そして今更、それを崩そうとも思わなかった。アースクリアを救うのに、自分たちの身体を心配している暇なんてないはずだったから。


「私はこれが最善だと思ったからそうしているだけだ。何より鏡殿が止めないのが良い証拠だろう? もし私のこのやり方が本当に無謀であるなら、とっくの昔に鏡殿が止めているさ」


 鏡も、最初からその選択も考慮に入れていたのか止めようとはせず、メノウに身を預けて揺られている。だがどこか、メノウらしからぬ行動が少し気になり、目を細めた。


「どっちにしろ絶体絶命な状況には変わりないからな……もし大丈夫だとタカを括って襲われれば終わりだし、それなら今警戒してくれている間に逃げるのは間違いじゃない……うぷ、ちょ、メノウ、もうちょっと揺れを抑えて、気持ち悪い」


「ぬ、悪いな鏡殿、これでいいか?」


「うげぇぇぇええ! ちょっとメノウさん! 今度はこっちの揺れが激しくなってます!」


 ティナと鏡の掛け合いにより、切羽詰まった状況が一気に解消され、三人はわちゃわちゃ文句を言いながらも、アースクリアにいた頃と何も変わらない和気あいあいとした雰囲気を纏いながら前へと進んで行く。


 そんな光景を前にして、納得はしていない様子だったが、レックスは仕方がないとでも言うかのように溜息を吐いて駆け出し、メノウを追い越して先頭へ立った。


「そんな状態でどうやって師匠とティナを守るつもりだ? 僕が先陣をきるからその後に続け」


「……すまない。ありがとうレックス殿」


 心底嬉しそうな笑みを浮かべて吐かれたメノウの言葉を聞いて、レックスは少しだけ満足すると、ふんっと鼻息を荒くして獣牙族の元へと歩き始めた。


「……無理はするな。辛かったらすぐに僕たちを頼れ」


 それだけ付け足して。

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