何一つ、諦めたくないから-6
「制限を解除した! 今だ皆!」
その瞬間、事前に話を受けていた通りにアリス達は行動を開始する。
メノウ、アリス、クルルの魔法によって上空にいる小型のメシアのいる位置を風、氷、重力を駆使して固定する。直後、流れるような動作でレックスは深く腰を落として剣を構えた。
それを見たタカコはすぐさま両腕にティナとパルナを抱え、朧丸に頭に乗るように指示を出すと、レックスの元へと駆け始める。タカコが接近した瞬間、レックスは先程までの戦闘中にスキル『リベンジ』によって溜めていた力を全て解放させ、タカコというボールを打ち返すかのようにメシアのいる遥か上空に向かって剣を振り抜いた。
対するタカコはパルナの硬化魔法と、ティナのスキルによって守られた頑丈な身体でレックスの剣を足で受け止めると、振り抜かれた衝撃をその身に受けて銃弾を発射するかのごとく遥か上空へと舞い上がる。
「っつ⁉」
その瞬間、タカコは目を見開いて冷や汗を垂らした。
攻撃を放ったばかりで身動きがとれなくなっているはずの遥か上空に滞在するメシアが、もう片腕に持っていた魔力銃器をこちらに向けていたからだ。不安は的中し、小型のメシアは再び魔力弾を発射させようと、銃口に眩い光を灯らせ始める。
「ま……間に合わない⁉」
眩い光はタカコが小型のメシアに接触するよりも早く収束し、瞬時に撃ち放たれる。
だが、その瞬間、タカコ達を追い抜くほどの勢いのある魔力弾が地上から飛び出し、メシアが持つ魔力銃器に命中する。すると発射された魔力弾はタカコたちにではなく、遥か東の山に向けられて発射された。
「……貸し一つだからな」
ふと視線を下に向けると、メリーが座るようにして敵から奪い取った巨大な魔力銃器を上空に構えていた。「見直した」とでもいわんばかりの笑みをタカコとパルナが浮かべると、一同は再び向かっている先である小型のメシアへと視線を向ける。
「鏡ちゃん! ティナちゃんを!」
「まかっせ……とけぇえ!」
先に遥か上空に向かって飛んでいた鏡は、下から跳んできたタカコとすれ違う間際、朧丸によって作られた足場を利用して、追いかけるように更に上空へと跳びたった。
そして、タカコに追い付くと同時に鏡はティナの身体を受け止め、持てる全力の力を込めて、更にタカコを上空へと蹴り上げる。
音速を超える速度で一直線に小型のメシアの元へとタカコは向かう。そして、タカコの突き上げられた拳が、小型のメシアの頭部に触れた瞬間、パルナはタカコの拳に灼熱の炎を纏わせた。
「今です……!」
更にその瞬間、その衝撃を倍加させるスキル『英傑の陽炎』をクルルが地上からタイミングを見計らって発動させる。
仲間のスキルを結集して完成したどんな敵をも貫く絶対破壊の一撃。
反撃の狼煙
音はなかった、タカコはそのまま一直線にな凄まじい速度で飛び去ると、まるで存在そのものを消滅させるかのように小型のメシアの頭から肩の位置までがえぐりとられる。直後、小型のメシアは大きな爆発を巻き起こして落下し、地面へと転がった。
「……逃げられた?」
それから、遥か上空に打ち上げられたタカコが地上へと戻るまでに数分の時を要した。パルナは風魔法を駆使して飛び上がる勢いを殺すと、今度は凄まじい速度で落下し、かつて魔王が風魔法を駆使して受け止めた時と同じ要領で着地する。
それから、先に倒した小型のメシアの元へと駆け寄ると、倒した小型のメシアの操縦席と思われる部分は既に開かれており、中には確かに人がいた痕跡が残っていた。
「追いかける?」
「いや、俺を見て、俺」
そう言ってきた鏡は、制限解除による反動でティナと一緒に地面へと這い蹲っていた。