表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
174/441

何一つ、諦めたくないから-4

「無茶させすぎたわね……反省だわ」


 あまりの無敵加減に、少しばかりハイになっていたタカコがしゅんっとした表情で顔を俯かせる。そんなタカコを励ますように鏡が背中をバンバンと叩くと「結果オーライだ」と言って、そのまま破壊して残骸となった小型のメシアの傍へと移動する。


「ティナには申し訳ないけど、おかげで破壊できたからな、これでようやく中に誰が入ってるか拝むことが出来る。中に入ってるやつから情報を引き出せば……また一歩、世界を救うのに近付けるはずだ」


 そう言って鏡は意気揚々に小型メシアの心臓に位置するハッチへと手をかける。恐らく中に誰かが入っているとすれば、そこしかないと感じたからだ。


「……ッ⁉」


 だがその時、鏡は冷や汗を浮かばせるほどの殺気に襲われ、思わずハッチから手を放した。


「鏡さん! 危ない……逃げて!」


 その叫びを受けて、鏡は小型のメシアへと向けていた視線を殺気が放たれた前方の上空へと移す。そこには、先程まではいなかったはずの小型のメシアが、まるで大砲かのような巨大な魔力銃器をこちらへと向け、背中から青色の光を噴出して宙へと滞在していた。


 その見た目は、明らかに先程まで戦っていた小型のメシアとは異なっていた。小型のメシアほどの重厚な鎧は身につけておらず、まるで甲冑かのようなスリムな漆黒の鎧を身に纏い、だがそれとは対照的に暴力的なまでに巨大で銃身の長い魔力銃器を両手に握り、そこに存在した。


「っつぁ⁉」


 鏡は全身を駆け巡る悪寒を感じると共に、すぐさま真上に向かって跳ね上がる。


 その直後、鏡が立っていた場所は、倒れていた小型のメシアもろとも、新たに現れた小型のメシアが放った魔力銃器の弾丸により、跡形もなくえぐりとられるように消滅した。


「あんなのに当たったら……⁉」


 間一髪で回避できたことに鏡は安堵しながらも、表情を強張らせた。近付いていることに一切気付けなかったからだ。音もなくそれは瞬時に近くに現れた。まるで喰人族のように。


「ご主人! 逃げるでござる!」


 朧丸の必死な叫びが、鏡の頭の上で鳴り響く。


 目を疑う光景に、鏡は思わず硬直する。緊急回避のために跳ね上がった鏡は、かなり上空、それも大砲を撃ちだしたかのような速度で舞い上がった。だが、それに追いつくようにして新たに現れた小型のメシアも飛んできたからだ。


「……嘘だろ?」


 さっきまで戦っていた小型のメシアは偽物だったかのように、その小型のメシアは速かった。すぐさま鏡は朧丸に足場を作るように指示を出し、上空を蹴って逃げようとするが、跳躍する鏡の速度に合わせて小型のメシアがついて飛行する。ピッタリとくっついて動く小型のメシアは、素早く空中で一回転すると、その勢いを足部分に乗せて、まるで動き回るハエを叩き落とすかのように勢いよく鏡を地面へと叩き落とした。


 そのまま廃ビルの屋上へと背中から突っ込んだ鏡は、なんとか必死に朧丸を守ろうと胸元に移動させると、コンクリートで作られた床に自分の背中を打ち付けさせ、そのまま次々にコンクリートを破るように膨大な物理的なダメージをその身に受けながら廃ビルの最下層にまで叩きつけられる。


 内臓が破裂するかのような衝撃をその身に受け、鏡はたまらず口元から血反吐を周囲へとぶちまけた。あれだけの機動力を持ちながら、力はかつてサルマリアで受けたメシアの一撃となんら変わらない威力が持っていることに、脅威を感じながら。


「こんな……ことって」


「無事でござるかご主人! 返事をするでござるよご主人!」


「だい……じょうぶだ。まだ死んじゃいない。それより……移動するぞ。ここにいたんじゃ追撃を受ける。それに、皆が心配だ」


 だが、想像していたよりも受けたダメージが大きかったのか鏡は更に血反吐をその場にぶちまけると、立っていられないのか地面へと倒れた。


「鏡ちゃん!」


 その瞬間、タカコの叫び声が耳に響くと共に、穴が空いて空が見えるようになった天井が突如眩い光に包まれる。離れていてもわかるほどに皮膚がピりつく熱量が目の前に接近した瞬間、まるでタックルをするかのようにタカコが横から割って入り、そのまま吹き飛ばされるように二人は一緒に廃ビルの外へと飛び出した。


「間一髪ね」


「タカコちゃん……悪い、助かった」


 タカコに肩を借りて立ち上がり、周囲を見渡すと、さきほどまで自分がいた十五階層はあった廃ビルは、一瞬のうちに平地となって消え去っていた。粉々に消滅し、粉塵が煙となって周囲に巻き散っている。


「今なら向こうも死んだと思ってくれてるはずよ。この隙に一旦引きましょう、鏡ちゃんが囮になってくれたおかげで皆今頃逃げているはずだから」


「いや……駄目だ。俺達は顔を見られた。逃げるって選択肢はない……いずれ追ってきてタカコちゃんたちも殺されるはずだ。今まで、この光景をレジスタンスに見えないように隠し続けていたなら……尚更だ」

「ならどうするの?」


「諦めねえよ、やっとここまで来たんだ。考えがある……でもチャンスは一度だけだ」


「どういうこと?」


「とにかく安全な場所に隠れて、皆を呼び集めよう。大丈夫……多分今は追ってこない」





 それから、圧倒的な力を前に愕然としながらも身を隠した鏡たちはすぐさま朧丸を偵察に向かわせた。鏡の読みは当たっていた。新たに現れた小型のメシアは、逃げ惑うタカコたちを追おうとはせず、まず先に、鏡たちが破壊してしまった小型のメシアたちを、順に中にいるであろう者ともに消滅させていっていた。恐らくは証拠を完全に隠滅するために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ