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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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何一つ、諦めたくないから-2

 小型メシアの唯一の弱点は機動力に欠けること、それ故に、小型メシアと対峙するにはある一定以上の速さが必要であり、。そのため、その速さを自力で出すことが出来ないティナ、パルナ、アリスの三人は、速さを充分備えるものと組んで一緒に行動していた。


 ティナはタカコと、パルナはレックスと、アリスはメノウと共に行動し、小型メシアが繰り出すとてつもない威力の魔力弾の雨をかいくぐって攻撃を仕掛けるチャンスを窺っていた。


「無事ですか鏡さん⁉」


 その最中、廃ビルの裏側に隠れるようにして偶然鏡とクルルが同じ場所へと降り立つ。


 鏡はピッタと朧丸と組み、クルルは単身で行動していた。というのも、クルルはティナ、アリス、パルナに比べてレベルが高く、更に賢者の役割を持って生まれたため、身体能力の伸びも大きかったからだ。


 さすがにレックスやメノウやタカコのように誰かを担いで移動するほどの力は持ち合わせてないが、小型メシアを相手に一人で行動するには充分な身体能力を得ていた。


「ああ大丈夫だ。それより、随分強くなったじゃないか、まさかあのメノウに負けず劣らずの身体能力まで身につけてるんだからな。これで王女ってのがまた凄い話だよ」


「レベル200には届きませんでしたが、レベル172にまであげましたからね」

「お、じゃあスキルも覚えたのか?」


「はい……でも、皆さんと違って使いどころの難しいスキルですが」


 クルルも、パルナやティナと同じく支援系のスキルを得ていた。


 それは、ティナの衝撃を防ぐ力とは相反する能力。



スキル……英傑の陽炎


効果……意識させた物理的な衝撃の威力を己が魔力と引き換えに増幅させる



 タイミングを合わせなければ効果をなさず、また、自分の魔力を著しく消耗するため使いどころが難しいスキル。だが、そんなスキルでも、鏡にとっては反則的な能力に思えた。


「せこくない?」


「あなたに言われたくありません」


 鏡の言葉にクルルは真顔で答え返した。


 その直後、ピッタが何か熱源のようなものが接近しているのを感じ取り、「お父!」と合図するかのように叫ぶ。すぐさま鏡は呼応するかのようにクルルの身体をがっしりと掴むと、勢いよくその場から飛び上がった。


 すると次の瞬間、自分たちが先程まで立っていた場所に大きな爆発が巻き起こり、周囲一帯を粉微塵に焼き尽くされる。その光景を見届けた後、鏡は廃墟の壁を足場に更に跳躍し、改めて小型メシアとの距離を離すと再び物陰に隠れて呼吸を整えた。


「居場所が筒抜けだな……!」


「……助かりました。ありがとうピッタちゃん」


 咄嗟の危険報告に命を救われたと感じたからか、クルルは微笑を浮かべてピッタの頭を優しく撫でた。対するピッタも悪くないのか、どこか嬉しそうに微妙に口元を緩ませる。


「相も変わらず反則的な古代兵器だな、メシアほどじゃないにしろ……厄介極まりない」


「ところで鏡さんはどうしてこの場所にあの連中が来るってわかったんですか?」


「ん? ああ、朧丸は自分が作られた記憶があるって言っただろ? その時に、次に襲撃する地点が描かれた地図を見たらしくてな」


 そういうと飛び出すように朧丸が鏡の頭から飛び出し「しかとこの目で見たでござるよ」とお任せあれと言わんばかりに腕を組みながら頷く。あまりの登場の仕方に「俺の頭は鳥の巣か何かですか?」と鏡がツッコむが、悠長な会話をしている暇もなく、クルルはそのまま言葉を続ける。


「朧丸はどうして捨てられてたの?」


「捨てられていたわけではないでござるよ。逃げてきたのでござる。いや……殺されたというべきでござるか……むぅ」


 朧丸が生まれた場所がどこかはわからない。だが、自分がある人物によってある施設で生まれたというのだけは理解出来た。物心ついた時から、身体を拘束された状態で手術台のような場所へと毎日乗せられ、まるで実験動物かのようにずっと扱われてきたからだ。


 そんなある日、自分に異様な力が身についているのに気付いた。身体の浮遊、透明化、念話等、今まで出来なかったことが突如出来るようになったのだ。その力を使って朧丸は逃げ出した。


 だが逃げられなかった。最後に「お前は欠陥品だ」と言われ、身体を散々痛めつけられたあげく外にほうりだされたのは記憶に新しい。力を使う体力も残されておらず、身動きの取れない状態で外に放置されたのは、捨てられたか、もしくはモンスターの餌とされたのかどちらかしか考えられなかった。だが、そこに偶然通りかかったのは鏡だった。


「ご主人には感謝してもしきれないでござるよ」


「いいよいいよ、それより……つぁ!?」


 感慨深く朧丸はつぶやくが、その瞬間再び小型メシアによる追撃を放たれ、先程と同じように二人は回避する。


 あまりにも同じことの繰り返しに「そろそろ反撃しないとな」と鏡は焦った表情でつぶやくと、ひっついていたピッタを両手でひょいっと持ち上げると、そのままクルルの背中にぺたっとくっつけた。


「試したいことがあるんだ。あの小型メシアには物理はほぼ効かないけど、魔法ならいけるかもしれない。だからクルル、試しに今一番使える強力な魔法を撃ちこんで見てくれ、一応安全のためにピッタを傍につける。ほら、ピッタならそんなに重くないし邪魔にならないから」


 その言葉にピッタは今にも泣きそうな表情を浮かべ、「ピッタが嫌いになったです?」と訴えかけるが、鏡はすかさず「俺がお前のお父さんなら、クルルはお前のお姉ちゃんだ」と言って親指を立てて返した。


 すると理解出来たのかピッタはすぐに泣きそうな表情を元に戻すとクルルの顔をじっと見つめ、「ピッタの……家族です?」と問いかける。するとクルルは包み込むような優しい笑みで「お、お母さんでも……い、いいんですよぉ?」と言うが、ピッタは既に姉と認識したのか、「お姉」とつぶやいてガシッと力強くクルルの背中にひっついた。


「それじゃあ、俺と朧丸が前線に立って注意を引くから、その隙に頼む! ……行くぞ!」


 その瞬間、鏡は大砲を撃ちだすかのような衝撃をその場に残し、数体の小型メシアが密集する場所へと接近した。ある程度接近したところで小型メシアの真上を通りすぎるように跳躍すると、朧丸の力を使って足場を作り出し、かく乱するかのように小型メシアたちの周囲を動き回った。


「よぉ! 顔は見せるのは初めてか?」


 鏡の挑発的な行動は狙い通り効果を示し、数体の小型メシアは鏡に向かって照準を定めて魔力弾を雨のように撃ち放つ。だが、鏡の驚異的な身体能力を前にそれが当たることは一度もなく、その間にクルルは己の魔力を最大限にまで高め、今自分が使える最大級の魔法を発動する。


 直後、小型メシアたちの足元に渦巻くようにして突風が巻き起こる。竜巻のようにも見えるそれは小型メシアを全て飲み込むと電撃を迸らせ始めた。


「効いてる……効いてるぞ!」


 そのまま徐々に風の勢いと、流れる電撃は強まり、気付けば小型メシアたちが集まっていた場所は、竜巻のように見える電撃の塊によって包み込まれていた。身体を引き裂かれるような風と共に全方向から電撃が襲い掛かる恐ろしいその光景に、思わず鏡は息を呑んだ。

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