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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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それでもただ、前へ-11

「ていうか作られたってなんだよ……? いや、待ってくれよ……じゃあ、ああやって今回収されてるってことは、異種族も元は誰かが作った存在で……ああやって定期的に経過を見ては進化を促しているってことか?」


 むしろ、そう考えるしかなかった。遥か昔に異種族は存在していないはずだったからだ。少なくとも、人類だけが繁栄した平和な世界が確かにそこにあった。だが今この世界には、本来そこにいなかったはずの存在がごろごろと転がっている。


 だが意外にも、全て気付いてそうな鏡の答えは「わからん」だった。


「言っただろ? 臆測にしかすぎないって。俺が知り得たのはああやって異種族を回収しては進化させて外に排出してるやつがいるってことくらいだ」


「どうして回収した後排出してるってわかるのですか?」


 そこで素朴な疑問をクルルが投げかける。すると鏡はその質問を待っていたと言わんばかりに自分の拳を見せつけた。


「試したことがあるんだ。この世界にもモンスターがいるだろ? アースクリアだとモンスターは魔族の魔力を吸収したスポーンブロックが生成するけど……この世界にはスポーンブロックも魔族もいない。どっからあいつらが出て来てるのか気になったんだよ、毎日のように異種族やレジスタンスが倒しているのに……なんでいなくならねえんだろってな。だから俺は丸一ヵ月、モンスターだけを対象に狩りを続けた。根絶やしにする勢いでな」


「どうだったの?」


「一切数は減らなかった」


 息を呑みながら問いかけたアリスの問いに、嘘をついてるようには見えない真剣な表情で答え返す。

そして、なんとなく予想はついていたのか、タカコとクルルは悲痛な表情を浮かべて俯いた。


「だから俺は根本から考えることにしたんだ……そもそもこの世界にいるモンスターや異種族はどこから来たのかってな」


「その答えが……あいつらにあるかもしれないってことか?」


 メリーの問いに、鏡は頷いて肯定する。間違いなくモンスターを作っている存在がこの世界にいる。この世界にいる命を元に、ピッタや朧丸のような存在を作り出している存在がいる。今いる異種族も誰かに作られた存在なのかはわからない。それが今、目の前で暴れまわってる連中かどうかはわからない。だがそれでも、鏡が明確な目標を立てて行動する指標にはなりえた。


「馬鹿みたいじゃねえか? いくら倒しても作り出される敵を相手に世界を取り戻すことを夢見て戦い続けるなんて。でも多分……それも目的なんだろうな、進化を促して改良するってことは、それと戦ったって結果が必要なはずなんだ。まるで個性を競わせるかのように、争い続けてお互いを高め合わせるかのように、俺達が戦うよう仕向けてるやつがいる」


「……そんな」


 仮に今目の前の光景を目にしていなければ、メリーも油機も聞く耳を持っていなかっただろう。だが鏡の話が全て本当であるとするなら、鏡の言い分に納得するしかなかった。


 そんなあんまりな現実と、今までの自分達の行動の無駄さ、あわよくば戦闘のデータを取るために利用さえされていたのかもしれない事実に、油機は言葉を詰まらせる。


「しかし口ぶりからするに、かなり前から気付いていたのだろう? あれの中に操縦者がいるのであれば師匠は何故戦って引きずり出して口を割らせないんだ?」


「俺だけじゃあいつらを倒せないから」


 とても想像できなかったのか、鏡の答え返しにレックスは目を見開いて驚愕する。その他にとっても驚愕の事実だったのか、レックスが「馬鹿な……」と言葉を続けようとすると、ティナが取り乱した様子で勢いよく鏡の傍へと駆け寄り言葉を遮る。


「そんなことってありえるんですか⁉ それって鏡さんより強いってことですよね?」


「単純に装甲が厚くて、俺の拳で貫こうと思えば制限解除でもしないと倒せない。一体を倒すのでそれだぜ? あんな複数を相手にしてたら間違いなく殺されるか回収される。だから俺はお前たちが来るのを待ってたんだ」


 慌てふためくティナとは対照的に、鏡は妙に落ち着いていた。落ち着いた様子で、取り乱して腕にしがみついてきたティナの頭をポンっと叩くと、「俺だって無敵超人じゃないんだ。レベルは高くてもただの村人なんだぜ?」と言って苦笑する。


「お前たちがいればあいつらにも勝てる……だから、力を貸してくれ」


「しかし、具体的にどうやって対処すればいいのだ? 鏡殿でも倒せない相手なのであろう?」


 メノウが抱いた疑問を同じように抱いていたのか、クルルとパルナも頷いて鏡に視線を向ける。すると鏡は、「どんな凄い装甲を持っていても、通じる力があるはずだろ?」と言ってタカコを注視する。更に付け足すように「それに、あいつらに魔法が効くかはまだ試したことがないからな」と言ってアリス、メノウ、クルル、パルナにはにかんだ笑顔を見せた。


「力を貸してくれ」


 そして最後に放たれた言葉にメリーと油機を除く全員が納得したように頷き、「今回は師匠の出る幕はないかもしれんぞ?」と、秘策があるかのようにレックスは剣を鞘から抜き取ると、単身崖下へと降りて行った。同意見なのかメノウも鼻で軽く笑うとレックスの後を追う。


 続いてクルルも、「修行の成果……ちゃんと見てくださいね」と言うと崖下へと飛び降り、その後に続いてティナがタカコにしがみついて頷きあうと、跳びはねるように豪快に崖下へと落ちていく。


 最後にアリスが「ボクも強くなったんだから、見ててね鏡さん」とはにかんだ笑顔を浮かべ、そしてパルナが鏡に指を差しながら「ちゃんと見てあげなさいよ?」と睨むように告げると、二人は一緒に崖下へと降りていった。


「随分信頼されてるんだな」


 全員が崖下へ降りたのを確認して、鏡もピッタを担ぎ、朧丸に頭に乗るように促して勢いよく崖下へと落りようとするが、その直前でメリーが声をかけて止める。


「勝ち目あるの? あたしが見る限り……勝てるような相手じゃないよ。装甲もそうだけど内臓されてる魔力量が桁違いなの、機動力はないみたいだけど、搭載してる兵器も厄介なのばかりだよ? 中には追尾機能もある兵器だって……」


「知ってるよ。獣牙族のエースとして何度も戦ってきたからな」


「だったらどうして⁉」


 圧倒的な実力差のある相手に挑もうとするその行動原理が理解できず、油機は思わず声を荒げる。だが、鏡はまるで臆した様子はなく、「あいつらを信じてるってのもある。負ける確率の方が高くても可能性があるなら挑みたいってのもある。でも何より……」真っ直ぐに十数体に及ぶ小型のメシアへと目を向けると、不敵な笑みを浮かべ――、


「諦めたくないから」


 そう言った。

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