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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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それでもただ、前へ-10

「なんだよ……あれ?」


 信じられないといった表情でメリーがつぶやく。


 辿り着いたのは旧渋谷区から南東に位置する場所だった。一同は、荒廃した市街地が一望できる高い崖際で立ち尽くし、ただただ目の前で起こっている非現実に注視し続ける。


 それが何なのかを理解していたメリーと油機は勿論、見たことがないはずのアリスたちも驚愕してみせる。それに見覚えがあったからだ。


「なんであれが……こんなところにあるんだ?」


 爆発音を鳴り響かせていた元凶は鏡の予想通り、荒廃した市街地に隠れ潜んでいた獣牙族を襲っていた。いや、捕獲していた。片腕の射出口から魔力弾にも似た巨大な砲撃を発射し、相手を弱らせたところで片腕から網のようなものを射出して次々に捕まえている。


 それは、全長5mはあるであろう重厚な黒い鋼の鎧を身に纏い、基本は重々しい足取りで二足歩行で動きながらも、臨時の時は青い光を背中から噴出してその見た目の重量感からは考えられないほど機敏に動き回り、金色に輝く鋭い眼光を放っていた。


 それはかつて、アースクリア内に存在する要塞都市、サルマリアを襲った巨大な古代の殲滅兵器、メシアと姿は何ら変わらなかった。全長こそサルマリアを襲撃したメシアほどないとはいえ、その姿形をした黒い存在が眼前に十数体も存在しているという状況に、一同は息を呑まずにはいられなかった。


「あの見た目……どっかで見たことありますよ。メシ……なんでしたっけ」


「ああ、エステラーが魔王様を利用した時に使った兵器……メシアと似ている。あれは、あれは一体何なのだ鏡殿?」


 自分たちに圧倒的な絶望を植え付けたその存在を忘れるわけもなく、メノウとティナは表情を強張らせながらその名を口にする。


「見たまんまだよ。ディグダー……それもレジスタンスが使ってる魔力銃器みたいなのよりずっと強力なディグダーだ。サルマリアで戦ったメシアほど強力じゃないけど……あれに近しい力を持った小型のものって考えればいい」


 何度もその姿を目にしてきたのか、鏡は悲痛に満ちた顔で「詳細なら、俺より多分アース出身の奴の方が知ってるだろうけどな」と、メリーに視線を向けた。


「あれは……古代兵器に分類されるディグダーだ。強力が故に生産に必要な素材も膨大で、資源を集めにくくなった今はどうあがいても作れない代物だ。というより……遥か昔に実物も技術も失われたはずの兵器がどうして……? いやそれよりも、遥か昔に存在した古代兵器は他の異種族に全て壊されたんだ。獣牙族の方が強いはずがあんな遅れをとるのはおかしい……油機!」


 期待通り、目の前に広がる十数体の古代兵器をメリーは説明するが、自分が想像しているものと実際に目の前で動いているものの性質に違和感を抱き、油機に調べるように頼む。


 すると油機は、親指と中指を繋げて円を作り、その中を覗き込むようにして眼前に広がる古代兵器を注視し始めた。


「…………ううん、やっぱりその古代兵器で間違いなさそうだよメリーちゃん。でも……かなり改良されてる……少なくとも獣牙族の力じゃ、あの兵器に傷一つつけられないはずだよ」


「おいおいなんだなんだ? やけに詳しいな、しかも今知った風な口ぶりじゃないか」


 まるで、その仕組みを完全に理解しているかのような口ぶりに、実際に戦ったこともある鏡は素直に驚いてみせる。すると油機は、任せてと言わんばかりにドンっと胸に手を当てて「ふふん」とはにかんだ笑顔を見せた。


「そういうスキルだからね、あたしがアースクリアの出身でありながら、皆の武器やディグダーをメンテナンス出来るのも、この力があるからだよ」



スキル……知見の眼力

効果……物の価値、使い方、成分、特性が一目でわかる。生きている存在には使えない。



「……でも」


 鏡にそのスキルの説明を終えると、気がかりなことがあるのか、再び油機は指で覗き穴を作り、古代兵器へと視線を向ける。


「あれ……操縦するタイプの兵器だよ。中に誰か操縦者がいる」


「そんなことまでわかるのか?」


「うん、物であれば何でもね。それにあれ、自力で再現しようと思っても作りが複雑すぎる……作り方がわかっても今じゃ手に入らない素材も使われてるし、組み立てに細かな機具も必要だよ。そんなのがどうしてこんなところに? そもそも中に誰が? 何の目的で?」


 見れば見るほど不思議でならないのか、油機は事細かに古代兵器を調べようとする。


「お前らが地下施設に籠っている間、あいつらはああして一ヵ月に一回現れては他の異種族を回収してまわってる。レジスタンスが外に出ていないタイミングで必ずな」


「回収してる? 襲ってるじゃなくて?」


「さっきの異種族がどうやって進化しているのかって話の続きだ。異種族は自然に進化しているわけじゃない。ああやって現状のサンプルを回収しては……改良して外に放っている。誰が何の目的でそんなことをしているのかはわからないけどな」


 それを聞いて、何より驚愕した表情を浮かべたのはメリーだった。


「どうしてそんなのがわかるんだ?」


「憶測だけど、朧丸やピッタもそうやって進化した存在だ。少なくとも朧丸は自分が誰かによって作られた存在だって記憶が残っている」


 その瞬間、思い当たる節があるのか、メリーは思わず口を押えて過去の記憶を漁った。過去にレジスタンスが異種族と戦った時、進化しているものと進化していないものが混ざっていることが何度かあった。


 その時は、全てが完全に進化しきっていないものだと考えていたが、仮に今、目の前で起きていることがそうだとするなら色々なことに説明がついた。進化と呼ぶには微妙な能力の変化があった時、逆に退化して元に戻っていたことも何度かあったからだ。


 それから導き出せる答え。


「異種族の……進化を促しているやつがいるってことか?」


 メリー吐いた答えを鏡も想像していたのか、「多分な」と言って小さく頷く。

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