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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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それでもただ、前へ-9

 それから一時間が経過し、一同はようやく地上へと出る。


 天井に作られた出入り口は鍵のある鉄の扉で作られていた。まるで金庫のような重厚な扉を内側から開くと、一同は瓦礫に包まれたどこかの廃屋の中へと出る。そして鏡は全員が出たのを確認すると、扉の鍵を閉め、周囲にあった瓦礫を動かしてその出入り口が見えないようにカモフラージュした。


「一応こっから外だから、全員気を引き締めろよ? この世界の他の種族の強さは本物だからな。特に喰人族とかな」


「こんなところに繋がっていたのか……全然気づかなかった」


 出た場所は、アースが保有する昇降路の場所から少し離れていたが、それでもレジスタンが遠征に出る時はよく通る経路の近くにある廃屋の中だった。


「喰人族に見られていたらどうするつもりだったんだ?」


 瓦礫を運び終えて、手をパンパンと叩きながら満足そうな顔を見せる鏡を睨みつけるかのように、メリーがそう言って問いかける。


「ああ、それなら大丈夫。ピッタは……喰人族の気配や足音も感知するから」


「……どういうことだ? 獣牙族にとって喰人族は天敵のはずだ。獣牙族の五感をもってしても、奴らの気配は探れないはずだろう?」


「……まあ、歩きながら話すよ」


 そう思うのは仕方がない。まるでそう言っているかのように苦笑すると、鏡は廃屋を出て旧渋谷区の方向へと向かって歩き出す。行先を伝えていないながらも、鏡を信用しているのか何も言わずについていこうとする一同を見て、メリーと油機も渋々と後に続いた。


 時は既に深夜と言ってもよい時間で、辺りは暗く月と星からこぼれ出たわずかな光で照らされているだけだった。だが、夜に灯りをつけながら移動するのは、自分の位置を相手に教えるのに等しいため、鏡は灯りをつけずにそんな中を躊躇わずに進んでいく。


 襲われても対処できるよほどの自信があるのか、それとも今進んでいる道には危険がないのか、色々と考えながらもメリーは鏡の後をついていく。


「ピッタが何故か囮の中に入れられたって話はしたよな? その理由が、ピッタを助けて一緒に行動するようになってからすぐにわかった」


 そして、ある程度歩いたところで、鏡は先程のメリーの疑問に答えるように話を始めた。


「ピッタは、普通の獣牙族と違ったんだ」


「獣牙族と違う? どう見ても獣牙族じゃないか」


「見た目はな。でも、獣牙族とは明らかに性質に大きな違いがある。ピッタはな……運動が苦手なんだよ。誰かに手を引いてもらうか、しがみついてないと置いてかれるくらいな」


 現在、アリスに手を引かれて歩くピッタにチラッと視線を向けて鏡はそう言った。


 それを聞いてメリーと油機は困惑した表情を浮かべる。獣牙族は基本女子供といえど、驚異的な身体能力を発揮するからだ。それこそただの人間がどれだけ鍛えても手に入らないほどの圧倒的な身体能力を子供の頃から持ち合わせている。それ故に不可解だった。


「ピッタが囮として使われたのも、ピッタが足手纏いだったからだ。その上、獣牙族にはない力を持ち合わせててきっと気味が悪かったんだろうな」


「でも……親がいるなら、その親が守ってくれるのではないですか?」


 素朴な疑問をクルルは抱く。


「ピッタ……親いないです。昔の記憶もないです……気付いたら獣牙族の群れの中に居て、ずっとついて歩いてたです。それで最後に……じいじたちについて行けって言われて……」


 するとその時のことを思い出してか、ピッタは顔を曇らせた。身体能力もなく、獣牙族の誰とも血縁関係のないピッタがその環境で生きていくには周囲に従う必要があった。その結果、ピッタは都合よく囮として死ぬ道を選ばされた。


「でも、お父が助けてくれたです」


 まるで今は寂しくないとでも言うかのようにアリスの手から離れて鏡の傍へと駆け寄ると、ピッタはガシッと鏡の腕にしがみつく。


「なるほど……でもどうしてピッタちゃんは鏡ちゃんをお父さんって呼んでるの?」


「お父、ピッタを見捨てずに面倒見てくれるです……お父みたいです。だからお父です」


 アリスの時といい、そういうところは面倒見がいいのだなと、タカコはニヤニヤとしながら「ふーん」と鏡に視線を送る。先頭を歩く鏡は、何故だかタカコ以外からも嫌な視線をぶつけられているような気がして振り返らず、なんとも言えないような表情を浮かべながら前を進んだ。


「しかし、獣牙族の中でも特殊な力を持ちながら、記憶もないというのはいささか気になるな。自然に生まれたにしては……都合がよすぎる」


「俺もメノウと同じことを思ったよ……それがきっかけだった。この世界には、何か知らない大きな秘密がある。でもそれに辿り着くには圧倒的に情報が足りなかった。だから俺はこの一年間、レジスタンスを離れてずっと一人で行動してきたんだ」


 何も初めから、鏡はレジスタンスの行動を邪魔し続けていたわけじゃなかった。むしろ最初は同時進行という考え方で、万が一異種族を全て殺すしかない時はその行動で世界を救うつもりでもいた。そんな鏡が一年の間世界を駆け回ってようやく手に入れた情報が気になり、パルナが息を呑みながら「それで……何がわかったのよ?」と声をかける。


「結局、核心的な情報は何も掴めてない。でも……少なくともレジスタンスが他の異種族を倒そうとしているのは無駄だってことだけはわかったよ」


「どういうことだよ……ちゃんと説明しろ」


 自分たちがしてきたことを無駄呼ばわりされ、メリーはムッと表情を歪める。すると腕を組みながらすぐ後ろを睨みながら歩くメリーを見て、鏡は何故か悲し気な表情を浮かべた。


「……他の異種族って、時間が経てば勝手に進化して強くなるだろ? なんでだと思う?」


「はぁ? どういう…………ッ⁉」


 鏡の言葉の意図がわからず、メリーが言葉を続けようとしたその瞬間、一同は瞬時に自分達の向かっている先へと視線を向けて押し黙った。突如、耳を塞ぎたくなるほどの大きな爆発音が響いてきたからだ。


「っつ! もうちょっと早く出るべきだったか」


「ちょっとちょっと何々? というよりあたしたちたはどこに向かってるのよ鏡!」


 爆発音は一度だけでなく、まるで何かと戦っているかのように何度も何度も響いていた。あまりにも唐突な状況の変化に、額に汗を浮かべながらパルナが鏡に問いかける。


「多分だけど……獣牙族の隠れ家」


「はぁ? どういうことよ? 多分って何多分って!」


 曖昧な答え返しをする鏡を問い詰めようとするが、鏡はピッタに自分にしがみつくよう指示を出すと、説明している暇はないとでも言いたげな焦った表情で振り返る。


「とりあえず急ぐぞ! 今を逃せば次のチャンスが訪れるまでに1ヶ月はかかる!」


 そう言うと鏡は、爆発音が鳴り響く先へと駆けて行った。あまりの剣幕に一同も悠長にしている場合ではないと判断し、身体能力の低いメリーとティナをタカコがそれぞれの腕で拾い上げた後、鏡の後を追って走り出した。

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