それでもただ、前へ-8
「信じられるか! 世界を取り戻すために戦いもせず、人間を裏切って邪魔だけをしていたやつのことなんか……!」
「生きてて良かったとは思う。でも、メリーちゃんの言っていることにはあたしも同意だよ。戦わないだけでよかったのに……どうして邪魔なんてしてきたの? あなたが邪魔しなかったらきっと、今よりずっと世界を取り戻すために前進してたはずなのに!」
油機の言葉を鏡は「まあ……そうかもしれないな」と言って認める。それも一つのやり方であるのは鏡も認めていたからだ。
だが、それにはあまりにも犠牲が多く、終わりが見えないのも鏡は理解していた。
「お前らがやっているのは自分たちの領土を主張し合ってるだけのただの戦争だ。俺はそんなのに興味はないし、付き合ってる時間もない」
「そんなのだと……? ただの戦争だと? ふざけるな! 一体……これまでどれだけの同胞たちが死んでいったと思ってる! ……世界を取り戻すために戦ってきたと思ってる⁉」
「おいおい勘違いするなよ。別に戦って亡くなった奴等を侮辱したいわけじゃない。それに俺だってニュアンスはちょっと違うが気持ちはお前らと同じさ、この世界を救いたい。お前たちアースの人間が幸せに暮らせる世界にしてやりたいさ」
「だったらどうして⁉」
「お前らのやり方じゃ……いつまで経っても世界は救われない。不毛なんだよ、殺し合ってるのがそもそも。お前らは違和感を抱かなかったのか?」
言葉の意味は理解できなかった。だが、どこか憐れんだ表情を向ける鏡のその言葉に、何か深い意味が隠れてそうなのを直感的に感じ取り、メリーと油機は顔を見合わせて困惑する。
「何かを……知ったのね?」
だがただ二人、タカコとメノウだけが合点がいったかのように頷いていた。
「ああ、気付くのにすっげぇ時間が掛かったけどな。確信もなかったから、レジスタンスの連中を説得できそうになかったし、ある程度わかった頃にはエースとして敵対してた俺の話しを聞く耳なんてない状態だったし……何より、俺一人じゃ無理だった。だから待ってたんだよ、お前たちが来るのを」
そう言うと「遅いぞお前ら」と鏡は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。それを見て一同は、鏡という存在とようやく合流することが出来たのだなと実感し、それぞれ笑みを返した。
お互い頷きあったところで「じゃ、そろそろ行きますか」と切り出し、逃げないようにメリーをタカコに、油機をメノウに預けると、鏡はテント内のノア施設内の壁際に位置する場所に移動する。そして、さも当たり前かのように「ほい」とそこにかけてあった布地を剥がすと、そこにはどこかに繋がっているであろう大きな空洞があった。
「壁際にテントを張ったのはそういうことだったのか」
「ほら、ここの昇降路って権限がないと使えないじゃん? だから穴を掘りに掘りまくって無理やりこの地下施設にまで繋げた。すっげぇえええええ大変だった。正直過去の穴掘り経験がなかったら諦めてたと思う」
かつて、ダークドラゴンに会うために鏡が強引に穴を掘ったのを間近で見ていたメノウは、「懐かしい話だな」と微笑する。
「ちょ、ちょっと! ここからモンスターや他の異種族が入ってきたらどうするのさ!」
興味津々に空洞へと近付くアリスたちとは対照的に、いつの間にか作られていた外への出入り口に危機感を感じ、油機は焦った様子で叫んだ。
「大丈夫だって、ちゃんとばれないようにしてるし、絶対に入れないようにドアとかも設置してるからさ。というわけでずっとここから出入りして、ここで生活してました」
何も心配いらないとでも言いたげな鏡の堂々とした態度に、油機は呆れ果てた顔を見せる。その顔を見て「まあまあ、そのおかげで色々気付けたことがあるからさ」というと、空洞の前へと移動して突如真剣な顔つきへと変化した。
「ついてこい、二人にも教えるからさ。仲間は多い方がいい」
「それを知ったところで、私は絶対にお前の味方になんかならないぞ? お前は敵だ」
「敵ねぇ……まあ、見たらわかるさ」
空洞の中を一直線に進むと広い空間へと出た。そこからの道は徐々に斜線上に地上に向かっており、一同はひたすら上り続けた。途中、最初に訪れた広い空間のような場所が多々あり、アースの人間であるメリーの体力に合わせて休憩を何度か挟みながら地上へと向かう。
進んでいくと道が枝分かれしている場所が何度もあり、「万が一侵入されても絶対辿り着けないようにカモフラージュで掘った」という鏡に対し、あまりにも複雑なその内部構造から思わずパルナが「あんたは蟻か」と言うほどだった。