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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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それでもただ、前へ-6

「魔力銃器を向けられてるのに普通に動くなよ! というよりドア閉めるな!」


「だって別に撃たれてもどうにでもなるし」


 すぐさま顔を真っ赤にしながらメリーは再びドアを開けるが、それでも鏡に慌てた様子はなく、傍にいたピッタも落ち着いた様子でもらってきた配給食をもぐもぐと食べていた。


 あまりの危機感のなさに、メリーは思わず歯ぎしりして再び魔力銃器を鏡に突き付ける。


「随分私も舐められたもんだな、この距離で私が狙いを外すとでも?」


「逆に聞くけど話を聞いてたなら俺がなんなのかくらいもうわかってるんだろ? いつも背負ってる長物ならともかく、そんな小銃の弾が当たって死ぬような奴だと思うのか? メリーさんよ」


「……私の名前、憶えていたんだな」


 言葉通り、なんとかなるとは悔しくも思っていなかったメリーは溜息を吐きながらも、魔力銃器を降ろす。


「まあな、なんだかんだでしょっちゅう会ってるしな」


「しょっちゅう会ってるじゃ……ないだろ!」


 メリーは、アースの外にいる異種族に向けるような憎しみの籠った顔で鏡を睨みつける。メリーが言わんとしていることを理解出来たのか、鏡も何も言わず視線だけを合わせ続けた。


「ちょ、ちょっと待ってよ、ちゃんと確認させて……あなたってあの……がっかり英雄で村人の……えっと、鏡さんだよね⁉ 実は生きていて、しかも私たちを散々邪魔してきたエースで……って、じゃあタカコさんが言ってた鏡さんのレベルが999っていうのも? うぇぇ……まだ信じられない!」


 その隣に立っていた油機が、空気を断ち切るようにわなわなと震えながら鏡を指差した。


「今日現れた獣牙族のエースの力から考えれば、嘘か本当かは言わなくてもわかるでしょ?」


 むしろ、鏡でなければ頭を悩まされていたところだったと、タカコは少し安堵する。自分たちの手に負えない相手を前に、世界を救う算段なんてとてもじゃないが出来なかったから。


 するとそこで、呆れながらもほっと一息をつくタカコの肩を押しのけてレックスが笑みを浮かべながらテントの中へと顔を覗き込ませる。


「ッふ……変わらないな師匠。少し安心したぞ? 考えなしに行動しているところとかな」


 そして、入るなり安心したかのように鼻息を漏らし、そう言った。


「お前は結構変わったみたいだな。雰囲気もそうだが……そこそこ強くなったか? チクビ」


「あんたは僕を呼ぶときレックスだっただろ! しれっとそっちで呼ぶな!」


一瞬、それが誰なのか理解できなかったのか鏡は硬直するが、すぐに理解すると手をポンッと叩いた。相変わらずのキレのある答え返しに懐かしさを感じたのか、鏡も微笑する。


「鏡ちゃん……どうせ会いに来るならもうちょっと考えてからきたらどうなの? メリーちゃんたちにばれたら色々とまずいんじゃないの?」


「本当よ、久しぶりにあったと思ったら相変わらずの考えなしね……アリスたちがあんたを探しに来てるんだから、そりゃ後からあたしたちが来ることくらいわかるでしょ? メノウとティナも、悠長に会話なんかして何やってるのよ……」


 レックスがテントの中に入ってメノウの隣に座ると、続いてタカコとパルナも中へと入り、ティナとクルルの間に「はいはい詰めて詰めて」と割って入って座り込む。


「せっま」


 あまりの狭さに鏡がそうぼやく。元々そんなに大きなテントでもなく、アリスたちが来た段階で既に狭苦しい状態だったテント内は、更に大人が三名が加わったことによりきつきつの状態になっていた。


「ていうかお前ら、よくここを見つけられたな」


「鏡ちゃんたちはフードマントを被ってたから印象に残りにくいけど、アリスちゃんたちは見た目も服装も目立つから、色んな人の協力でここまで辿り着いたわ」


 タカコの説明を聞いて鏡は隣に座るアリス、クルル、ティナに視線を向ける。色とりどりの髪色は確かに人々の印象に残りやすいとなと鏡は「なるほど」と納得した。


「ていうか……ピッタさん何で近付いてるって教えてくれなかったの?」


「さっきと同じでお父のお仲間さんだと思ってた……です」


 鏡がチラッとピッタに視線を送ると、ピッタは怒られたと勘違いしたのか身体をびくつかせ、しょぼんと落ち込んだ表情を見せる。あまりの落ち込みように鏡は「いや、まあ半分は仲間だったから正解だけどね?」と、励ますかのように言葉をかける。


 するとその様子を見たティナが「うわぁ……ロリコン」と顔をひきつらせ、更にどこか面白くなさそうな表情でアリスが頬を膨らませた。


「あら鏡ちゃん、いつの間に父親になったの?」


「へぇー……あんたも結構やるじゃない。そういうの全然興味ないと思ってたけど」


「そうですよ! それに結局まだどうしてその子が鏡さんのことをお父さんと言っているのか聞かせてもらえてません! 今すぐ教えてください!」


 そんな鏡に追い打ちをかけるようにどこか面白半分でからかうかのようにタカコが、意外とでも言いたげに感心したかのようにパルナが、どこか必死に取り乱したクルルがそれぞれ言葉をかけるが――、


「その必要は……ない!」


 その問いかけを全て遮るかのような声量でメリーは叫び散らし、腰元のポーチから小型のディグダーを取り出す。問いかけるまでもなく、それが他のレジスタンスの仲間にこの場所を知らせるものであると理解出来た。今この場で出すとしたら、それ以外考えられなかったから。


「まさか生きてて、しかも人間であるはずのあんたが獣牙族のエースで……人類を裏切っていたなんてな。なあ、前のせいで……今までどれだけの仲間が死んだか知っているか?」


「お前らの仲間が死んだのは……俺のせいじゃないはずだけど?」


「ふざけるな! お前が邪魔したせいで、何も成果をあげられず、多くの仲間が無駄に命を散らしたんだぞ⁉ 今日だって…………お前が邪魔したせいで!」


 その時の悔しさがひしひしと伝わってくるかのようなメリーの剣幕した物言いに、再びテント内は沈黙に包まれる。


「仮に、俺が邪魔しなかったら……そいつらは生きて帰って来れたのか?」


「それでも! お前が邪魔しなければ成果を出して死ねた! 名誉のある死を遂げられたはずなんだ!」


 仮に、鏡が邪魔しなければ獣牙族は今よりも数が少なくなっていたかもしれない。逆に、レジスタンスが壊滅的なダメージを受けていたかもしれない。だが結果によっては、今日死んだレジスタンスの構成員も、死なずに済んだかもしれない。


 それ故に死んでしまった命に対して、鏡も何も思っていないわけじゃないのか、メリーの憎しみの籠った鋭い眼に視線を一度合わせると瞼を閉ざし、「……そうか」と感慨深くつぶやいた。

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