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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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それでもただ、前へ-4

 狭いテントの中、もらってきた食事の入った器を中央に置き、それを囲うようにしてフードマントを被った幼い少女が落ち着いた様子でコップを持って座り、その反対側にアリスを羽交い絞めにして座る鏡の姿があった。


「わお、いっぱい来た」


「……鏡殿なのだな?」


「俺じゃなかったら誰なんだよ。久しぶりだなメノウ、クルル,、ティナ。とりあえず早く中に入ってドア閉めてくれ、ここがばれると色々まずいから」


 メノウ、クルル、ティナの三人はお互い見合って頷きあうと、指示に従ってテントの中へと入り、狭いテント内でなんとか座る場所を見つけて座り込む。


「あの……その、色々聞きたいことがあるのですが、何をしているんですか?」


 そして、座ると同時に、クルルが正座をした状態で恐る恐る手を挙げて鏡に問いかける。


「何って……見ての通りご飯食おうとしてたんだけど、この娘が俺達の居場所を見つけちゃったから口封じをな。ここをばらされても困るから口を塞いで暴れないようにしてたんだけど……、……ん? あれ? そう言えばメノウさん、お前さっきこの娘アリスとか言わなかった」


「その娘……アリスちゃんですよ?」


「鏡殿……アリス様の顔を忘れたのか?」


 先程からずっと顔を見続けてくるアリスに鏡は視線を向ける。アリスの視線に怯えはなく、むしろ親しさの籠った羨望の眼差しを向けており、鏡は思わず「え? まじで?」とつぶやく。


「え? でも、え? いやいや、え? アリスってもっと小さかっただろ? 俺が覚えている大きさでこれくらいだったはずだ」


 すると鏡はアリスの口元から手を離し、親指と人差し指を近付けて豆粒を持つかのような形を一同に見せつける。


「どれだけ小さいんですか、蟻じゃないですか」


その様子を見てティナはそう言って失笑し、メノウとクルルは呆れ果てたかのように溜息を吐いた。


「は? いやいや大きくなりすぎでしょ……まだ一年、アースクリアだと三年か? 身長もそうだけど胸の大きさとか大人っぽい雰囲気とか完全に別人だろ! てっきりアリスは子供だから置いてきたと思ってた。確かに髪色とかつけたリボンとかはどこかアリスっぽいなと思ってたし、顔とかもまあパッチリした目元とか……あれ? アリスっぽ……あ、これ、アリスじゃん!」


「気付くの遅すぎでしょ!」


 身長の大きさだけに先入観を抱いていた鏡は、ようやく目の前の存在がアリスだと認識する。そして相変わらずのアホさに、少し安堵した様子でティナは溜息を吐いた。


「久しぶりだね、鏡さん」


 認識されていなかったことに怒るかと鏡は冷や汗を垂らすが、予想外にもアリスは嬉しそうに笑みをこぼしていた。アリスにとって、例え本人と認識されなくても、大人として認識されているのが何よりも嬉しかったからだ。


「色々聞きたいことはあるが……聞きたいことがありすぎて困るな。頭が追いつかん」


 その時、いつまでもアリスを抱きしめている鏡に対してメノウが、「うぉほん!」と咳払いして話を進めようと促す。すると急に恥ずかしくなったのか、アリスは頬を紅潮させて慌てて鏡から離れて隣へと座った。その一部始終を、クルルはジト目で見届ける。


「そうですね……聞きたいことがたくさんあります。獣牙族と一緒にいたことや、一人で行動していたことや、その他もろもろですがとりあえず鏡さん、私とハグしましょう」


「いや意味がわからん」


「アリスちゃんばかりずるいです! 私だって……三年間ずっと……! 帰ってこないあなたが悪いんです、どれだけ心配したと思ってるんですか! ねえティナ⁉」


「え、私にふるの本当に勘弁してほしいんですけど」


 クルルは勢いに身を任せて立ち上がり、ジリジリとすり足で動いて鏡に詰め寄ろうとするが、その瞬間、鏡の身を守るかのように両手を広げ、フードマントを被った幼い少女が立ち塞がった。


「駄目……お父、ピッタのです。触らせない……です」


 そして放たれた言葉に、アリスとメノウとティナとクルルはまるで石化したかのように固まり、暫くの間、何も言わずにピッタと名乗る少女と鏡を交互に見つめる。


「え? 鏡さん、この子今なんて言いました? 今なんかこの子お父さんみたいなこと言ったんですけど、ていうかこの子あれですよね? あの時いた獣牙族の……子供ですよね?」


「いやー説明すると長くなるんだけどね? とりあえず紹介するとこの子はご存知の通り獣牙族で、ピッタ・メルパッチっていう。多分年齢は七歳くらい」


 ピッタの吐いた言葉が信じられないのか、クルルが肩を震わせながら問いただすと、鏡はピッタの頭に被せたフードを外して紹介を行った。フードを外したことによってさらけ出された顔は、今日獣牙族と戦った時にも見た、エースにくっついていた獣牙族の少女そのものだった。


 橙色のセミロングストレートとぱっちりとした大きな目、キツネのような黄色くフワフワとした耳、どこかおどおどと困っているかのような雰囲気と、物静かな物言いは、気弱な性格であることが窺えた。


「だ……誰の子ですか! アースクリアにいつまでたっても戻って来ないと思ったら……私たちのことをほったらかしにしてアースで子供を⁉ しかも異種族間で⁉」


「鏡さん……ボク、信じてたのに」


「鏡さんってあれですよね、昔のアリスちゃんの時といい、いつも幼女を連れ歩いてますよね……まさか。いやいや、うわぁ……」


「鏡殿……いつの間に幼女ハンターになったのだ」


 一同は、とりあえず幼女と一緒にいるというだけで軽蔑の視線を向けて言いたい放題だった。


「落ち着けお前ら! 俺はまだこっちに出て来てから一年しか経ってないから! 子供作ってここまで育てられるような時間とかそもそもないから! 落ち着……おちつけぇぇ!」


 それから誤解であることを説明して、全員がまともに会話できるようになるまで、数分の時間を要した。





「よし、とりあえず落ち着いたところで、まず何から聞きたい?」


「なんであの時、ニャオンとか言っちゃったんですか?」


「獣感出そうとしたら大失敗した」


 その返答を聞いてティナは何故か満足そうに「さすがですねぇ」と笑みを浮かべた。相変わらずのアホとでも言いたげな口ぶりが腑に落ちなかったが、同意するかのように頷く他三人の様子を見て、鏡は何も言わずに「次の質問に移ろうか」と切り替える。

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