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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-26

「避けた……だと?」


 そう、手で防いだのではなく、フードマントの男は回避した。魔力弾がその身を貫こうとした瞬間、身動きの取れないはずのフードマントの男は突如その場から消え去った。消え去ったように見えた。


「嘘だろ……あの野郎、いつの間にあんな力……!」


 予想外だったのか、メリーは驚愕の表情を浮かべながら力を失ったかのように魔力銃器の構えを解く。

フードマントの男は、空中にいるにも関わらず跳躍した。何もないはずの空間を蹴りつけて、地面に向かって目にも止まらぬ速さで跳び、水しぶきをあげて川へと着地した。


「撃て……撃て撃て撃てぇぇぇ!」


「至近距離なんだ! 数撃てば当たるはずだ!」


 あれだけの攻撃を放ったにもかかわらず、無傷で目前にまで接近したフードマントの男を見て、取り乱した様子でレジスタンスたちは魔力弾を乱射する。しかし、ゴムボールが跳ね返るかのように空中と地面を行き来するフードマントの男に当てることは叶わず、遂にフードマントの男はレジスタンスたちの目の前にまで接近する。


 すぐさま前衛部隊のレジスタンスたちが武器を持って攻撃を仕掛けようとするが、その速さの前ではすべてが無駄だった。赤子の手をひねるかのようにほとんどの者が武器を素手で受け止められると、腕を掴まれて投げ飛ばされる。


 そして、成すすべなく叩き伏せられた前衛部隊を見て、いつしか後方支援部隊も、残った前衛部隊も戦意を喪失させていった。


「…………っ!」


 そんな中、それが鏡である可能性を感じて攻撃に参加しなかったアリス達は、なんとかフードマントの男の正体を知ろうと注視していた。だが、フードマントは深く頭にかぶさっており、鼻から下までしか顔を認識することができず、それが鏡であると断定できずにいた。


 フードマントの男が手元に纏わせた青白い光は、鏡が持つスキルの一つ、魔力を反射させる闘気『反魔の意志』である可能性があった。しかし、空中を自由に動き回れるようなスキルも魔法も知る限りでは鏡は持ち合わせていない。また、獣牙族の少女と行動共にしていることからフードマントの男が鏡であると結びつけられずにいた。


「っつ! やられた……おしまいだ!」


 前衛部隊が怖気づき、攻撃を仕掛けなくなった瞬間、フードマントの男は目にも止まらぬ速さで後方支援部隊たちの目の前へと移動する。そして、後方支援部隊が持つ魔力銃器を手刀でへし折ると、次々に魔力銃器を持つ後方支援部隊の目の前へと移動し、武器をへし折っていく。


「武器を……破壊するだけ?」


 その時、クルルの中でフードマントの男が現れた瞬間からずっと引っ掛かていた違和感が紐解かれたような感覚に陥る。


「私達を攻撃してこない?」


 あれほどの力があれば、攻撃手段はいくらでもあったはずだった。


 最初に投げつけてきた石橋の破片を外したのも、撃ち放った魔力弾を跳ね返さずに左右に逸らしたのも、迫ってきた前衛部隊を投げ飛ばすだけで追撃しなかったのも、最初から殺す気がなく、戦意を失わせるためだけに行動しているように見えた。


「っく……!」


 そして、たった今メリーの前方に接近したフードマントの男は、それを確信させる行動を見せる。フードマントの男はメリーの魔力銃器をへし折ろう手刀を放つが、親の形見である魔力銃器を壊させまいと庇うように必死に魔力銃器を抱き留め、覚悟を決めたかのように目を瞑ったメリーを前に、ビタッと振るった手を止めた。


 魔力銃器と身体を密着させた状態でへし折ろうと思えば、メリーに危害が及ぶ可能性がある。そう考えたのかフードマントの男はメリーには何もせず、そのまま別の後方支援部隊の者達の前へと移動して次々に武器を破壊していく。


 明らかに、相手を倒すのを目的としていなかった。


「まわりくどいですね……」


 その時、瀕死状態だったため、最後尾で体力を回復することに専念していたティナが、ダメージを残した苦しそうな表情でクルルの傍へと寄る。


「ティナ! もう動いて大丈夫なんですか?」


「いや……さすがに横になりたくてもアホみたいに大きな石の塊が真上を飛んできたら、どれだけ疲れていても何が起きているのか状況判断くらいするでしょう」


 顔色の悪い状態で迷惑そうな顔を浮かべると、ティナは「すみませんが肩貸してください」と言って、クルルに支えてもらう。


「とにかく……あのまわりくどさは鏡さんに通じるものがあります。なんか空中を自由に跳躍したりしてパワーアップしていましたけど、あれは多分鏡さんです」


「いや、あれは間違いなく師匠だ」


 すると、いつの間にかクルルの隣にまで寄っていたレックスが腕を組みながら断言をする。そして三人が集まっているのを見て、あれが鏡だと考える自分が正しいかどうかの情報交換をするためにタカコ、アリス、パルナ、メノウの四人も集まる。


「どうあがいても勝てる気がしない……そんな風に僕が思える相手となればそれはもう、師匠以外にない」


「大雑把な考え方ですねー……もしあれが本当に獣牙族だったらどうするんですか」


 直感で鏡だと思い込んでいるのか、自信満々に言い放たれたレックスの足りなさすぎる説明にティナはヤレヤレと溜息を吐く。


「でもまあ……レックスの言うこともわからないではないけどね、あいつ、鏡の魔力を跳ね返すスキルみたいなのも使っていたし……むしろあれが鏡じゃなかったら絶望的よ。って、ちょっとアリス!」


 鏡である可能性が高まり、いてもたってもいられなくなったのか、アリスは次に壊しに向かうであろう後方支援部隊のいる場所を予測し、チャンスを逃さないよう必死になってその場所へと駆ける。


「…………鏡さん?」


 息を乱しながらも、狙い通りフードマントの男の傍へと近寄れたアリスは、高鳴る胸を抑えるようにして、溢れるたくさんの感情を押し殺して、震えた声で名前だけを呼んだ。


「…………ぁ、ぇと、……ニャオン、オレ、オマエタチ、ミナゴロシ」


 そして、返ってきた言葉に凍り付き、まるで時が止まったかのようにアリスは固まる。


 数秒後、戦慄したかのような焦った表情を浮かべてすぐさまアリスは後方へと振り返り、同じく戦慄した焦った表情で口を開くタカコ達を視界に入れる。その後まるで、全てを悟ったかのようにお互い頷きあった。

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