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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-21

 まだ地上へと出たばかりにも関わらず、たった三体の喰人族相手に、先に地上に出ていた相手も含めて十数人の仲間がやられた。


 元々喰人族は捕食対象である生物の少ない場所には出没せず、隠れ住んでいる少しのモンスター以外に誰もいないあの場所に現れるのは想定外のことだったらしい。逃げ出した獣牙族を追ってきたつもりが大きく道を外れて、たまたまあの場所に迷い込んで出くわし、運悪く襲われたのだろうとバルムンクは判断した。


「逃げれはしたが……喰人族があの場所に住まわれたら厄介だ。あそこから出入りしてることを知っている喰人族は倒したと思うが、あいつらも賢くなってやがる……また出入りするところを見られて地下施設にまで追っかけきたら厄介だ。あいつらが餌を求めて別の場所にいなくなっちまうまでは戻れないな」


 たった数十分間の出来事で大きく疲弊してしまったが長く休んでいる暇はなく、「三分休憩した後すぐに出発する」と背負っていた大剣を地面に強く突き刺した後、ヤレヤレと困った様子でバルムンクはつぶやく。


「……弔ってあげないのね」


「……俺達は獣牙族を倒すために地上へと出た。その目的を成すことが散っていった仲間への弔いになる。それを成せずして、あいつらに顔向けは出来ん」


 どこか悲し気な表情を浮かべるバルムンクに、タカコはそれ以上何も言わず遠く離れた市街地へと視線を向ける。


「それにしてもやるなあんた達。攻撃特化なパーティーだとは思っていたが、とんでもなく強力なスキルも持っているみたいだな。おかげで助かったぜ」


「礼ならあそこで死にそうになっているティナちゃんに言ってあげて頂戴」


 そう言ってタカコが指差した先には、疲れきって座り込む他のレジスタンスの連中と一緒に地べたに這い蹲ってぜぇはぁと息を乱し、ぴくぴくと痙攣している状態のティナの姿があった。


 ここまで逃げる途中も念のためにスキルを発動してもらったせいか、その反動で動けなくなり、現在クルルやアリス達が囲って看病をしている。


「ティナには感謝しないとな。おかげで死者も出さず、混乱も起こさずに済んだ」


 感心したかのようにバルムンクが笑みを浮かべる。だがその隣で、タカコは腕を組みながら、この先のことを考えて不穏な表情を浮かべていた。


「喰人族は……いえ、名前をつけているってことは他にも色んな種族の敵がいるのでしょう? 他の種族も、あの喰人族のように……危険な存在なのかしら?」


「ああ、気が滅入るくらいにな。なんなら、喰人族以上に危険な存在だっている。これから倒そうとしている獣牙族だって、喰人族に引けを取らないくらい危険だぜ?」 


「同じくらい危険なら、獣牙族は逃げる必要なんてないんじゃ」


「獣牙族は五感を頼りに戦うからな、音も気配も臭いもない喰人族とは相性が悪い」


 獣牙族との戦いは、喰人族よりも楽なものであればと考えていたタカコだが、その言葉を聞いて手を頭に置き、気を滅入らせる。


「こんなのが……世界中にいるのよね? 私達人類に勝ち目なんてあるの?」


「……諦めたらそれまでだ。現に俺達は戦えている。今回こそ喰人族が襲ってきたが、あの場所も最初はモンスターや他の知的生命体が占領していたんだ。それを先代が駆逐し、俺達の代に引き継いでくれた。少しずつだが前に進んでいる……俺達の代で叶わなくても、いつかきっとこの世界を取り戻してみせるさ」


 バルムンクはそう言うと希望に満ちたはにかんだ笑顔を見せた。対するタカコの表情は不穏なままだった。タカコ達にとって、『いつか』ではダメだった。鏡を助けるというのは第二の目的、第一の目的はこの世界を救い、アースクリアをリセットという仕組みから解放すること。


 だが、たった三体相手に苦戦を強いられる世界で、残り二年、アースクリアが三倍の速度で時間が進んでいることを考えると残り一年足らずの短い時間で、この世界を救うのはとてもではないが不可能に近い。


 国王、ダークドラゴン、エステラーは、世界がこんな状況であると知らないはずがない。なのに、希望を見出してどうしてこんな不可能に近い短い時間制限を設けたのか? それがタカコには疑問に思えた。あるいは、希望と言っていたのは演技で、厄介な抵抗者を外へ出すための口実を作るために、妙なリアリティーを見せただけだったのかもしれない。タカコにはそう思えた。


「気持ちはわかるが……しっかりしてくれよ、いくら強くても一つの油断が命取りになる。それに今回の獣牙族の襲撃にエースが出てくる可能性だってあるしな」


「エース……? 何なのそれ?」


「言葉通り獣牙族のエースさ。わかっているのは、はみ出し者なのか獣牙族同士なのに嫌われているのか……一人行動の多い奴で常に獣牙族と共にいるわけじゃないってことだな」


「強いのかしら? というより獣牙族間で能力に差なんてあるの?」


「獣牙族間に優劣はもちろんある。それこそレベル差があるようにな。その中でも……いや、同じ獣牙族とは思えないほどの化け物がエースだ。いつもは手も足も出ずに終わるが……今回はお前達がいる。例え出てきたとしても……必ずっ!」


 それを思い出してか、バルムンクはギリッと歯を噛みしめた。その様子から、レベル273のバルムンクでさえ手に負えない相手であると察する。


 そして、そんな相手とも対峙しなければならないと現実に、タカコは再び気を滅入らせた。


「鏡ちゃんは……この世界を見てどう感じたのかしら」


 ふと同じようにこの世界を見たはずの鏡が脳裏によぎる。そしてタカコは、鏡は最初戦っていたが、突然命令を無視して戦わなくなったというメリーと油機の言葉を思い出していた。


 絶望してしまったのだろうか? 諦めてしまったのだろうか? 何か考えがあっての命令無視だったのだろうか? そんな色々な考えを巡らせ、如何に鏡という男が頼りになる存在だったのかと改めて認識する。


「さあそそろ出発するぞ。遂に巡ってきた反撃のチャンス……無駄にはできねえからな」


 突き刺した大剣を再び引き抜くと、「だせえとこ見せちまったな」と、どこか悟ったかのような涼しい顔を見せて、バルムンクは目的地に向かって歩き始めた。


 タカコも、今は少しでも前に進もうと気を取り直し、倒れるティナの元へと向かう。

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