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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-20

「じゃ、じゃあ助けてくれたのは誰なんだ?」


 助かった命を噛みしめながら、いつの間にかこの場から姿をくらました残り一体の喰人族を警戒しつつ、どうして死なずに済んだのか前衛部隊の一人は言葉にして疑問を放った。


しかし返事はなく、周囲はただ風が吹き抜ける音が響くだけで静まり返り、喰人族がいつ目の前に現れるかわからない緊迫した状況が続く。だが、耳を澄ますと風の音に交じって「ぜぇはぁふぅひぃ」と異常なほどに息を乱している者がいた。


「あ……わ……………………わ、私で……げふぅッ! ごほっごほっ!」


 周囲にいた者は恐怖と緊張で動機が乱れているのかと思っていたが、掠れるような声量で放たれたつぶやきを聞いて違うことに気付き、すぐさま息を乱している人物に視線を向ける。


 そこには、今にも死にそうな青ざめた顔をしたティナの姿があった。


「ちょ、ちょっとティナ、大丈夫なのあんた?」


 ギョッと目を見開いて瀕死状態のティナを見たパルナはすぐさま隣へと移動する。何が起きているのか事情の説明を求めようとするよりも早く、ティナは隣に移動してきたパルナを見るなり「これが……私の……スキ……ルぶぁっ⁉」と苦しそうに咳をしながらもニヒルな笑みを浮かべてグッドサインを見せた。



 スキル……淑女の施し


 効果……体力と魔力を消費し、衝撃を100分の1に抑えるオーラを任意の相手に付与する。



「す、すみません……あの、ここにいる全員にこれ使ってると長く持たないので……はやく……たお……して。あ、でもこれ近くにいないと力を付与出来ないので傍でなんとか……ごふっ⁉」


「あ、あんた本当に大丈夫なの⁉ 今にも死にそうだけど⁉」


「全力疾走…………ずっとし続けてる状態……って、思って……くだ……はい」


 今にも気絶しそうな勢いでぜぇはぁとティナが息を乱す中、味方が守られていることを知ってか「ナイスだ!」と叫ぶと、バルムンクは突然一人で円陣から飛び出す。


「お前達は動くな! ティナの力で守ってもらうんだ! 後は俺一人でなんとかする!」


「な……危険だわ! ティナちゃんには申し訳ないけど、ここは誘い出して向こうから攻撃を仕掛けてくるのを待つべきよ!」


「逆だ! 喰人族は恐らくもう近付いて攻撃をしかけても無駄だと学習してやがる! 少なくともあと一体はいるはずの喰人族が攻撃を仕掛けて来ないのがいい証拠だ! このままだとティナの体力がいたずらになくなって今度こそ絶対絶命のピンチになる! そうなる前に倒す!」


 すかさずタカコが止めようとするが、バルムンクは制止を振り切ると、果敢にも声を張り上げて「そら! お前達が食べやすいように出てきてやったぜ!」と叫び散らす。


 あまりにも無謀な行動にタカコは不安げな表情を浮かべるが、すぐにそれを払拭するかのように「大丈夫だよ」と背後からトントンと肩を叩かれる。


 振り返るとそこには安心しきった表情で笑みを浮かべる油機とメリーの姿があった。だが、何を根拠にそんなことを言うのかわからず、タカコは二人を無視してバルムンクに視線を戻す。


「……ッ! 後ろよ!」


 その瀬戸際、タカコの視界に高速でバルムンクの背後に接近する黒い影が映り込む。一人無防備に飛び出してきたのがチャンスだと思ったのか、喰人族はバルムンクの背後に張り付くとすぐさまガパッと大きな口を開く。


 狙い通りではあったが、体格と身に着けた重厚な鎧と武器も相まって、タカコが喰人族の動きを見えていたことに驚いていたバルムンクが素早く回避できるとは思えず、タカコは思わず視線を逸らした。


「おら……捕まえたぞ」


 肉を打つような鈍い音が周囲に鳴り響く。しかし、バルムンクは平然とした様子で声を発した。


「な、大丈夫だって言ったろ? リーダーとして前線に立って戦っているのに、未だ死なずに生き残ってるのは伊達じゃねえんだ」


 メリーは、まるで自分のことかのようにふんっと鼻を鳴らす。


 何が起きたのかを確認して、タカコは驚愕の表情を浮かべた。首をひねって頭部だけは噛まれないようにしたのか、バルムンクは喰人族の噛みつきを右肩で受け止めていた。先にやられた三人を見ても、簡単に肉を裂けるであろう強靭な顎を持っているにも関わらず、喰人族のおぞましい牙は肩の肉に食い込むだけでピタリと止まっていた。


「味わえなくて残念だったな、俺を殺したいならきっちり急所を……狙うこった!」


 そして、丸太のように太い左腕で喰人族を強引に引き剥がすと、そのまま上空へと放り投げ、その重量からは想像できない速度で真っ二つに斬り裂くように大剣をナイフを扱うが如く振り下ろすと、ドガッ! と鈍い金属音を鳴り響かせて地面へと叩きつけた。


「……実はそんなに顎が強靭じゃなかったとか?」


「ううん、リーダーが特別硬いだけだよ。私が作ってあげた防具よりもずっと防御性能の高い筋肉してるだけ。リーダーって、レベル273の戦士らしいから」


 手元で小さなスパナをくるくると回しながら「今日も見事だなー」と、油機はバルムンクを称賛する。


「2、273……?」


 想像していたよりも遥かに高い数値に、ティナを除くタカコ達一同は驚愕する。戦士でここまで高レベルの存在を一同は見たことがなかったからだ。力と身体の頑丈さが取り柄の戦士がレベル273にもなると、噛まれた程度ではじんわりと血を噴き出すだけでびくともしないのだなと単純に驚く。


 恐らくスキルの効果も相まっているのだろうが、それでも頼もしい豪快な戦いぶりに、何故バルムンクがリーダーとして勤まっているのかを一同は理解した。


「おい、気を抜くな! さっき見えてた数は見つかったがまだ隠れてるかもしれん! このまま全員固まった状態でさっさとこの地域を抜けて、目的地に向かうぞ!」


 その後、悠長にお喋りをしている暇はないと、バルムンクの指示のもと全員駆け足でノアへの入り口である昇降路がある地点を離脱する。途中、喰人族に襲われて逃げていた先に地上へと向かっていたレジスタンスの生き残り十数人と合流した後、一行は廃墟地を抜けた先にある視界の広い平地にまで逃げることに成功する。

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