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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-17

「確かに、魔族は強力な力を持っているが……アースクリアの住民であれば問題なく対処できる。何より……魔族は人間を故意に襲わない。むしろ人間が魔族を迫害していると言ってもいい。アースクリアにいる時は魔族が絶対なる悪だと決めつけて、気付きもしなかったがな」


「バルムンクさんも……アースクリアの出身なんですか?」


「随分昔の話さ。当時一緒にアースに出てきた仲間も皆やられちまって、残ったのは俺だけだよ」


 遠い昔のことを思い出すかのようにつぶやくと、バルムンクは「そう、みんなやられちまったんだ」と、どこか重苦しい雰囲気を漂わせる。


「強いのだな。魔族よりもずっと」


「ああ、勇者の役割を持ったあんたでさえ苦しい戦いを強いられるだろう。これから討伐に向かう獣牙族は俺達のように魔力を保有してはいないが、身体能力が馬鹿みたいに高い。おまけに嗅覚と聴力が異常な程に良くて、市街地なんかの入り組んだ場所だと倒そうにもすぐ逃げられて死角から襲われる。俺達の足音や息づかいで接近してることだってばれちまう。厄介極まりない連中だよ……おまけに好戦的だ」


 いまいちバルムンクの言葉だけでは強さのイメージが出来ず、レックスはしかめた顔を見せるが、隣を歩いていたメリーが太もものホルダーにしまった魔力銃器をちらつかせて「相手にもよるけど多くがこれを正面から撃っても簡単に避ける」と言うと、少なくとも自分達よりも遥かに上をいった身体能力を持っていると気付き、冷や汗を浮かべた。


「そーんな心配すんなって! あんた達には私と違ってスキルがあるだろ? あいつらは速いけどそれ以外はそんな秀でてるわけじゃないし、トータルで見ればあんた達の方が上さ」


「とはいえ、速さは戦いにおいてかなり重要だ。ダメージは力がなくても与える方法がいくらでもある。知的生命体というくらいだ……武器くらい使うのだろう?」


 メノウの言葉にメリーは頷いて答え返す。だが、メリーの表情にはどこか余裕が見えた。


「あいつらは魔力がないから遠距離での攻撃が苦手なんだ。知的生命体って言っても精密な武器を作るだけの知識はないし使ってもナイフとボウガンくらいだ。死角の多い場所だとその速さを活かした奇襲で簡単にやられるが……今回は私達が奇襲をかける。そう簡単にはやられないさ」


 メリーがそう言い終えるとほぼ同時に、レジスタンの本部の最奥に見えていた天井にまで続く白い筒状の建物がある場所へと辿り着く。そこでは先に向かっていたレジスタンスの構成員の半数が残って待機しており、バルムンクが来るや否や敬礼をして見せると、白い筒状の建物の入り口を8人掛かりで左右に引っ張り、手動で開く。


 ここまであらゆるものが自動化されていたにも関わらず、ここだけ8人も必要とする手動の扉だったことに『入ってはならない』という意味をがあるのを感じとり、一同はこの先に存在する世界がどれだけ過酷なのかを冷や汗を浮かばせながら察した。


「半数は既に地上に赴き、安全を確保しています。我々も向かいましょう」


 レジスタンスの構成員の一人がそう言ってバルムンクに報告をすると、バルムンクは開いた扉の先へと足を運ぶ。それにタカコ達とレジスタンの構成員も続き、全員が中に入った段階で扉は自動的にガゴンッ! と鈍い音を放って閉じてしまう。


 その後一同は謎の浮遊感に包まれる。


「これは……昇降路ですか?」


「ああ、ここは地上にいる他の生物が近付けないように地下深くに存在するからな、気を引き締めろ……ここから先は命を失う危険がある。仲間と逸れないように固まって行動するんだ」


「うぅ……なんか変に緊張してきました」


 どこか落ち着かない様子でそわそわとティナは持ってきた聖書を抱きしめる。対してタカコとメノウとレックスは遥か先にある天井を見上げながら、精神を研ぎ澄まさせていた。自分達が死ぬ可能性が最も高いのは外の状況をまるで知らない最初であると理解していたからだ。


「ねえタカコさん、鏡さん……大丈夫だよね」


 そして、徐々に近付く地上を見つめながら、どこか不穏そうな表情でアリスはそうつぶやく。


「今は何とも言えないわ……私達の一番の目的はこの世界を救い、アースクリアを存続させること。大丈夫と信じたいところだけど、今はとにかく自分達のことだけを考えた方がいいわ」


「わかってる……わかってるんだけど」


 心のざわつきが収まらない。ようやく会えると思って飛び出した外の世界で、ずっと前に死んだと言われて、言葉にはしなかったがアリスはずっとざわついた気持ちを抑えられずにいた。


「大丈夫、きっとどこかで生きている」、そう思っても、レジスタンスの構成員達がここまで危険視している地上から半年以上戻らないという事実が、その思いを曇らせていた。


 クルルも同じ気持ちだった。だが、タカコと同じくアースクリアを何とかしなければという強い使命感が泣き言を口にさせず、ただ強く杖を握り締め、これから始まる戦いに意識を集中させて心の片隅で無事を祈っていた。


「そんな暗い顔しないの二人共、そんな調子じゃ本当に死んじゃうわよ」


「な、わ、私は別に暗い顔なんてしていません!」


 そんな二人の様子を見かねたのか、パルナはヤレヤレと軽く溜め息を吐くと二人の首に腕を回して胸元へと抱き寄せる。


「死んでないと思いたいなら、まず自分達が生きてなきゃでしょ? 折角会えた時にあんた達が死にましたーじゃ意味ないんだから」


 そしてそのまま「ほれほれ、元気出しなさい」と言うと、パルナは締め付けるように胸元に二人を抱きしめる。


「う、うん。わ、わっかたよパルナさん」


「わかりましたから離してください! 息が……!」


不穏な表情を浮かべていた二人も、自分達に視線を向けるパルナの不安そうな表情に、鏡を思うあまりに仲間達に心配をかけていたことに気付き、気を引き締めなおす。


「準備はよさそうだな。もうすぐ着くぞ」


 そんな様子をどこか微笑ましそうに見ていたバルムンクも、昇降路が距離の感覚がわかるくらいに天井に近付いたのを機に、表情を強張らせる。


 包んでいた浮遊感が消え去り、天井にぶつかる直前で昇降路は上昇を停止する。暫くして、大きな鈍い音をたててドーム状になっていた天井が二つに分かれて開くと、思わず目を瞑ってしまう程の外からの光が差し込み、徐々にアースの地上の光景が視界へ広がっていく。


 そこには、アースクリア内の歴史の書物にも書かれていた、ビルと呼ばれる建物が廃墟と化して視界を埋め尽くすほどに建ち並び、月日が経ちすぎたせいで苔や雑草だらけになって野生の地と化したジャングルのような場所が広がっていた。


「全員動くな!」


 タカコ達がその見慣れないどこか神秘さも感じられる光景に言葉を失い、何も考えずに足を一歩前へと踏み出そうとした瞬間、それを制止するかのようにバルムンクが大声で叫んだ。


「ここから動くな……ここはステルス迷彩によるバリアが展開しているため外からは見えないが、ここから一歩踏み出せば別だ。俺達の姿はもろ見えになる」


「ならここで閉じこもってるつもり?」


 どこか焦りを感じる表情で冷や汗を垂らすバルムンクに、そこまで警戒する必要性があるのかと呆れた様子でパルナがそう問う。


「違う……先にここの安全を確保するために出て来ていた先遣部隊がいない。……何かがいる」


 だが、そう言われて全員が顔色を変えて周囲を警戒し始めた。言葉通り、先に向かっていたレジスタンスの構成員の半数の姿が、少なくとも周囲に見当たらなかったからだ。

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