終わりの見えない道-16
武器庫の中に入ると、メリーが持っていた物に似た兵器ディグダーと、アースクリアでも馴染みのある武器や、改良の加えられた武器の数々が置かれていた。
素手で戦うことの出来るタカコも念のためにガントレットを、レックスは改良の加えられた剣ではなく、使い慣れた剣に似通った鋼の剣を、ティナは魔法を発動させるための魔力媒体として聖書を、クルルとパルナも同じく魔力媒体として使い慣れている杖を持ち出す。
最後に、人間のように道具を使って魔力を一箇所に留めておく魔力媒体がなくとも、体内でそれと同じ作用を発揮できるメノウとアリスはそれぞれ二本の短刀を万が一のために持ち出した。
そして装備を整えた一同は、メリーが言い残した指示に従って再び隊長のいたテント前へと足を運ぶ。するとテント前には、3分という短い時間できっちりとタカコ達以上の荷物と装備を整えたレジスタンスの構成員数十人が、列を綺麗に整えて集まっていた。
「これより作戦の内容を伝える! 心して聞け!」
そこで、列を整えたレジスタンスの構成員達の前に立ち、同じく装備を整え、白い甲冑のような装甲に身を包んだバルムンクは耳がびりびりする程の声量で声を張り上げた。
ガヤガヤとした和やかな雰囲気のあった先程までのレジスタンスはそこにはなく、全員が緊迫した雰囲気を纏わせ、鋭くハンターかのような眼光をバルムンクへと向けている。
「獣牙族……奴らは狡猾だ、今まで何度も物資調達班が遠征で命を張って掻き集めてきた物資を奪い、多くの同胞が奴らの手によって命を落としてきた! 駆除しようにも奴らはずる賢く、旧千代田区の複雑な立地を利用して身を隠し、我々は常に不利な状況で戦うことを強いられてきた……だが! 奴らは今、旧千代田区という殻を脱ぎ棄てて旧渋谷区に向かって大移動を開始している!」
それを聞いた瞬間、レジスタンスのほぼ全員の表情が憎しみのこもった歪んだものへと変化した。それだけでパルナには、如何にアースの人間が外敵に甚大な被害を受けてきたのかを察する。例えそれが、誤解であったとしても、憎しみは、それ相応の仕打ちを受けなければ抱かないものであると理解していたから。
「旧千代田区と旧渋谷区の間には市街地のような奴らが身を隠せる場所のない平原がある! そこで奴らに奇襲をかける……! 遠距離での戦闘を得意としない獣牙族を一網打尽にするチャンスだ! 身を隠す場所もない奴等は間違いなく俺達の前で朽ち果てるだろう! 俺達は勝てる!」
勝てる。その言葉にレジスタンスの一同は目を見開いて雄叫び、歓声をあげる。ようやく訪れた憎しみをぶつけるチャンスを喜ぶ一同が少し恐ろしく感じ、アリスはパルナの服の裾を掴んで不穏な表情を浮かべた。
「目標地点に辿り着いた後は全員姿がばれないように待機! 合図を待って支援部隊が一斉に遠距離での攻撃を仕掛けろ! 方法は魔法、魔力銃器がメインだ! 前衛部隊は万が一にも支援部隊に被害が及ばないよう、すぐ傍で待機して全力で守れ!」
作戦内容を伝えたバルムンクはそこで話を終わらせず、その光景を黙って聞いていたタカコ達に視線を送ると手招きをしてこちらに来るようにと促す。
「俺達はどうやら幸運の女神様に愛されてるらしい! 今日というこのタイミングで英雄様達が新たに俺達の仲間に加わった! 勇者のレックス! 賢者のクルル! 武闘家のタカコ! 僧侶のティナ! そして魔法使いのパルナ、アリス、メノウの七人もだ!」
それを聞くと、レジスタンスの構成員はそれぞれ「勇者……それに賢者?」と驚き、「他も武闘家と僧侶と魔法使いだ……すげえ戦力だぞ!」と表情を明るくしてざわつき始める。
アースクリア出身の者がいないはずがないにも関わらず、どうしてこんなにも喜んでいるのか、ここに来るまでにみた数百人はいるであろうレジスタンス全体の総数に比べ、今こうして集まっている奪還班の数がアース出身の者も合わせて数十人しかいないことから、タカコ達は如何に戦える人材が貴重なのかを察した。
「いいか⁉ 英雄様達だから大丈夫と任せっきりにするんじゃねえぞ! 俺達は家族だ! 全員が自分の魂の分身だと思え! 絶対に誰も死なせるな、例え有利な状況だとしても互いが互いを守り合え! いいな!」
「「「っは!」」」
そして、バルムンクの掛け声と共にレジスタンスの構成員は見事なまでに揃った敬礼を見せる。直後、そのまま列を乱さないまま移動を開始し、レジスタンの本部の最奥に見える天井にまで続く白い筒状の建物がある場所へと向かっていく。
「よし俺達も移動するぞ。あんた達にはいきなりで悪いが……手伝ってほしい。まだ出てきたばかりの慣れない世界だろうが、俺達が必ず生きて帰れるようにサポートする」
「協力できることならするわ、それよりそろそろ教えてくれないかしら? あなた達……いえ、私達が倒さなければならない敵のことを」
タカコの問いにバルムンクが素直に頷くと同時に、腰元のホルダーに入れていた魔力銃器よりも細長いものを背負ったメリーが傍に寄り、「おじき、準備が出来たぞ!」と声をかける。
その後に続いてバルムンクの得物と思われる、剣と呼ぶにはあまりにも大雑把な作りをした鉄の塊とも呼べる大剣をメリーが重たそうに担いでバルムンクの元へと運んだ。バルムンクはそれを軽々と持ちあげると、抜き身のまま背中の留め具へと引っ掛けて固定し、そのまま、ついて来いと言わんばかりに視線をレジスタンスの構成員が向かった先に向けると移動を開始する。
「敵は、俺達と同じ……いや、俺達よりも遥かに優れた能力を持った知的生命体達だ」
そして、バルムンクは移動しながら、タカコ達に説明をし始める。
「それって、さっき言ってた獣牙族とか喰人族とかのこと?」
「そうだ。モンスターなんかよりも遥かに手強い。俺達人間と同等の知性を持ち、人間よりも遥かに優れた身体能力……それと奴等は特有の力を持っている。何より、モンスターと違って群れで行動するのが最も厄介なところだな」
「アースクリアでいう……魔族みたいなものですか?」
「魔族……いや、全然違うな」
知的生命体と言われ、どこか魔族と似通った部分があるとティナは一瞬顔をしかめるが、バルムンクはそんなティナを一瞥すると軽く鼻で笑って否定する。