表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
147/441

終わりの見えない道-15

 まるでずっと付き添ってきた相棒かのように接するメリーを見て、一同はなんとなバルムンクの人柄を察する。油機もまるで自分の家の中にいるかのように「あ、隊長これもらっていい?」と言って、テント内に散乱したガラクタを拾っては持っていこうとしていた。


「しかしまた随分と大勢だな、歴代でも同時に出てきた最大人数は4人だぞ? 7人も出てくるなんてな。見たところ……全員そこそこやれる雰囲気ではあるが」


「どうしてアースに来てくれたかはまだ聞いてないが、全員あのがっかり英雄と知り合いだとさ」


「がっかり英雄……ああ、あいつか。そうか、あんた達はあの村人を追ってここにきたのか」


 メリーからの話を聞いて、バルムンクはどこか悲し気な表情を浮かべて「ふむ」と、どうしたものかと口元に手を当てて一考する。そして数秒後、何故か突然握り拳を作ると、メリーの頭をゴチンッと軽快な音が鳴る勢いで叩いた。


「っつぁ⁉ な、何しやがるこのアホおじき! 痛いだろうが!」


「がっかり英雄と呼ぶのはやめろとずっと前に言っただろう? 仮にもアースを取り戻そうと戦った戦士に向ける言葉じゃないはずだ……もっと敬意をもて。結果を残せなかったとしてもな」


「……っぐ。思い出したかのように殴りやがって! いったぁ…………!」


 涙目を浮かべて頭を抑えるメリーに、「そりゃあの村人と知り合いってことに驚いてたからな」と、まるで頭の回転が悪いと自分で言い放つようにバルムンクは豪快に笑う。


「やっぱり……鏡さんは死んじゃったの?」


「その様子だと経緯はもう知っているようだが……死んだかどうかはわからん。俺達も実際に遺体を見たわけじゃないからな。だが最後に見たのは半年以上も前のことだ……生きているとは思えん。あんた達には申し訳ない話だが」


 本当にそう思っているのか、バルムンクは申し訳なさそうに顔を俯かせる。暫くして思い出したかのように、鏡の安否を心配して声をかけてくれたアリスの名をバルムンクが聞くと、各々名前を呼び合うために自己紹介を行った。


「武闘家……魔法使い……賢者……勇者……僧侶か、こりゃすげえ連中が来たもんだ。やっぱりその……なんだ? あんた達はやっぱりその村人、鏡を探しにアースに来ただけなのか?」


「鏡ちゃんと合流するのは確かに目的だったけど……別にもう一つあるわ。私達は何が何でもこの世界を救わなければならないのよ」


 タカコの言葉が予想外だったのか、メリーと油機とバルムンクは顔を見合わせる。


「……随分と驚くのね、あなた達も私達にレジスタンスの一員として働いて欲しいんじゃなかったのかしら?」


「いや……そうだが、始めから俺達のために戦ってくれると言ってくれる奴は珍しくてな。どちらにしろアースクリアの人間はレジスタンスに協力するしかないんだが、またなんでだ? こっちは手間が省けて助かるが」


「色々あるのよ、アースクリアにもアースクリアの事情がね」


 タカコがそう言って一同の顔を見ると、全員が強い意志を感じる眼差しで頷いた。


「ところで、レジスタンスに入るしかないってのはどういうこと?」


「単純な話だ。アースクリアの人間がアースのこの施設で暮らす条件として、レジスタンスの加入を条件としているだけだ。この施設の外で生きていくのは不可能に近いからな……村人、鏡の遺体を発見していないにもかかわらず半年帰ってこないだけで死んだと言っているのもそれが理由だ」


 その言葉を聞いて、一同は表情を強張らせる。アースにも蔓延していると言われているモンスターは、アースクリアも同じように外を徘徊し、危険扱いされていた。それがいるからといって、アースの施設内で暮らす以外に生き延びる道がないとは、とてもじゃないが思えなかったからだ。


 だが、アースクリア出身の油機も加わっているレジスタンスがそれを知らないとは考えにくく、至って真面目な表情でこちらを見据えるバルムンクを見て、タカコは額に冷や汗を浮かべる。


「モンスター……だけじゃないのね? もしくは、私達が考えているモンスターよりもずっと強力で恐ろしい……何かがいる。そうなんでしょう?」


 その問いに、バルムンクとメリーは黙って頷いて答え返した。


「外には……何がいるというのだ? この世界は一体何に支配されている? この世界を救うのに……我々は一体何をすればいい?」


 アースクリア出身である油機でさえ不穏な表情を浮かべるアースの外の世界について、メノウは恐る恐るバルムンクに問いかける。すると――、



「おじき! ここから北側の旧千代田区にいる獣牙族の団体が旧渋谷区に向かって大移動を開始してやがる! 長い間潜伏してたみたいだけど喰人族に襲われて逃げてるってさっき報告があった! 隠れられてる状態なら厄介だが……見えている状態で移動してるならあいつらはそんなに脅威じゃねえ! ……叩くなら今だぜ!」



 説明しようとしたバルムンクが口を開いた瞬間、慌ただしく息を切らしながら、一人のレジスタンスの構成員が中へと乗り込んでそう報告してきた。


 その報告を受けると同時に、バルムンク、メリー、油機の眼つきが急に鋭くなり、各々突然走り出してテントから飛び出し、それぞれ大声で「出動だ! 全員今すぐ支度しろ! 3分後に旧渋谷区に向かう……急げ!」と、戦いの音頭を取り始める。


 置いてきぼりにされたタカコ達は急な展開についけいけず、ポカーンとした表情でテントを出て慌ただしくばたばたと走り回りながら準備を行うレジスタンスの一同を眺めた。


「獣牙族? 喰人族? どういうこと?」


 何がなんだかわからず、アリスは首を傾げてレジスタンスの一人が報告してきた謎のワードを口にする。


「おい! お前らも準備しろ! 向こうの方に武器庫があるから使い慣れてる装備を持ってまたここに集合だ!」


 レジスタンスの一同が慌ただしく準備をしているのを突っ立って見ていると、通りがかったメリーがそう言って、ある一つのテントを指差す。


「ちょっと、説明くらいして頂戴! 一体何がどうなってるの? 何をしようとしてるかくらい教えて」


「……説明なら移動の時にしてやる! とにかく今は準備だけしといてくれ! こんなチャンス……滅多にないんだからな」


 それだけ伝えるとメリーは質問を返すよりも早く再び慌ただしく走りさってしまう。メリーを見送った後、一同は困惑しながらも指示に従うことにし、武器庫と思われるテントへと足を運んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ