終わりの見えない道-14
「着いたぞ」
今まで通ってきた街並みとは異なる、コンクリートのバリケードに囲まれた内側へと一同はメリーに案内される。中は辿ってきた街並みのような妙に暗い静けさは感じられず、活気だっていた。
「ここがレジスタンスの本部だよ」
油機が手を広げて「ようこそ」と、歓迎してみせる。街の中とは違い、荷物を運ぶための重機ディグダーが左右を往復し、野営地かのように張られたテントの外では、レジスタンスの一員と思われる連中が仲良さげに会話をしながら、各々武器や備品の整備を行っている。
中には、「おーい、レアもん外で見つけてきたぜ!」と声を張り上げるレジスタンスの一人に群がり、何の価値もなさそうな鉄くずをこぞって嬉しそうに取りに行く連中もいた。
街の人間とは違い、どこか希望を持って前へと進もうとしている雰囲気が感じ取られ、少し重苦しかった空気から解放されかのような感覚を一同は受けた。
「お、メリーじゃねえか。どうか今度一緒に二人で探索にいかねえか? お前がいれば安心して物を探せるからな」
「てめえと二人でなんて願い下げだセクハラ爺。他を当たりな」
「つれねえな……お? 油機もいたか! 前頼まれてた金属……銅だっけか? 見つけといたぜ」
「あは! ありがとう! これで使えなくなってたディグダーが使えるようになるよ!」
レジスタンスの構成員は、メリーと油機の姿を見るとこぞって集まり、仲の良さげな雰囲気で話しかけてきた。メリーと油機は軽くあしらいながらも微笑を浮かべ、タカコ達に「こっちだ」とついてくるように指示を出す。
「随分と人気者なのね」
はた目から見ても、メリーと油機が他のレジスタンスの構成員から信頼を得ているのがわかり、タカコは微笑を浮かべながらつぶやく。
「まあ私は長いからな、もうレジスタンスで戦い始めてから7年……そりゃ、顔くらい全員覚えるさ。油機はほとんど人徳で勝ち取ったもんだがな」
「いやいや、あたしはディグダーと武器のメンテナンスが出来るから、皆頼って接してくれるだけだよ。人徳なんかじゃないって」
「どっちにしろ、助け合って生きていくしかないんだ。そりゃ仲良くもなるさ。味方に裏切られて、勝手な行動をされれば……それだけで命を落とすんだからな」
予想外にもどこか感慨深くつぶやくメリーを見て、タカコは意外そうな顔を見せる。てっきり性格的にも一人で何でも解決しようとするタイプの人間だと思っていたからだ。
「一人の勝手な行動のせいで大勢が死ぬ、ここはそういう世界なんだ……。だから、私は自分勝手に行動する奴を仲間だとは認めない。油機の仲間だって、そういう身勝手な奴がいたせいで……死んだんだ。その身勝手な奴も一緒に死んだが……死ぬなら一人で死にやがれってんだ」
それだけ言い切ると、その日のことを思い出してかメリーは苛立った様子で先へと進む。
「油機さんは……仲間がいらっしゃったんですか?」
「一緒にアースに来たわけじゃないけどね、来た日が近くて意気投合してたんだけど……もう……一年半前かな? 持ち場についていた前衛の一人が臆して逃げちゃったことがあって、その一人の背後でサポートをしてたあたしの友人も一緒に……って感じ」
それを聞いて、クルルは少し申し訳なさそうに顔を俯かせる。すると油機は変に気を遣わせてしまったかと慌てふためいた様子で「いやいやそんなに気にしないで、ずっと前の話だし!」とフォローする。
「それに、あたしなんかよりもメリーちゃんの方がずっと辛い過去を送ってるよ……メリーちゃんの両親も、それで亡くなってるから」
その言葉で一同は、不穏な表情を見せる。
「アースの人間が後方支援に徹するのは一人で戦う力がないからなのはわかるよね。誰か一人の命令無視で持ち場が崩れると、簡単に命を落とす……さっきメリーちゃんが言った通りにね」
続いて吐かれた油機の言葉を聞いて、一同はなんとも言えない気持ちに襲われた。先程メリーが言っていた「7歳の頃から戦っている」という言葉は、現在14歳のメリーが戦い始める動機となった理由なのであろううと察する。小さな頃からどれだけ辛い悲劇に見舞われようが、いつか世界を取り戻す希望を抱いて前へと進み続けようとするまだ小さな背中を見て、一同はそれ以上何も言えず、ただ黙ってメリーの進む後に続いた。
「おじき! いるか? 來栖から連絡があった連中を連れてきたぞ」
メリーに案内されて入り込んだ周囲よりも一際大きいサイズのテントの中へと一同は入り込む。すると、むわっとした熱気に一同は包まれ、直後、カーンッと金属を打ち付けるかのような音が鳴り響いた。中に誰かがいるのがわかるや否やメリーが声を張り上げてそう聞くと――、
「おーいるぞいるぞ、こっちだこっち!」
物資の入った木箱で隠れたテント内の奥の方から、ハンマーを持った大きな手がぷらぷらと揺り動き、耳を塞ぎたくなる程の豪快な声が響き渡る。
呆れたようにヤレヤレとメリーが溜息を吐きながら奥へ進むと、タカコよりも一回り大きい筋肉隆々な身体をした色黒の男性が、持ち運ぶのも大変そうな巨大な大剣を熱し、ハンマーを打ち付けてそれを鍛えていた。
「よう、連れてきたか! こいつらが新しい英雄様達か……よろしく頼むぜ!」
傍へと寄ると筋肉隆々の男性はハンマーを打ち付けるのをやめて一同へと向き合う。まる獣のように逆立った深緑色の髪、人を疑うことを知らなさそうな気の良さそうな目とその圧倒するかのような肉体は、ヴァルマンの街でもよく見かけた土木工事をするおじさん達を一同に連想させた。服装も首元にタオルを巻き、木綿で作られた質素なズボンと服を纏っており、どこにでもいそうな農民の雰囲気を漂わせている。
「まず自己紹介をしろおっさん。反応に困ってるだろうが」
「おおーそうだなすまん! 俺はバルムンク・モハロス! バルムンクって呼んでくれたらいい……一応、このレジスタンスをまとめる隊長をやらせてもらっている。よろしくな!」
その言葉に、一同は予想外だと言わんばかりの驚き顔を浮かべて見せる。確かに強そうで屈強な見た目をしてはいたが、隊長と呼ぶにはあまりにも平凡な身なりをしていたからだ。
「こんなおっさんでも一応レジスタンスの隊長だ。敬意を払って接しろよ」
「よしメリー。まずお前が俺に敬意を払え」