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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-13

「鏡さんは……今どうしてるの? がっかり英雄って……どうしてそんな呼ばれ方」


「あの村人なら、とっくの昔に死んだよ」


 メリーから放たれた痛烈な言葉に一同は歩を止めて固まる。あまりのショックの受けぶりに油機も足を止めてオロオロと困った様子見せ、メリーも軽く溜め息を吐くと少し申し訳なさそうに頭に手を置いた。


「あー……悪い。あんた達、その村人の知り合いだったな。言葉が悪かったけど……事実だよ。あの村人ならもう半年以上も前に亡くなってる」


「鏡さんがですか? あの殺そうとしてもゴキブリのようにしぶとくカサカサ動く鏡さんが?」


「ゴキブリって……村人がそんなタフなわけないだろ」


 信じられないのか、ティナは動揺した様子で鏡とゴキブリを足して二で割ったような生物を想像しながら、「ありえないです、ありえないです」と連呼し始める。


 一体何を想像しているのか少し引き気味に気になりながらメリーはティナを心配するが、それを遮るようにクルルが辛辣な表情で目の前に立ち塞がり、メリーの肩を掴んだ。


「鏡さんがそう簡単に死ぬとは思えません……一体何があったんですか?」


「随分信用してるんだな、こっちは久しぶりにアースへと現れた英雄がまさか村人の役割を持った平凡な男性って知ってがっかりだったってのに。まあ……私達もちょっとは期待したんだぜ? 村人でアースに出てきたアースクリア出身の人物なんて初めてだったからな」


 その時の光景を思い出すかのようにメリーは感慨深くつぶやく。どこか良いところがなかったかを必死に思い出そうとするが、メリーは徐々に表情を歪ませると溜息を吐いてクルルの肩にポンッと手を置いた。


「いや、やっぱり最悪だったぜ? アースに出て来れたとはいえ村人だから装備は必要だろうって武器を渡そうとしたら、『素手でいい』って武器はもっていかないし、最初にちょっと軽く戦ってはいたからまあそこそこに実力はあったんだろうけど、一番大事な戦局で隊長の命令を無視して戦おうとすらしなかったし……挙句の果てには」


「……どうなったの?」


 鏡の末路にクルルの隣にトテテっと足音をたてながら近寄り、アリスも息を呑んで耳を傾ける。


「隊長の命令を無視して戦おうとしなかったのに、突然やる気になったのか敵陣に突っ込んだんだ。……でも丁度その時は、レジスタンスが仕掛けていた罠に敵を呼び寄せることに成功して、一網打尽にしようとしていた瞬間でな、事前にそういう作戦って伝えてたはずなんだが……」


「ってことは……その罠にかかったってこと?」


「ああ、多分作戦とか何も聞いてなかったんだろうな、なんか常にどうでもよさそうに呆けた顔してたし、アホそうだったし。罠に巻き込まれて敵と一緒にあの世いきだ。最初の出撃で命を落とす英雄なんてがっかり以外の何物でもないだろ、ましてや死に方も糞だし」


 その経緯を聞いても、一同はまだ信じられないのか困惑する。ティナも、「確かにあの人はアホですけど……」と言いながらも、その程度で死ぬような男ではないと頭を抱えていた。


「なんじゃそりゃって感じだったよね?」


 現場に居合わせたのか、油機も少し引きつった表情で、「あはは……」と微笑を浮かべる。


「どんな罠だったかは知らないけど……鏡ちゃんがそれくらいで死ぬとは思えないわ」


「どんな罠をを想像しているかは知らないけど、どんな手強いモンスターでも一撃で殺せる程の爆発を巻き起こす兵器ディグダーを使ったんだ。まず耐えられるわけがないし、耐えられたとしても地面に生き埋めさ」


 だがそれを聞いても、ダークドラゴンの無数の爆発を耐えきり、ダークドラゴンのいる元へと穴を掘り進めたのを見ていたメノウは、それでも生きているだろうなと額に汗を浮かべさせる。


「信じられないわ……アースクリアでの力がそのままアースで発揮できるなら鏡ちゃんがそんなあっけなく死ぬなんて想像できないもの……鏡ちゃんのレベルは999なのよ?」


「え? はい?」


 タカコから発せられた言葉が信じられないのか、まるで耳を疑うかのように油機はもう一度聞きなおそうとする。


「だから! 鏡さんのレベルは999なんです! そう簡単に死ぬわけがないんですよあの人は! どれだけボロボロになってもしぶとく生きてるような人なんです!」


 必死に鏡という存在を伝えようとするティナを見て、メリーと油機は顔を見合わせると、メリーは軽く嘲笑し、油機は噴き出すように大きな声で笑い始めた。 


「あはは冗談ばっかり! ありえないよそれは、皆騙されてるか……レベル99と見間違いしてたんじゃない? レベル999って……成長の限界だよ? 村人がレベルを上げるのがどれだけ大変か知ってるよね? ありえないありえない」


 心底面白かったのか、油機はお腹を抱えて大笑いし始める。それと同時に、どこか納得した様子で、「変につっかかるから何かと思ったけど……そういうことかー」と、まるでこちらが鏡は強いと勘違いしていると思っているかのように吐き捨てる。


「ほ、本当のことだよ!」


 信じようとしない二人に、アリスもティナに加わって嘘ではないことを伝えようとするが――、


「でも死んだ、それが全てだ。現にあのがっかり英雄は半年以上戻ってきていない。もし生きているなら戻ってきているだろ? あのがっかり英雄が本当は強かったとかどうかなんてどうだっていい話さ……ここにはもう、いないんだから」


 真剣な表情でメリーに一瞥され、その通りすぎる事実にアリスとティナは言葉を失ってしまう。


「がっかり英雄の心配じゃなく、自分達の心配をしたらどうだ? それだけ外の世界は厳しいんだ……必ず生きて帰れる保証なんてどこにもない。無論私は全力でサポートするが……命令無視をされたらその限りじゃない、あんた達は……がっかりさせないでくれよ」


 そして、この話は終わりだと言わんばかりにメリーはそう言い終えると、再びレジスタンスの本部がある場所へと向けて踵を返し、それ以上何も言わずに歩き始める。


 すると油機も、「えっと……笑っちゃってごめんね?」と気まずそうに言うと、メリーを追いかけるようにしてその後に続いた。


「……行きましょう。ここで考えていても何もわからないわ」


 タカコの音頭でまだ腑に落ちていない様子の一同も、鏡が死んだとは微塵も思わずながら、鏡が一時とはいえ所属していたレジスタンスの本部へと足を運び始めた。


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