終わりの見えない道-11
「あんた達にはこれからここで暮らしてもらうことになる。ここは、人類が最後に希望を見出して逃げ込んだ避難地下施設……ノアだ」
メリーに案内され、避難地下施設ノアの中心部に存在するアースクリアの装置が眠る建物から出ると、一同は見たことのない作りと形の家屋、岩壁に囲まれた地下施設にも関わらず広大な敷地を保有していることに素直に驚きの表情を浮かべた。
だが、街の雰囲気がどこか自分達が過ごしていたヴァルマンの街と似通っており、一同は不思議な感覚に包まれる。
よく見れば、目新しいのは家屋と、街の上空や通路を行き来する鋼鉄の箱と、様々な光を放つイルミネーションのみで、街の中を行き来する人々の服装や、路上に出店している人達の活気は自分達が知っているそれとほとんど差はなかった。
「てっきり街の住民もあたし達が知らないような道具使ってるのかと思ったらけど、そうでもないのね。私達とそんなに変わらないじゃない」
そんなにアースクリアと変わり映えしない人々に、パルナは少し残念と頬に手を置きながら溜息を吐く。
「ほらほら、アースクリアにも電気ってあったでしょ? 電気を作り出すためのジェネレータが高価すぎてゲームセンターとカジノ以外で使われてなかったやつ。ノアの施設も同じで全員に電気を行き渡らせることが出来ないから物資や人を運ぶディグダーと、街全体を照らす役割と危険を知らせる役割のディグダーにしかまともに使われてないんだよ。だから皆、そんなにアースクリアと変わらない生活をしてるわけ」
「……ディグダー?」
「ほら、あの上を走ってるあれと、地上を走ってるあれのこと。昔はそれぞれモノレールとかトラックとか名称があったみたいだけど、今はああいう大量の電気を消費して稼働する機械をディグダーって呼ぶの」
首を傾げるレックスに、油機は新設丁寧に空と地上を移動する鋼鉄の箱やイルミネーションを指差す。
「基本的に食料品や物資は少量だけど街の人達全体に行き渡るんだけどね。賢い人達はどこかで物資を調達したり作り出したりして、ああいう商人まがいなことしてんの。でもああいうの助かるんだよ? 実際に使えたりするものは物々交換できるし、あたし達はちゃんと人として生きてるって、昔のようにいつか外でこういう生活が出来たらいいなって、思い直せるから」
どこか悲し気な表情で感慨深くつぶやく油機の言葉を聞いて、アリスは目についていなかった部分に徐々に気が付いていく。街の暗い路地裏には、貧相な格好でまるで生まれてきたことを後悔するかのように座り込む人々、まだ希望を抱いているのか、路地裏から顔をこっそりと出して、その街の活気が本物であると信じ込む子供達。
よく見れば、路上で出店している人達の眼もどこか虚ろで、僅かな希望を信じて無理やりそれを演じているかのように見えた。
「色とりどりに変化して街を照らしてるディグダーあるでしょ? あれ、ちょっとでも気を紛らわせたらって取り付けられたんだって。今じゃ、子供達にしか効果ないみたいだけど」
「服装に違いがあるのは? スラム街みたいなのがあるの……?」
「ううん、自分達で用意したかどうかだけ。ほら、物資は配ってるって言ったでしょ? たまに布とかも大量に手に入るから、それを支給した時に自分達で服を作ったり作ってもらったりするんだけど……もう食べて生き繋ぐこと以外に興味がないのよあの人達は、もうこの生活から永遠に抜け出せないって思ってる。そういう親を持ってる子供達も自分達で作ることが出来ないからああいう恰好になっちゃうの」
言われて、アリスは自分の服装に目を向ける。こういう貧困した現状にも関わらず、自分達の服をしっかりと用意してもらったことに、少なからず申し訳ない気持ちになった。
「街の連中の心配をしているんだったらやめときな、あんた達は街の連中よりももっと過酷な目に遭うんだ……もっと堂々と歩けばいい」
そこで、何か街の人達にしてあげられることが出来るのではないかと考えるアリスに釘を刺すかのように、メリーが鋭い視線をぶつけながら言い放つ。
「そういえば本題を聞いていなかったな、俺達は……何をさせられるんだ?」
そこで街の路上の中央を歩きつつ、レックスはそう問う。
「基本的にはアースクリアでの生活と変わらないよ。所属する部隊によって変わるけど……あなた達はあたし達と同じ奪還班だから……敵を倒すだけ。詳しい話は本部についたら話すよ」
「……なるほどな。しかし油機……だったか? お前は随分とアースクリアに詳しいんだな。アースの人間ならアースクリアの事情を皆知っているものなのか?」
「アースクリアの存在は皆知っているだろうけど、アースクリアの細かい内部事情を知っているのは実際に見てきた人だけだよ。あたしもアースクリア出身だからね」
それを聞いて、一同は「えっ?」と目を見開く。自分達の先輩がこうして今目の前に、それも自分達と対して年齢の変わらなさそうな女性が魔王、もしくは1万ゴールドを集めたという事実に驚きを隠せなかった。
「そんなに驚かなくても、それに私がここに来たのって5年も前……あたしが17歳の時だし。それに魔王を倒したんじゃなくて1万ゴールドを集めてだからね。あたし商人で才能があったから、勿論レベルも117でそこそこあったけどね?」
「ということは、メリーさ……メリーちゃんもアースクリアから来たんですか?」
「おい、どうして今言い直した」
「いや、なんかそっちの方がしっくりきたので」
ティナは身長的に自分よりも低いメリーを見てかつてのアリスを脳裏によぎらせると、思わずほっこりとした表情でポンっと頭に手を置いて撫で始める。
その行動に、「やめろ! 触るな! 子供扱いするな! こう見えて14歳だ!」と威嚇するかのようにティナの手を払いのける。