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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-8

「ねえ……鏡さんは? 鏡さんはどこに行ったの?」


「鏡……? はて、どっかで聞いたことがあるような気も……覚えてないですね」


 微笑を浮かべながら答え返した來栖の素振りから、明らかにわざと忘れた振りをしているのがわかり、アリスは少し不機嫌そうに頬を膨らます。


 なだめるようにパルナが前に出てアリスの頭をポンッと叩くと、來栖に鋭い睨みをぶつける。


「私達が来る前に一人……ここに来た村人がいるはずよ。私達は希望といわれる程に稀少な存在なんでしょ? その内の一人を忘れたなんて言わせないわよ」


「ふふ……冗談ですよ。そう睨みつけないで、怖い怖い。ええ、勿論知ってますよ、今から丁度一年前にここへと訪れた村人……名前は確か鏡でしたね」


「一年前……? 何言ってんのよ、鏡が私達の元にいなくなったのは三年前のはずよ」


「そういえば言ってませんでしたね。アースとアースクリアでは時間の過ぎ方が違うんですよ」


「……は?」


 あまりの不可解な言葉に、思わずパルナは困惑した表情を浮かべてアリスに視線を向ける。すると、アリスも信じられないといった驚きの表情でパルナに視線を返した。


「アースクリアはアースの三倍の速度で時間が過ぎます……我々アースの住民も次の希望が現れるのを待ってられないのですよ。とはいえ、体感時間は一緒ですので別に問題のある話ではないと思いますが」


「ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ今こうしている間にもアースクリア内は三倍の速度で時間が過ぎてるってこと?」


 パルナの言葉に、來栖はあっけらかんとした笑顔を浮かべて、「はい、そうですよ」と返す。


「アースクリア内の人間が外に出た時、身体が崩壊してしまう原因の一つがそれです。三倍の速度で成長した身体を、アースに適応させるために投薬を施します。あ、安心してください。皆さんがアースで生活しても私達と変わらない速度で歳をとりますので」


「歳の話なんてどうでもいいわよ! ……いや、どうでもよくはないけど。もし私達がアースに帰りたい時はどうすればいいの? 今、私達の身体がこっちの時間の過ぎ方に合わせられてるなら、戻った時におかしなことになるわよね⁉」


「そこは安心してください! ちゃんと私が責任をもって再びアースクリアに身体の体感時間と成長速度を合わせて差し上げますよ。ただ……再び戻すには稀少な薬の投与が必要になります。正直、折角稀少な薬を使って呼び出したのにそのまま帰られるわけにはいかないのでね、帰られるとしても……それに見合った働きをしてもらわなければ」


 言葉で帰れるとは言っても、全く帰す気のない來栖にパルナは表情を歪ませる。一言文句を言ってやろうとパルナは來栖に詰め寄ろうとするが、何故か意気揚々とパルナを押しのけてアリスとクルルが來栖へと詰め寄り――、


「こ、こっちでまだ一年しか経ってないってことは、か、鏡さんはまだ24歳ってことですよね? 私達の元から離れた時はまだ23歳でしたし! 私は今21歳ですから……3歳差しかないってことですよね!」


「ぼ、ボク、歳の差が10歳離れててもいいやって思ってたけど……これならクルルさんも認めてくれるよね? ボクが今16歳だから7歳差で結婚するなんて普通のことだよね?」


「いいえ、認めません」


「えぇ……」


 時間の過ぎ方が違うことに焦るどころか、何故か嬉しそうに笑みを浮かべながらそんな会話をし始めた。あまりの唐突な会話と質問に來栖も、「いや……知らないですけど」と額に汗を浮かばせる。


 時間の過ぎ方についてそんなに気にした様子でもない二人を見て、変に気にしすぎて取り乱したとパルナも改めなおし、ヤレヤレと軽く溜め息を吐く。


「まあ、どっちにしろあの村人と一緒じゃなければ帰るつもりもないし、今はとやかく言うのはやめとくわ……クーちゃんもなんか喜んでるみたいだし。それより、話が逸れちゃったけど……あいつは、鏡はどうしたのよ?」


 そしてパルナは本題に入ろうとする。だが、來栖はその質問を受けるとどこか残念そうに溜息を吐き――、


「血まみれの希望。僕は彼をそう呼んでいました」


 感慨深くそうつぶやく。


「血まみれの希望?」


「ええ、彼が収容されていたアースクリアの装置は、常に彼の血で赤く染まっていました。……生きているのが不思議な程にね」


 それが何を意味しているのか、一同は言われずとも村人でありながらレベル999に上り詰めたが故の代償であると理解する。


「僕は彼が来るのをとても楽しみにしていました。実際彼は村人という不遇な役割でありながらこの地へと辿り着いた。1万ゴールドを集めてここに来たとはいえ……村人、進化の適性がないと言われた存在がここに辿り着いたのは今までになかったことでしたから」


 それを聞いて一同は首を傾げて疑問を浮かべる。まるで、鏡に秀でた実力がなく、1万ゴールドのアイテムを購入することでここにきたと言っているようだったから。


「彼には期待しましたよ。村人という不遇な存在とはいえここに辿り着いたのは事実、もしかしたら変わらないこの世界を変えれる何かを持っているかもしれないと。ですが……」


「ですが……なんなのよ?」


「いえ……彼がどうなったか気になるなら、僕からではなく実際傍で戦いを共にしていた者に聞いた方が良いでしょう? この施設の案内と……アースの現状を説明するように伝えてありますので、気になるのであればそちらからどうぞ。僕は別の作業があるのでこれにて」


 來栖はそう言うと再び指をパチンと鳴らし、足元に仄かに青く光るリングを発生させる。発生したリングが上昇して來栖の身体を包み込むと、その次の瞬間には來栖はこの場から姿を消していた。


 そこで一同は気付く、先程タカコがスキルの力を見せるために地面を殴りつけた時、來栖が驚いた表情を浮かべていた事と、最大で3つしかスキルを持った人物しか知らないと言っていた言葉を。


「あの人……鏡さんの本当の実力を知らないのかな?」

いつもご愛読ありがとうございます。星月子猫です。

2巻のカバーイラストが各予約サイトにて公開されました!

今回も素敵なイラストをふーみ様にご提供いただいておりますので、

よろしければぜひお目通しください! 活動報告にも後程記載する予定です!

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