終わりの見えない道-7
「一ついいかしら? あなたの話の通りだとするなら……私達もそのミュータントとか新人類とかの先輩と同じく、進化した人間ってことになるのよね?」
タカコは、悔しそうに口を閉ざしたパルナの肩に優しく手を置きながら來栖にそう問う。その問いに來栖はその通りと言わんばかりに微笑を浮かべると、小さく頷いた。
タカコにはわかっていた。本当は存在しない閉じられた世界で生きていたという事実を知ったとはいえ、何かが変わるわけではないことを。今大事なのは、自分達の立場を知り、この先どうするか、それを的確に判断することであると。
「もう気付いているとは思うが、君達がどのような優れた進化を辿れるかどうかの適正を表したものこそが役割だ。肉体に特化したもの、知力に優れたもの、さまざまな可能性を総合的に評価し、役割が決められる。そして、進化を重ねた証としてレベルという数値が上昇し、ステータスとして表現される。君は……どれ程のレベルだったんだい?」
來栖の問いにタカコは、「245よ」と答える。すると來栖は嬉しそうに笑みを浮かべると、「素晴らしい」と手を叩いて称賛した。
「私達が進化した存在だとしても……役に立たないんじゃないかしら? 特に私なんて……魔法を使えないもの。身体だけが強い人達なんて今までたくさんいたんでしょ?」
「ええ、確かにあなたくらいのレベルの方々なら今までたくさんいましたよ。ですがあなたは一つ勘違いをしている」
「勘違い?」
「ええ、魔法なんて代物は、別に進化した人間じゃなくても使えるんですよ? あれは……体内の魔力を使用して現象を引き起こす力。まあ……一応それも超能力の一つだけど、人間にそもそも備わっている力です。もっとも、アースクリアの住人はそれを自在に扱えるように魔力の量が多くなるよう進化させていますがね」
一同はその言葉に困惑する。仮にそれが本当だとすれば、今までこのアースへと召還された自分達よりも高いレベルに至ったであろう者達に成し遂げなかったことを、自分達に出来るとは思えなかったから。
「身体も同じです。我々はその進化した身体に近しい力が持てるようにする道具……兵器がある。確かに優れた身体を持つ者は兵器も燃料も無しにそれと同等の力を持つので多大な戦力になりますが、それでも……革新的な力であるとはいえない」
「なら……あなたは私達に何を期待しているの? どうしてそんなに笑みを浮かべているの?」
「進化とは……何だと思います? ミュータントとは? 新人類とは? 超越者とは?」
不可解な言葉が來栖から飛び交い、一同は眉間を寄せて困惑する。だが、その中でメノウとタカコだけが納得した様子で「……なるほど」と感慨深くつぶやいていた。
タカコは同じ役割を持った同じ人間が何故生み出されるのかという観点から、メノウは、自分達には存在しないその特殊性からそれに気付く。
「仮に……魔法が誰にでも使えるのだとして、そんな当時でも進化したと呼ばれる人がいたとするなら、そう呼ばれるだけの特殊な力を持っていたとしか考えられないわ。つまり私達でいう……スキルのことね」
「ご名答、その通りです。かつて、前線で戦った彼らにはそれぞれ特殊な力が一つありました。それはどんな兵器よりも強力でしたが……彼らには足りないものが多すぎた。身体も魔法を扱えるだけの魔力も、特殊な能力だけではどうしようもない。何より彼らは一つしか特殊能力を持っていなかった。……それに引き換え君達は複数の特殊能力、スキルを持っている」
それを聞いてレックスは自分の身体をマジマジと見つめると、すぐさまクルルに風の魔法で自分を吹き飛ばすように頼んだ。直後、至近距離でクルルはレックスに爆風を巻き起こして吹き飛ばそうとする。だが、レックスの身体がスキル、『スーパーアーマー』の力により吹き飛ぶことなく、その場に滞在し続けた。
「素晴らしい……それが君のスキルの力かな? スキルは人によって全く異なる能力が手に入る。どういう能力がどういう条件で手に入るかはわからないが、一度得てしまえば解析は出来る。アースクリアのメインコンピューターが君のそのスキルの効果はステータスウインドウを通して教えてもらえたでしょう? 僕にも教えてくれないかな?」
「その前に答えてくれるかしら、そのスキルを持つ存在をあなた達は欲しているならどうして……レベル100にならないとスキルは手に入らないの? あなたの話だと私達の進化は痛みや苦しみを伴うことにより起こる現象……その成長の仕方も人によって違う……ならいつその特殊な能力が手に入るかなんて、数値で管理できるものじゃないはずよ」
「君の考察は凄いね、タカコ・ビルダーだったかな? これからどれ程の成果をあげてくれるか楽しみですよ。君の言う通り、スキルは自然によって生まれたものじゃない」
「なら……何なの?」
「スキルはかつて新人類、ミュータント、超越者と呼ばれていた者達の身体を解析して、その特殊な能力を開花させられる特殊な遺伝子を注入することで身につきます。ですが、それを常人に注入すれば細胞の崩壊が起きてしまう。その遺伝子に耐えうるだけの強靭な肉体が必要なのです」
それを聞いて、タカコは自分の手元に視線を向けた。そして、握り拳を作っては開いてを繰り返し、納得したかのように、「なるほどね」とつぶやくと、地面へと拳を打ちつける。
直後、タカコの拳から小さな爆発が巻き起こった。再び納得したように頷いて來栖へと視線を向けると、「確かにこれは、普通の人が使えば腕がもぎとれるわね」と言い切る。
來栖も見たことのないスキルだったのか、役割が武闘家の巨大な身体から放たれた一撃に、少し冷や汗を浮かべると、「本当に……楽しみだよ」とつぶやいた。
「ちなみに、レベル100毎にその薬を注入しているのは、特殊な力を持っている者にさらにそれを与えるのは身体に負担が掛かりすぎるからです。まあ、最大でも3つのスキルを持った者しか僕は見たことがありませんが?」
それを聞いて、一同はほぼ同時に鏡を脳裏に過らせる。その時何故か、來栖からいつまでたっても鏡の話があがらないのが一同は気になった。
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