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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-6

 現実世界『アース』。そして仮想世界『アースクリア』。アースクリアとは、アースで起きた最悪の悲劇をなかったことにして作られた世界。アースで暮らすことが不可能になり、行き場を失った人類達が眠る場所。そしてもう一つ、人類が再びアースで暮らせる日々を願われた最後の希望でもある。


 かつて人類は、最悪の悲劇が訪れた時、己が無力さを思い知った。それと同時に、人類に対して希望を抱いた。それは、まるで歯が立たなかった人類の英知の結晶、科学による兵器よりも、進化した人類による力が圧倒的に上回っていたからだ。


 当時、ミュータント、ヒーロー、新人類、超越者と呼称されていた総じて超人と呼ばれる進化した人類達は、その最悪の悲劇に対して果敢に立ち向かい、善戦した。


 結果的に敗北してしまった超人達だったが、その戦いぶりは人類に大きな希望を抱かせた。そして誕生したのが今のアースクリアである。


 元々、アースでの生活が不可能になることを早々に見越し、記憶だけの存在になったとしても生き延びたいと願った人類が作り出した仮想世界だったが、人類はこの仮想世界を利用して、人類を進化させる仕組みを入れ込んだ。


 本来、肉体だけを進化させた人造人間を作ったとしても、その肉体にはそれを制御するだけの知能と精神がなく、暴れるか、そもそも機能しないか、もろく崩れ落ちるかのいずれかだった。


 作られた人間は、どうやってその身体を使えばいいのかも、どうして自分がそこにいるのかもわからなかったからだ。


 だが、アースクリアは肉体を進化させながらも、その身体をアースクリア内にいる精神と記憶だけの自分に反映させることでその肉体を動かす術を学ばせることが出来る。


 とはいえ、劇的な身体の変化を伴わせると、アースクリア内にいる精神と記憶だけの存在はその身体の変化についていけずに壊れてしまう。


また、進化した肉体を作るには、進化を促す薬を与えてから、その身体にダメージを与える必要性があった。筋肉の量を増やすために、辛いトレーニングをするように、身体の進化を促すには筋肉を使用させたり、激痛を与えたり、わざと肉体に傷をつけて細胞の再生を促したり、疲労感を与えたり、毒を投与してその耐性を作ったりと方法は様々だが、その痛みと苦しみを超える程に人間は進化を重ねて強くなった。


 だが、突然の痛みと疲労感をアースクリア内で与えると、やはり肉体の痛みに精神の理解が追いつかず壊れてしまう。肉体と精神をシンクロさせるには、自身の選択と行動で肉体に影響を及ばし、変化させる必要があったのだ。


 故に、アースクリアは自身が強くなることを選択するのが最も暮らしやすい生活を送れるような環境となり、危険を促す存在としてモンスターと魔族が作り出された。


 だがまだそれでも問題があった。アースクリアに収納された一千万人にも及ぶ人間達を進化させたとしても、全ての人間をアースに出すことは不可能だったのだ。


 問題は二つ。アースにはもう一千万人を養える程の食料も住む場所がないということ。そしてアースクリアで育った人間は、アースという環境で生きていくために特別な薬が必要であるということ。その薬無しにアースへと出た外気にも触れたことのない肉体は、急激な環境の変化に耐えきれず崩壊してしまう。そしてその薬は数少なく、作るにも時間を要した。


 それ故に、ろくな進化をしなかった存在のためにその薬を使うわけにはいかず、選ばれた優れた能力を持った存在のみにその薬が使われるよう、魔王という力を示すための最終目標と、戦い以外の才能を示すための1万ゴールドのチケットという最終目標が作り出された。


 才能のない者は、本来の目的通り安寧の地として暮らすことが出来、才能を持った者は己が意志で戦うように仕向けられ、最も優れた存在がアースへと召還される。





「それが……君達の住んでいたアースクリアという存在の全貌」


 そこまでの説明を受けて、一同は絶句した。まさか自分達がモンスターと戦っていた理由が、自分の身体を進化させるためだとは思っていなかったからだ。


「どうして……仮にあたし達が仮想世界の住民なら……死ぬ必要なんてないでしょ? なんで……なんで殺しちゃうのよ! 止められるはずでしょ!?」


 その時、パルナは悲し気な表情を浮かべながら來栖に詰め寄る。大切な人を失ったことのあるパルナは、自分が生きていた世界は精神だけが動く世界だったことを知り、もう帰ってこないとはわかっていながらも言わずにはいられなかった。


「先程も言ったけど、身体と精神を一致させる必要があるからだよ。それに……どこまでのダメージを与えれば死ぬかは個人差がある。何より……全人口千万人を対象に、死ぬギリギリのところで助けるなんて不可能です」


「なんでよ……出来るはずでしょ! あたし達の身体にダメージを与えるのが自動的なら……死にそうな人間を自動で助けることだって……!」


「確かに、その仕組みを入れようと思えば入れられたでしょう。でもアースクリアにはどうあがいても一千万人を超える人間は作り出すことが出来ない……新たな生命を生み出すには誰かの死が必要。村人の役割持った存在を村人だからと殺さないのは、アースクリアが元々人類の安寧の地として作られたからですよ」


「何言ってんのよ……そんなの、そんなの知らないわよ!」


「もし死ぬのを恐れるのであれば、死のリスクから遠ざかった生活を送ればいいだけのこと。あなたが誰を想って言っているかはわかりませんが、死のリスクのあることに挑戦し、死んだのであればそれは自然なことではないですか? 結果的に死んだから異論を唱えているのであればお門違いだ」


 はっきりと告げられた言葉に、パルナは表情を曇らせて口籠る。來栖の言葉通りだった。死のリスクを冒した結果師匠は死んだ。それは仮想世界だからといえ関係なく、危険だとわかっていたのに行動に移してしまった自分の咎でしかなかったから。

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