終わりの見えない道-5
「まるで見てきたかのように言うのね」
パルナはそう言うと怪訝な視線を向ける。
「おっと勘違いしないで。そういう映像がこの施設に残っているだけで、僕が見てきたわけじゃありません。とにかく、突然現れたそいつらに人類は蹂躙されたんですよ……唯一戦えていたのは、当時、新人類とかミュータントとか超越者とか言われていた連中くらいだ」
「何なの……ミュータントって」
「進化した人類とでも言えばいいかな? 体組織の進化によって特殊な能力や、通常の人間よりも数倍から数百倍の力を持つようになった者達。つまり……君達の先輩ですよ」
その言葉に一同は動揺する。それは、自分達の世界では何も不思議なことではない当たり前の存在だった。そしてそれを先輩扱いするということは、自分達も進化した人類であり、この世界に存在する普通の人間とは異なる存在であるということを意味していたから。
「結局のところ、いくら優れた兵器があっても、使う人間が弱ければどうしようもないってことを彼らが証明したのですよ。とはいえ、彼らの力をもってしても……」
「ちょっと待て、僕達の先輩だと? どういうことなんだ……僕達は一体お前達にとって何なんだ? アースとアースクリアの関係性とは何なんだ! はっきりと教えてくれ!」
レックスの言葉に同意見なのか、レックスに合わせるように一同が頷くと、來栖はヤレヤレと首を左右に振り、「仕方がないですね」とつぶやくと、指をパチンと弾いた。
直後、白い壁で覆われていた空間は徐々に黒く染まり、何も見えない真っ暗な空間へと包まれる。暫くして、足元からオレンジ色の光が溢れ出し、一同はすぐさま足元へと視線を向けた。
そこには、底が視認できない程に深く大きな円形の穴が広がっており、その中央には全体の半分以上は占めるであろう巨大な柱が鼓動するかのように光を放っていた。穴の壁の側面には小さなカプセルが無数に設置されており、その一つ一つがオレンジ色の仄かな光を放っている。
「何ですか……これは。何なんですか⁉」
ティナがそれを視界に入れた瞬間、傍にレックス達が今まで見たことのない程に驚愕の表情を浮かべて取り乱し、來栖の傍へとすぐさま駆け寄ると下に広がる光景が何なのかを問い詰めた。
対する來栖は、ティナのその慌てぶりを見て予想通りとでも言いたげに微笑する。
「それだけ慌てているということは気付いたんでしょう? それで……合ってますよ」
來栖がそれだけ告げると、理解したのかティナはその場で跪き、信じられないとでも言いたげに黙って真下に広がる光景に視線を向け続ける。
「ティナさん、一体どうしたんですか? 何をそんなに慌てて……」
「……わからないんですか?」
あまりの慌てぶりにクルルが心配して駆け寄ると、ティナはわなわなと震わせながら指を真下に見える無数のカプセルの内の一番近い場所に指を差した。
一同はその指の先を追ってカプセルへと視線を向ける。カプセルは鼓動するかのようにオレンジ色に発光する特殊なガラスに包まれており、中の様子はよく見えない状態だった。一同はティナが一体何に驚愕しているのかいまいちわからず、暫くカプセルを凝視する。
だが、カプセルが放つ光が最も強まったその瞬間、ティナが気付いたであろうそれにタカコも気付き、目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。
「人が……人が中に?」
言われて、まだ気付いていなかった者もカプセルを凝視し続けてそれを確認する。
カプセルにはタカコが言った通り、光が最も強まった瞬間に人らしき影が薄っすらと映っていた。いや、人としか思えない姿と形、それがカプセルの中を浮遊するかのように滞在している。
その瞬間、ティナを除いてその事実に異常な程の驚きをアリスとメノウは見せる。
「いやはや、そこのお二方と僧侶さんはご察しがいいですね。おっしゃる通り、あの中にいるのは人間……それも」
まるで一同の焦燥を煽るかのように來栖は言葉を溜める。だが、言われるまでもなく一同にはそれが何を意味するのか理解していた。
ヘキサルドリアと同じ場所に存在する国、日本。真下に広がる無数のカプセルとその中に存在する人間。そして自分達がこの世界で目覚めた時に存在した白い球体状の装置と、そのカプセルが酷似しているという事からわかる真実、それは――、
「アースクリア内にいるヘキサルドリア王国の住民……その全てがあそこで眠っています」
自分達が、気付かない内に檻の中に閉じ込められた虚偽の人生を過ごしていたという事を物語っていた。
「中央に存在する巨大な柱、あれこそがアースクリア。人類が最後に見出した希望の一つ」
その時、一同はまるで走馬燈を見るかのように、鏡がいつか言っていた言葉を一つずつ思い出していた。ステータスという概念、役割という概念、まるで強くなるように仕向けているかのような世界の作り。その全てが、この事実へと収束していく。
「凄いな……凄いや。鏡さん」
その世界を疑って抗っていた鏡の考えが何一つ間違っていなかった事実に、一同はショックを受けながらも、改めてその存在の特殊性に感銘を受けた。