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LV999の村人  作者: 星月子猫
第三部
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終わりの見えない道-3

「あなたは……誰?」


「僕の名前は西条(さいじょう)來栖(くるす)。そうですね……あなたにとって僕は、お父さんみたいなものかな」


 その言葉を聞いて思わずアリスは顔を引きつらせると、更に來栖との距離を取った。


「いやぁ、そこまで露骨に嫌がられると少し傷つきますねぇ。事実なのに」


「僕のお父さんは一人だけだよ。初めてあった人にお父さんを名乗られたくないかな」


 警戒しながらアリスがきつい言い方で答え返すと、何故か來栖は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「ここに来た者達は皆同じことを言います。あなたも同じことを言うんですね……ふふ」


 まるで子供のような無邪気な笑顔で、來栖は暫く一人でクスクスと笑い続ける。何に対してそんなに嬉しそうな顔をしているのかわからず、アリスは息を呑んで來栖が話を続けるのを待った。


「さて……聞きたいことが山ほどあるでしょうが、先にここに訪れた者全員に必ず伝えているこれだけ言わせてください。ようこそアース……地球へ」


 聞き慣れているはずの言葉を耳にして、アリスは思わず首を傾げた。微妙に自分が知っているそれとは、違っていたからだ。


「アース? アースクリアじゃなくて? ここは僕たちが住んでいた世界とは違うの?」


「根本的には同じ……でも全く異なる世界とでも言いましょうか? あなた達が住んでいた世界、アースクリアが夢だとすれば、今あなたと私がいるこの世界、アースは現実」


 敵意を剝き出しにして警戒していたアリスも、その話を聞いて警戒を解き、困惑した表情を見せる。情報を提供してくれていることから、襲い掛かってくるような敵でないのはわかったが、話の内容がアリスにはさっぱりと理解出来なかった。


「いいですねぇその表情。頑張って考えたけどわからないという顔をしている」


「もったいぶらずに教えてくれればいいのに……ところでメノウはどこに行ったの? あなたがメノウを隠したんでしょ?」


「彼は少し我が強そうでしたので、先にメインホールへと送り飛ばしました。顔を合わせただけで暴れられても困りますからね。ちなみにあなたとこうして二人だけで会話をしてるのはとてもシンプルな理由ですよ、魔族と……話をしてみたかったんです。魔族がここに来るのは……初めてのことですからね」


 だが、「ですがもう満足しました」とつぶやくと、突然指をパチンと鳴らして來栖の足元とアリスの足元に円形状の青い光を発生させる。


「何度も説明するのは面倒なので、ここから先の話は皆さんがいる場所でさせていただきます」


 足元に出現した青い光が徐々に上昇し、アリスの身体を包み込むと、アリスの視界は一瞬にして別の風景へと移り変わる。そこは、先程來栖が漏らしていたメインホールと思わしき空間で、ずっと待っていたのか、タカコ、レックス、ティナ、クルル、パルナ、メノウの姿もあった。


「アリス!」


 アリスの姿を見るやいなや、パルナが安堵した表情ですぐさま駆け寄り、確かめるようにぎゅっと強く抱きしめる。その後に続いて、他の者もアリス傍へと駆け寄った。


「アリス様……ご無事でしたか。何かされたりはしませんでしたか?」


「うん、大丈夫だったよ。メノウも大丈夫みたいだね」


 角のないメノウに慣れていないせいか、突然目の前に接近してきた人間にしか見えず、美青年としか言いようがないメノウにアリスは一瞬びくっと後ずさりし、すぐさま誤魔化すようにはにかんだ笑顔を見せる。その様子を見て、「そうなりますよねぇー……」と、同じ反応をしてしまったのかティナが苦笑して視線を横に逸らした。


 そしてタカコとクルルとレックスも、全員が無事揃ったことに安堵すると、ほっと溜め息を吐いて微笑を浮かべた。


「あー……でも良かったわ。メノウだけがここに来たからあんたに何かあったんじゃないかって話てたのよ。あのわけのわからない男に変なことされなかった?」


「失礼だな。僕は誰かれ構わず手を出す畜生じゃないんだけど?」


 アリスの両肩を掴んでいたパルナは思わず手を放して背後を振り返る。そこには、皮肉った笑みを浮かべながらやれやれと溜息を吐く來栖の姿があった。


「おや? 今度は飛び跳ねないのかい?」


「二回も同じ登場の仕方されて驚くほど、あたしの肝は小さくないのよ」


 そう言いながらも、パルナは身構えて徐々に後ずさりをしていた。それを見て満足そうに笑みを浮かべると、來栖は一同から距離を取る。


「さて改めまして、ようこそ皆さん! 次のステージ……アースへ、随分と久しぶりの英雄様達のご登場だ。それも同時に七人も……丁重におもてなしさせていただきますよ」


 軽い口調で活き活きと言葉を述べた來栖と相反して、一同は緊迫した表情で黙りこくる。あまりにもわけのわからなさすぎる現状を前に悠々と笑顔で話をする程、一同に余裕はなかった。


「いやー皆さん、見事に笑いませんね。心配しなくても何もしませんし、何も起きませんよ? それに僕はあなた方にとって協力者であると言ってもいい」


「協力者だと言うなら答えて頂戴……ここは、一体どこなの? アースって言っていたけど。私達の住んでた世界……アースクリアと何が違うの?」


 不安を掻き消すかのように、タカコはずっと気になって仕方がなかったことを言葉にする。一同も同じことを疑問に思っていたのか、賛同するかのようにウンウンと頷いた。


「アースクリアは……この世界、アースで起きてしまった『最悪の悲劇をなかったことにして』作られたもう一つのアース、人類が最後に希望を見出した避難場所。……疑似世界」


「……どういうことだ?」


 まるで、自分達は存在していない世界から来たかのような言い回しに、レックスは権幕した表情で問いかける。だが來栖は答えることはなく、含みのある笑みを浮かべてレックスを横目で見ると、「話には順序というものがある」と言って言葉を続けた。

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