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LV999の村人  作者: 星月子猫
第一部 
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第二章 そんなものに、なんの価値がある?

 二歳の頃、グリーンスライムを倒した時に鏡はある一つの疑問を抱いた。


『どうしてこいつらは、お金を持っているのだろうか?』


 その疑問は、当時二歳の鏡の中から一瞬にして消え去った。それがこの世界にとっての常識、当然の現象。


 いや、むしろ二歳だったからこそ思えたことなのかもしれない。


 当たり前という魔法の言葉は、いつしか鏡が抱いた疑問を消し去ってしまった。


 それから鏡は、毎日のようにグリーンスライムを倒し続けた。時たま飛ばしてくる毒を喰らわないように、必ず1対1の状況で戦い、石ころを投げつけながら、時には落とし穴を掘って、そこに石ころを投げつけながら、着実に経験値を取得していった。


 だが、グリーンスライムの個体にも限りがある。鏡が毎日のようにグリーンスライムを倒し続けて、鏡のレベルが3になったのはそれから一ヶ月後のことだった。


 次に標的にしたのは、村の近くに存在するモンスターの中で、グリーンスライムの次に多く存在するモンスター、モスゴブリンだった。


 猪のような見た目で、全身緑色の肌を持ち、突進攻撃と共にその大きな口で標的にかぶりつく凶悪なモンスター。見た目の気持ち悪さも増して、鏡も手を出すのを躊躇っていたが、レベル3になり、明らかに今までよりも身体が軽く、力も増えたと判断した鏡は挑戦したのだ。


 結論からいうと、倒すのは簡単だった。ほとんどグリーンスライムを倒した時と同じ要領で、モスゴブリンを倒すことが出来た。一撃喰らえば死ぬし、集団で行動していれば、その突進攻撃からバラバラに動き回り、誰かが犠牲になったかもしれない。


 だが、鏡は一人で戦っていたため、その危険性がなかった。突進してきたら避けて、背後から殴る蹴る、石を投げる。それだけで倒せた。


 モスゴブリンの討伐を開始して一年くらい経った頃、鏡のレベルは4になっていた。逆に言えば、4にしかならなかった。理由は簡単で、モスゴブリンのレベルが4だから、いくらモスゴブリンを倒したところで、レベルは4までしか上がらないから。


 鏡が次のステップに踏み出そうと思えば、更に一つ上のレベルのモンスターを倒さなければならず、村の周辺で次に弱いモンスターとなれば、それはレベル7のモンスター、ゴブリンだけだった。


 大人の忠告もあったが、さすがに一足飛びにレベル7のゴブリンを倒すのは危険じゃないだろうか? そうずっと思っていた鏡だったが、いつまで経ってもレベルが上がらない現状から抜け出すため、鏡はゴブリンと戦うことを決意する。


 モスゴブリンを無傷で一年間倒し続けれたのだ、きっとゴブリンもなんとかなる。そうタカをくくり、鏡はゴブリンと戦って、どうして村人の大人達がモンスターと戦おうとしないのかを理解した。


 実にシンプルな答えだった。それは、死のリスクが高すぎるということ。


 人間と同じく人型で、常にぼろぼろの鎧を纏い、接近すればモスゴブリンと同じく大きな口で噛みつく緑色の怪物には、今までの戦法が通用せず、鏡は死にかけたのだ。


 距離を保ち、遠距離から攻撃を仕掛けるも、纏った鎧で防がれ、全くダメージが通らない。なのにも関わらず、向こうもこちらと同じく遠距離攻撃……石を投げつける行動を真似てきた。


 ゴブリンから放たれた投石は、その手元から離れた瞬間に視界から消えさり、鏡の右肩の肉をかすかにえぐり取った。


 もしもそれが、ほんの少しでもずれて頭部に命中していたら、鏡は即死していただろう。


 その時に初めて理解する。グリーンスライムとモスゴブリンも、今まで運よく攻撃が一度も当たらなかっただけで、一撃でも当たっていたら、即死していたことに。


 そして、村人という役割がどれだけ不遇な存在なのか、一目散に村へと逃げ、追いかけてきたゴブリンを村に滞在していたレベル10の戦士の男が一撃で倒したのを見て、鏡は完全に理解した。


 圧倒的なステータスの差、それを目の当たりにした鏡は、久しく忘れていた感覚を、再び思い出す。


『ロールって……何なんだろう?』


 この世界にとって当たり前のこと、当たり前の存在、常識に疑問を抱いた。


 言いようのない、不可解な感覚が鏡を襲った。だが、その答えは見つからない。一人一人に与えられた生まれ持った役割、それ以外に誰も答えようがないし、答えがない。


 そしてその疑問もまた、鏡にとっての壁という認識へとすり替わり、忘れさられる。


 だが、鏡は諦めなかった。レベル10の戦士が倒せるなら、レベル10の戦士が持つパワーで攻撃すれば、きっと村人でもゴブリンは倒せると。


 本来ならそこで心が折られ、諦めるべきはずのことを、鏡は諦めなかった。認めたくなかったのだ。村人として生まれたのなら、村人として生きるしかないという現実を。


 だが、死のリスクが異常な程に高かった。そして、鏡は死のリスクを背負うつもりもなかった。そうなると単純に、今より強くなってリベンジする以外にない。


 だが強くなろうと思っても、腕立て伏せ等の筋トレ、成長による微々たるステータスの上昇しか望めない。本当に強くなろうと思えば、レベルを上げる以外に方法はない。


 そして、レベルをあげようと思えば、ゴブリンを倒す以外に方法はない。


 八方塞がりだった。どうあがいてもゴブリンを倒すなんてことは、一人で達成できない。


 他の村人に協力を要請しても、無論、誰も死にたくないため、協力なんてしない。というより、まだ子供の鏡に、モンスター退治に行かせられる訳がない。戦士を雇ってレベリングをしてもらおうにも、子供だから駄目。そしてお金がないから駄目。こればかり。


 そして、どうしようもない現実から抜け出すことが出来ないまま。鏡は7歳になった。


 7歳に成りたての時、鏡のレベルは相変わらず4のままだった。ステータスは成長によって微量に上がっていたが、大きな変化はない。


 そんな7歳に成りたてで、親の仕事で仕立てた服を王都へと納品するために、村に滞在していた戦士を雇って、荷馬車で王都へと向かっていた時のことだった。




 モンスターに襲われて。父親が目の前で血まみれになって殺された。




 そしてその日から、鏡 浩二という存在の物語が始まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] UOっぽいですね
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