向き合うこと、それが始まり-10
同時に、自分の考えが如何に浅かったを思い知り、怒りにも似たあらゆる感情が押し寄せた。
つまり自分達はそういう仕組みの元、鼻からずっと気付かずに踊らされて生きてきたということになったから。
「話は終わりだ……」
すると、本当にもう話し合う気がないのか王はそう言って、何もない空間から手元にシンプルな作りの大きな大剣を取り出す。それに呼応するようにして、パルナとミリタリアとレックスも各々武器を構えた。
「どうしましたパルナ? この世界の真実を知って戸惑っているのですか」
その時、武器を構えながらも戸惑いの表情を見せるパルナが気になり、ミリタリアはそう声をかける。
「あなたは……知っていたのですか?」
「ええ知っていましたよ。ですが、私が王に味方をするのに変わりはありませんでした。何故ならいくら存在がリセットされようと、魔王が再配置されようとも所詮は魔族。魔族は魔族でしかなく…………敵なのですから」
そして、パルナ問いにミリタリアがそう答えると、パルナの表情から迷いが消え、「そうよ……その通りだわ」と、自分を納得させるように繰り返してつぶやき、鏡へと武器を向けた。
「まずは魔王……お主からだ」
「……なに?」
次の瞬間、その場にいたミリタリアとレックスを除く全員が驚愕の表情を浮かべた。
王が剣を握り、地を蹴りつけて玉座から離れると一瞬にして、王は魔王のすぐ目の前へと接近したからだ。
「何をそんなに驚く? ワシは……王だぞ?」
その動きは、普段鏡が一瞬にして移動するそれと酷似していた。つまり、王は少なくとも速さにおいて鏡と同等のステータスを所持している裏付けにもなった。
「ワシの力に驚いたか? ならば早く認識を改めることだな。王は勇者、そして賢者にも並ぶ力を持っている」
そして王はそう言いきった直後、突如、エステラーが魔王の姿を消していたものと同じような歪んだ空間を目の前に発生させ、魔王をそんな空間の中に包みこむ。
「お父さん!」
すぐさまアリスが魔王を助け出そうと駆け出すが、次の瞬間にはもう魔王の姿は歪んだ空間と共に消え去っていた。
「おい、魔王をどこに消した!?」
「この者が死んでは困るのでな、再配置には大きな力を必要とする。ダークドラゴンでさえそう連続して力を使うことはできん。本来の役割通りに死んでもらう。そしてそれは今じゃない」
それを聞いて、鏡は表情を強張らせた。そして、かつてない程に心を怒りの感情で満たさせた。誰よりも魔王を殺すことを望んでいた王が、自分ではなく、他人に殺させるようとしてきたその事実に。そう、まるで茶番だったから。
「お主達は……そうだな。そこの魔族二人は不要だ。そこの村人……そして僧侶。お前たちの力には価値がある。ワシが洗脳を施してやろう」
「ふざけんな、俺達はお前達の戦いの道具じゃねえ!」
そして、王のその宣言に鏡は激怒し、地を蹴って王の背後へと回り、「俺は洗脳される程弱くねえ!」と殴り飛ばそうとする。だが――、
「確かにお前たちは戦いの道具ではない」
「なっ……?」
「だが、戦ってもらわねば困るのだ。特にお前のような優秀な存在にはな」
背後に回ったはずが、鏡は王に背後をとられていた。
そして次の瞬間には、背を強く蹴られて吹き飛び、側面に展開されていたバリアへと打ち付けられる。
「ガハッ!?」
バリアは与えた反動をそのまま返す。それ故に、打ち付けられたダメージと打ち付けた威力がそのまま跳ね返り、普通に壁に激突するよりも遥かに重いダメージが鏡へと圧し掛かった。
「あんたが戦っているのはモンスターじゃないのよ? あなたと同じ人間。モンスターと戦ってきたみたいに、簡単にいくと思ったのかしら?」
すると、小馬鹿にするような笑い声をあげながらパルナがそう言った。
「どういう……ことだ?」
「私の力であなたの身体能力を低下させていただきました。パルナから聞きましたが、あなたは身体能力が高いだけで、特にそれ以外に特徴がないそうですね」
「っ……」
そう言ってきたミリタリアの手元に視線を向けると、ミリタリアの手元には紫色に輝く仄かな光が放たれ、そのままそれが自分へと繋がっていることに気付く。
同時に、これがデビッドの言っていたミリタリアのスキルであるということを悟った。
気付けば、鉛の鎖を巻き付けられたのように身体が重く、いつも自分が無意識で動かしている身体が全然ついて動かなかった。思い通りの力を発揮できないというのが、脳内での考えと実際とでここまで差が生じるとは思っておらず、鏡は思わず冷や汗を浮かべる。
「だったら……あんたから倒せば!」
「無駄だ」
負ったダメージをティナに癒してもらうと、鏡は即座にミリタリアの元へと向かって地を蹴りつける。だが、下げられた身体能力のせいで思うように身体を動かせなかった鏡は、レックスに進行を妨げられると、立ち止まった隙に再び王に今度は大剣で斬り飛ばされる。
「か……鏡さん!」
「真……剛天地白雷砲」
次の瞬間、鏡に悪寒が走った。仄かに魔力が感じられる巨大なエネルギーの塊が自分へと接近している。それを本能的に感じ取って鏡は斬りつけられてダメージを負った身体を無理やり転がさせ、飛んできたそれを回避する。
直後、白い雷を周囲に放ちながら接近してきた巨大な斬撃は、鏡のいた位置にまで飛ぶと大爆発を巻き起こし、バリアこそ破壊することはなかったが、地面の石ブロックを大きく削り取って消失する。
「レックスの野郎……とんでもない技を、隠し持ってやがったな」
「あれ……鏡さんがいない間に頑張ってレックスさんが覚えたんだと思います。まさか完成しているとは……!」
「なる……ほどね、あいつも努力してんだな」
斬りつけられ、胴体から血を噴出させて横たわる鏡に、ティナが慌てて駆け寄り治療を施しながらそういう。
そして鏡は、レックスが努力していたという事実を知れば知るほどに、怒りがこみ上げてきた。努力を利用しようとする王が、許せなかったから。