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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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向き合うこと、それが始まり-9

「クルルならば、ここから別塔の最上階……あそこにいる」


 そう言って王が指差した先には、小さく細長い塔があった。その頂上部分はこの王の間のよりも少し高い位置にあり、そこに行こうと思えば、一度地上に降りて再びその別塔を上るか、この王の間から飛び移って、頂上部分に見えている小さな出窓から侵入する以外にない。


「なんであんな場所に……?」


「クルルは試練を受けている途中だ。ワシの洗礼を受けるためのな」


「どういう意味だ?」


「あの娘は恵まれた素質を持っているにも関わらず、その力を生かせるだけの器量と志がまるでない。一度洗脳をかけた故、大丈夫だと思っていたが……まさか、再び魔王討伐という大目標に不要な考えを持つとはな。パルナから聞いた話だけでは信じられなかったが……なんとも嘆かわしいことだ」


「だから……どういう意味だって聞いてんだよ。魔王討伐を考えなかったらなんだってんだ」


「今度はその意志が解けぬよう。根の深い部分にまで洗脳を施すということだ」


 まるで、それが当たり前かのように表情を一切変化させず、王はそう言い放った。


「ワシのスキルは、一度かければ洗脳が完了するまでその意志を我が意志に塗り替え続ける言霊の力。他の干渉がない限りはワシの言葉による洗脳が続く……それ故に、クルルは隔離させてもらった。邪魔が入らぬようにな」


 その瞬間、鏡は今すぐにクルルを王の洗脳から解放しようと王の間の側面から見える別塔に向けて走り出し、飛び移ろうと強く地を蹴りつけた。


「っづぁ!? なんだ!?」


 だが、飛び上がった瞬間、鏡は見えない何かにぶつかり、それによって後方へと勢いよく吹き飛ばされる。


「無駄だ。お主達はもうこの王の間から出られぬ。それと……無理にそれを壊そうと思わぬことだ。強引に突破されぬよう、与えた衝撃が反動でかえるようになっている。それはそういうバリアだ」


 王が宣言すると同時に、アリスはそれならば自分達が来た道を戻ろうと、王の間の扉へと駆け出す。だが扉に触れようとしたその瞬間、鏡を弾いたものと全く同じバリアによって手を弾かれてしまう。


 追ってメノウがすぐさま王の間の壁に手あたり次第触れ、「どうやら、そのバリアとやらで閉じ込められたみたいだな」と、してやられたと言わんばかりの表情を浮かべながらつぶやいた。


「ボク達をここから出して! じゃないと……クルルさんが! クルルさんが!」


「落ち着けアリス。言霊による力なら、こっちが言葉をかけて妨害してやればいい」


 鏡はそう言うと、大きく息を吸い込み、「クルル! 助けに来たぞ! 目を覚ませぇええええ!」と、叫び散らすようにそう声を張り上げた。


 だが、その行動を不様とでもいいたいかのように、王は鏡を嘲笑う。


「無駄だ。そのバリアは音さえも遮る。それに、クルルがいるあの塔の周囲にも、この王の間程の強度ではないが……同じバリアを展開している。お主達の声は届かんよ」


 八方ふさがり。その状況に追い込まれ、鏡は少し表情を歪ませ王を睨みつけた。


「案ずるな。まずは話し合いだ……お主達は何か話したくてここに来たのだろう?」


 だが予想外にも吐かれたその言葉に、アリスと鏡は困惑した表情を見せる。


「話を聞いてくれるのか?」


「主張は聞こう。話してみるがよい」


 実際、話を聞くつもりだったのか、攻撃を仕掛けるような素振りはなく、パルナとミリタリアも武器を構えずに待機していた。


 そして、その言葉を信じて鏡は気を取り直し、堂々とした姿勢で王に向き合う。


「魔族と人間で、停戦協定を結んでほしい。もう争いはやめようぜ? 俺達は何も変わらない存在のはずだ。その証拠に、俺達はこうやって今一緒にここにいる」


「ほう……確かに、難なく共存しているように思えるな」


 王はそう言うと、物色するようにアリスとメノウを見つめ始めた。


「だがそれは、無理な話だ」


 だが、当然のように王はそう言い切る。


「どうしてだ? 魔族がモンスターを生み出すからか? ……魔族はモンスターを生み出すだけでそれ以外は何も俺達と変わらない! モンスターが悪いって言うなら、そのモンスターをなんとかする方法を魔族と一緒に考えていけばいいだろ!」


「魔族と一緒にか……おもしろいことを言う。大体にして、ワシは誰とその協定を交わせばいいのだ? そこの魔族にか? それとも人間であるお主にか? 代表は誰になるのだ?」


「代表なら……ここに魔王がいる」


 そう言うと、王は瞬時に視線を魔王へと向けた。異常な魔力の量から、もし魔王がいるとするならのであればその者以外ありえなかったからだ。だが、眼前に魔王が迫っているという状況にも関わらず、王の表情が歪むことはなかった。


「魔王も……人間と手を取り合うことに賛成してる! この世界の現状がおかしいって気付いてる! あとは王様! あんたがそれを認めるだけで世界が変わるんだ!」


 すると鏡は精一杯、王の心に響くように声を張り上げて訴えた。


「あんたは知ってるか? 俺達はな……魔王を倒せばリセットされるんだ。魔王を倒したという記憶を失って、また新たな魔王が誕生する。魔族と人間が争っていてもその輪廻を繰り返すだけなんだ!」


 そして鏡は、ダークドラゴンとエステラーにより与えられたこの世界の真実を王へと告げる。


「どういうことなの?」


 その言葉を聞いて、思わずパルナがそう言って困惑した表情を浮かべる。


 だが、あまりにも突拍子のない言葉に理解が及ばなかったのか、王とミリタリアは眉を少し動かすだけで、動揺した素振りは見せなかった。


「その話は……一体どこで?」


 暫くして、王は鏡の言葉に対し、それだけ問う。


「エステラー……それとダークドラゴン。この世界の仕組みをしる二人から聞いた」


 そしてその返答を聞くと、王は思わず微笑を浮かべた。微笑を浮かべて次第に大きく、「ふっふっふっふ……ふははは!」と笑いだした。


「そう! まさにそれが重要な点だ」


 次に放たれたその言葉を聞いて、あまりの不可解さに鏡達だけではなく、魔王すらも表情を歪めて困惑する。


 まるで、こちらが何も知らない愚か者とでも言いたいかのような口ぶりに、鏡達は息を呑んで王が放つ次の言葉を待つ。すると――、


「ワシは、それを知っていて、そのリセットを起こすために強い者を魔王討伐へと向かわせているのだ」


 何食わぬ表情で、王はそう言った。


「……どういうことだ?」


「どうやって接触したかは知らぬが、エステラーとダークドラゴンから聞いたのであろう? ならば思わなかったのか? 魔族とモンスターに世界の機能を管理する存在がいるのであれば、人間側にも……その世界の機能を保つための存在がいると」


 それを聞いて、鏡は思わず目を見開いた。

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