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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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向き合うこと、それが始まり-5

 殴打の衝撃により爆風が発生し、破壊された門の破片が周囲へと次々に巻き散っていく。


「あの人! 絶対後先のこと何も考えてませんよ!」


 そしてその鏡の行動を見て、すぐさまティナがアホを見るような悲痛な表情でそう叫んだ。


 実際、そう言われるのも仕方がない程に、鏡の行動は馬鹿げていた。正面突破。逃げも隠れもせずに正面から戦いを鏡は挑んだ。絶対になんとかできるという確信と意志がなければ、到底できる行為ではない。


「な、何事だ……!?」


「いやぁぁあああああ賊よ! あなた達……早くなんとかしなさい!」


「落ち着け! 見ろ! 相手はたった一人だ! 身の程知らずが…………!」


「な、何だあれは……村人? いや、そんなのはどうだっていい! 敷地内にいる兵を呼び集めろ! 王城で待機している兵もだ! 侵入者だ!」


「馬鹿な……王城に侵入してくる奴なぞ、見たことがないぞ! 命が惜しくないのか?」


 突然破壊された壁門に、敷地内にいた兵士、貴族達は各々阿鼻叫喚した様子で門を破壊してきたその存在へと視線を向けていた。


 しかし一瞬気後れはしたものの、侵入してきた脅威を排除するべく、敷地内にいた十数人の兵士達は一斉に鏡の元へと接近し、捕らえようと行動を開始する。


「……命が惜しい? そりゃ逆だぜ」


 だが、接近しようとしていた兵士達は、目の前の存在が放つ、目が眩む程の威圧感と殺気に思わず立ち止まってしまう。その男は壁を破壊した後、ポケットに手をツッコみながら敷地内へと侵入し、平凡な顔なはずなのに、どこか人とは思えないほどに冷め切った悪魔のような見透かした表情で、堂々と道を歩く。


「命が惜しいなら……手を出さずに黙って見過ごせ」


 はったりじゃなかった。それが直感的に真実であると、兵士達は感じ取った。だが、それでも己が使命を果たす義務と意志により、兵士達は強く槍を握りなおして気をとりなおす。


「ひ、ひるむな! 捕らえようなどと考えるな! 殺せ! この男を王城へと一歩も近づけるな!」


 そして、再び一斉に兵士達が鏡へと襲い掛かる。だがその瞬間、応対しようと身構えた鏡のすぐ目の前に、上空から一人の巨体が降り落ちてきた


「な……なんだこの巨漢は?」


「な、仲間か!? ひるむな!」


 そして、突然現れたそれは、瞬時に素早く兵士達の背後へとまわると、当て身をくらわせて近付こうとしていた複数の兵士の気を失わせる。


「おー、随分遅かったじゃんかタカコちゃん」


「ったく、一人で勝手におっ始めないの! 鏡ちゃんの力だと、本当に兵士を殺しちゃうかもしれないでしょう?」


 兵士の気を失わせた後、タカコはずかずかと鏡の目の前へと接近し、叱咤するようにそう言った。


「鏡さん!」


 先に敷地内へと侵入したタカコに続き、アリスやメノウ達も鏡が破壊した門から侵入し、鏡の傍へと駆け寄る。


「だーアホですか! あなたはアホですか! 大事なので二回言いました! もうこれで後戻りできませんよ!?」


「後戻りするつもりなんて元々ないからいいよ」


「そうだとしても、もっと上手く侵入出来る方法があったでしょうに! こっちには王都に詳しいデビッドさんだっているんですよ?」


「でも、もう時間ないだろ? だったら、変に小細工せずに正面突破するのが一番早い」


 鏡はそういうと、ここから少し離れた貴族街を抜けた先にある王城へと視線を向けた。


 実際、こそこそとばれないように移動すれば侵入する手立てがないわけではなかった。だが、それをすればかなりの時間が掛かり、そうこうしている間に全てが手遅れになってしまうかもしれない。


 今、一番重要視しなければいけないのは見つからずに王の元に辿り着くことではなく、一刻も早くクルルの身の安全を確保すること。そう判断しての行動だった。


「だがそれなら、どうして鏡殿はもっと早くに行動を起こさなかったのだ? 後からきた我々に追い付いてしまっているが……?」


「いや、そりゃ俺も何も考えなしに特攻しているわけじゃないからな。先に王都にきて準備してたんだよ」


 メノウの質問に、鏡はあっけらかんとした態度でそう答える。


 その時、困惑した表情を浮かべる一同を前に、鏡は突然表情を強張らせると、ボンッと爆風をその場に発生させて消え去る。


「侵入者だ! 絶対にこれ以上進ませるな! 全員、訓練の成果を見せ……つけぇ……?」


 その直後、敷地内の至る所から集まってきた兵士の十数人が一斉にタカコ達へと襲い掛かろうとするが、鈍い打撃音を発生させると、その場にいた全ての兵士が一瞬にして力が抜けたかのように気を失わせていった。


「スタン……バトン?」


 最後に気を失わせた兵士の背後に立っていた鏡を見て、デビッドがそうつぶやく。


 鏡が持っていたのは、スタンバトンと呼ばれる電撃を迸らせる魔法が込められた特殊な武器だった。殺生能力は高くないが、相手の虚をつければ今のように気絶させることのできる武器。


 一見、対人においては強い性能を誇る武器に見えるが、相手の虚を突いて急所を狙うという芸当は、相手よりも圧倒的に能力が上回っていないとできない。


 つまり、本来あまり使われない特殊な武器でもあった。


「まさか……鏡様はそれを買いに先に王都へ?」


「そうそう。めちゃくちゃ探したよ。貧民街にある闇市場まで顔だしてさ、ようやっと見つけたんだよ。これがないと……力加減が出来そうになかったからな。絶対戦いになるだろうし」


 まるで、そうするのが当たり前とでも言うかのような鏡の言葉にデビッドは絶句する。


 ここまで派手に喧嘩を売っておきながら、不殺を試みようとする。この状況であれば、目的のために相手の命を奪ってしまうことも致し方なく思うはずの局面で、あえて困難な道を行こうとする。デビッドにはそれが異常に思えた。


 だが、それがこの男なのだと瞬時に理解し、額に汗を浮かばせて言葉を失わせた。


「情けをかけるのか? お前はこの世界の仕組みを変えたいのではないのか?」


 予想外な行動を見せた鏡に対し、魔王は一歩近づくとそう問いただす。


 すると、鏡はまるで、「アホなの?」とでも言いたいかのように表情を歪ませると――、


「命を奪って、力や恐怖で無理やり従わせても、何も意味ないんだよ。お互い納得しあった状態で、その仕組みが変わらないと意味がないんだ。だから……必要最低限の身を守るための力だけでこの場を乗り切って、王様の元へ辿り着く。じゃないと俺達の大義名分を失うだろ?」


 そう言い切った。

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