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LV999の村人  作者: 星月子猫
第二部
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向き合うこと、それが始まり-4

 かつて東京と呼ばれた土地の中心部に、王城を中心として円形に構成されたヘキサルドリア王国内でもっとも活気がある土地、王都ヘキサルドリア。


 中央に存在する王都の三分の一は占めるであろう王城、その周囲を囲うようにして巨大な外壁を隔てて存在する城下町。全体の敷地は要塞都市とまで呼ばれるサルマリアよりも広大で、居住する人口もヘキサルドリア王国内一である。


 円形の外壁に包まれたその場所は、東西南北それぞれに出入りが可能な凱旋門が存在する。そこにはモンスターが侵入しないように門番が見張りをしているくらいで、特に人の出入りはチェックしておらず、犯罪者から貴族にいたるまであらゆる人物が行き交いする。


 とはいえど、チェックがないのは城下町だけであり、王城の敷地内にある貴族街で暮らしている住民に危害が及ばないよう、王城の敷地内を囲う外壁の東西南北に存在する壁門では、厳しいチェックが行われる。


「なんだか特に騒ぎだった様子はないですね」


「至って普通ね。ずっと前に私が王都の城下町に来たときと何も変わらないわ」


 そして、先に王都へと向かった鏡のあと追ってきたタカコやメノウ達も、特に怪しまれる様子もなく、凱旋門をくぐって城下町の中にまで到着していた。


 中に入れたとはいえお尋ね者には変わりなく、あまり目立たないように服を覆うマントを最初に購入し、現在それを全員が着用して城下町を歩いている真っ最中である。


 幸い、城下町の貧民街と呼ばれている裏通りは犯罪者も少なくなく、一般人や冒険者達はよりつかないため、そこを歩きながら怪しまれることなく移動出来ていた。


「わぁあ……わぁあああ! すごーい! サルマリアも凄かったけど……王都も凄いんだね!」


 そんな中、ときたま裏通りからちらっと見える表通りの活気にアリスは歓喜の声をあげる。王都の城下町は、ヴァルマンやサルマリアとはまた違った活気があり、アリスは浮足立っていた。


「まさか……私がここに足を踏み入れることになるとはな。生きていれば、何があるかわらかぬものだな。……ここ最近、色々ありすぎて最早驚く気もせんが」


「魔王様……私も同意見です」


 初めて人間が住む街の中に入ったにも関わらず、タカコやデビッドと同じように達観した様子で魔王はそうつぶやく。メノウも人里には慣れてはいたが、王都のあまりの規模に、いつどこから何があってもよいように、周囲に警戒を張り巡らせていた。


「どうやらまだ鏡ちゃんもおっぱじめてないみたいね、鏡ちゃんが何かやらかす前に探して合流しましょう。一体……どこにいるのかしら」


「もしかしたら……既に王城の中にこっそり潜入してるとか?」


 ティナは顎に手を置いて、「あの人ならやりかねません」と付け足してそうつぶやく。


「確かにそれが一番賢い方法だけど……現実的に考えて無理だわ。王城へは、城下町との間にある10メートルはある外壁を越えなくちゃいけないし、その先にはお城の兵士の見張りでびっしりだもの。魔法で姿を隠したり音を消したり出来れば話は変わるけど……鏡ちゃんは魔法を使えないし」


「じゃああの人何をしているんですかね? 道に迷ってるとか?」


「いや、鏡殿は別に方向音痴というわけでもなかろう」


 鏡の行動パターンから、タカコとティナとメノウは必死にどこにいるかの見当をつけようとするが、正直なところ。いつも予想外な行動しかしないため、全く見当がつかなかった。


「……先に王城の前へと向かい、待っていればよい。そこで待っていれば、いやでも何か起きるか、あの村人が姿を現すだろう」


 そこで、このままでは拉致があかないと、もっとも遭遇する可能性が高いであろう場所に行くよう、魔王が提案する。


「……そうですな。それが現実的のようです。行きましょう。どちらにしろ時間は刻一刻と迫っております。こうしている間にもクルル様が……!」


 そしてそれを聞いて、一同は深刻そうな表情を浮かべる。悠長にしている時間は、もうほとんど残されていなかった。


 犯罪者の烙印が押されたのが一日前であると考えると、少なくともその頃にはクルルやレックス達は、パルナとミリタリアの手によって王城内へと連れ戻されている可能性が高かったからだ。


「最悪、私達だけでどうにかしないといけないわね」


 タカコはそうつぶやくと、それが一体、どれ程の困難であるかを想像し、改めて鏡という存在が如何に自分たちにとっても大きいのかを再認識した。




 魔王の指示通り、一同は王城と城下町を隔てる外壁の南側の門へと訪れた。王城を守る屈強そうな門番が二人程待機しており、一同は近くにある家屋の物陰に隠れてその様子を窺っている。


 二人の門番が退屈そうに欠伸を漏らしているのを見て、やはりまだ王城内部で表立った騒ぎが起きていないのを悟った。


「やっぱりまだ到着してないみたいね。何してるのかしら……先に行ったはずなのに」


「どうする? そのクルルという者を助けるのであれば手を貸すが?」


「……魔王の台詞とは思えないわね。人間一人を助けるのにみずら危険をさらそうだなんて」


「私もその人間の一人に助けられた。そしてその人間が救おうとしている相手を助けるなど、魔族だからなど関係なかろう?」


「まあ……そうよね」


「だが、あの村人がいないのであれば本当に救うだけだ。その後のことは知らん……少なくとも、お前達は今後辛い生活を送ることになるだろうな……私達も、元通りだ」


 それは、ある意味別の終わりを示唆していた。


 一時的に戦いは終わる。クルルは洗脳されずに済み、魔王達も元の生活へと戻る。そう、犯罪者としての逃亡生活を一方は送り、一方は倒すべき宿敵として再び人類の前に立ち塞がる……何も結局変わらない終わり。


 それは、一番避けるべきであるはずの終わりだった。


 それを考えると、タカコはクルルのことを諦めてしまった方が良いのではないのかとも思ってしまう。だが、その結末を鏡が想定していないわけがない。


 だが、鏡は一向に姿を現さない。鏡を信じている反面、その事実に少し不安を感じていた。


「あ、あそこ!」


 だがその不安は杞憂に終わる。


 アリスがそう言って指差した先に、何食わぬ顔でスタスタと門へと向かって歩く、鏡の姿があったからだ。


「か……鏡様? 一体どちらで何をされていたのでしょうか?」


「わからないわ……何か準備でもしていたのかしら? でも、何も持っていないし」


 鏡は、デビッドにリュックサックを預けた時の状態と何も変わらず、手ぶらだった。手ぶらで、身軽な格好のまま、少しずつ門へと近付くと、門番の前で立ち止まる。


 対する門番は、突然現れて向かってきた鏡を、怪しすぎると言わんばかりの表情で睨みつけていた。


「なんだ貴様? ここがどこだかわかっていないのか? ここは王都の中心部、国王であるヘキサルドリア様の王城であるぞ?」


「見た目からして村人……か? どこから来たかはわからないが立ち去るがいい! ここは貴様のような下賎な輩が近付いて良い場所ではない!」


 二人の門番は各々そう叫ぶと、所持していた槍を鏡へと突きつける。


「……用事ならあるさ」


 だが鏡は、突きつけられた二本の槍をそれぞれの手で鷲掴み、引っこ抜くように奪い取ると、そのまま背後へと投げ捨てて気にせず門のすぐ傍へ近付こうと再び歩き始める。


「……っへ?」


 門番は何をされたのかわからないのか、目をぱちくりとさせながら先程まで槍を握っていた手に視線を送り、すぐさま目の前に迫る男の危険性を悟って一歩後ずさった。


「な、なんだお前は……!? 一体何者だ?」


 そして、門番は恐怖を抱いた。この場所でこれ程までに大胆な行動に出たという事実。そして、自分達がそこそこに腕もたち、レベルも50を超えているにも関わらず、目の前の平凡そうな男にいとも容易くに武器を奪われたその事実に。


「こいつ……本当に村人か? だ、だれか……!」


 そして、青冷めた表情で敷地内にいる兵士達に助けを求めようと、敷地内の者との連絡ようにある窓口へと門番の一人が顔を近付ける。だが、その瞬間――、



「レックス……クルル! 二人纏めて俺が……攫いに来たぜ!」



 鏡はそう、耳を塞ぎたくなる程の声量で高らかに宣戦布告すると、30センチはあるだろう分厚い門を開けるのではなく、素手で殴り飛ばして破壊した。

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