敗北の女剣士~醜い豚の化物に負けて雌豚奴隷にされるなんて~
【タイトルについて】
むしゃくしゃしてやった。反省はしているが後悔はしていない。
※こんなタイトルですが、いくら探してたって十八禁版はありませんよ?
剣も魔法もある世界でのお話。
例えばこんなシチュエーション。
冒険者の女剣士がモンスターのオークとエンカウント。
冒険の経験がまだ浅く、戦闘経験も少ない少女の女剣士が負ける所から始まったり。
――ガキィン!
風を切る勢いで振るわれたオークの棍棒が、女剣士の手から剣を弾き飛ばした。
獲物を失い丸腰になった女剣士は地面にへたり込む。
「い、嫌ぁぁぁ!」
女剣士の悲鳴が辺りに響く。しかしながら、その声を聞く者は目の前のオークしかいない。
オークが、一歩、また一歩と女剣士に近づいていく。
十代後半の若い女剣士のシミ一つ無い瑞々しい白い肌は、露出度の高いビキニアーマーによって惜しげもなく晒されている。
オークの獣欲を刺激するには十分過ぎるほどの光景だ。
女剣士の潤んだ瞳に恐怖の色が浮かぶ。
「久しぶりの人間の雌だブヒ。この辺りじゃ狼くらいしかいなくて飽き飽きしていた所ブヒ。たっぷり俺を楽しませてくれブヒよ」
「この私をどうする気なの!」
「若い人間の雌を相手に、オークのする事なんか決まっているブヒ」
「私に近づかないで! 私に近づいたら殺してやるんだから」
「威勢のいい雌は大好きブヒ。そのくらいの大きな鳴き声を期待しているブヒよ。ブヒヒヒヒ」
そして、鼻息も荒くゆっくりと女剣士に手を伸ばして……。
「うわ、この人間の女。急に人前で一人芝居をしだして怖えーよ……」
オークは女剣士のただならない雰囲気に気圧されている。
そう、さっきまでのオークと女剣士のものと思われたやりとりは、実は全て女剣士一人による妄想だったのだ。
彼女の妄想がどのくらいから始まっていたのかというと、始めも始めの部分である。
オーク退治の仕事など一切出ておらず、女剣士がわざわざオークのテリトリーまで侵入しただけである。なお、剣は弾かれたのではなく、女剣士が自分で放り捨てた。
(チラ、チラッ)
そんな訳で現在、自ら仰向けに倒れている女剣士は、物欲しそうに期待の瞳をオークに向けて発している。
しかし、危険な予感を感じたオークは目を伏せてしまった。
女剣士は、目からビームを放たんばかりの眼力を込めた。
なんとオークは、女剣士の目線に込められるプレッシャーに耐えきれずに吐いてしまった。
オークは逃げだした。
女剣士は戦闘に勝利し、302の経験値を獲得した。
――パラパパッパッパー!
天からファンファーレの音楽が鳴り響く。
女剣士はレベルが1上がった。
女剣士のレベルが14になった。
力が3上がった。
賢さが0上がった。
素早さが1上がった。
体力が5上がった。
変態が1上がった。しかし、これ以上は上がりようがなかった。
女剣士は特性「ドM」を習得した。しかし女剣士は既に開眼してい……。
「逃がすかっ!」
まだリザルトの途中なのにも関わらず、女剣士は逃げるオークに回り込んだ。
女剣士がオークを引っ掴む。
「ちょっとあんたオークなんでしょ? とっとと私を襲いなさい! なんで逃げるのよ」
「ひぃー、コイツ握力が馬鹿みたいだ!」
オークの体重の平均体重は240キロ。そんなオークの巨体が、ずっと体格の小さな女剣士の片手に掴まれただけで動けないでいる。
この時点で、女剣士がオークよりも強い事は明らかだった。
「どっせい!」
「ぐはぁっ」
女剣士がオークの巨体を引き寄せ地面に叩きつける。オークは溜まらず肺の中の空気を全て吐き出してしまう。
地面に仰向けになって倒れたオークの上に女剣士が馬乗りする。
「さあ、襲いなさい」
血走った眼で迫る女剣士の姿は、もはやちょっとしたホラーである。
荒く湿った鼻息がオークの顔にかかり、オークは冷や汗をかいた。
「だいたい、目の前にビキニアーマーを着ている少女がいるのよ。ビキニアーマー! 普通は襲うでしょ!」
ビキニアーマー、それは浪漫。「そんなの来ていたら防御力は逆に下がるんじゃね?」なんて疑問はご法度。
ドラクエ?、フォーセットアムール、ヴァリス、アテナ、ワルキューレ、アレサ、サイキックウォーなどなど。
今なお、数多く存在する世の男性を魅了する刺激的な衣装なのだ!
――え!? ドラクエ?より下のタイトルを知らないだって?
そんなの、この際どうだっていいじゃないか。そんな話をいつまでも続けていたら、全然話が進まないから!
知りたくば、レトロゲしようぜ。
「だって俺、ノーマルだし、ケモナーじゃないし……」
オークは迫る女剣士の恐怖にと戦いながらその言葉を口にした。
種族が違えど、自分と異なる種族に欲情するのがアブノーマルの部類に入るのは、変わらないらしい。
「そ れ に!」
「まだあるの?」
まだあるんです。
「どうして、さっきから語尾に豚みたいにブヒって付けないのよ! お約束でしょ!」
「そんなこと言われても……」
普通に人間の言葉で会話ができている以上、オークと豚とは声帯の作りが違う訳で、それを求めるのは無茶ってもんです。
「襲いなさい、襲いなさいよぉ。うわあああぁぁぁ」
オークの上で女剣士が泣き出した。
目の前で妄言を吐く、オークに自分を襲えと脅迫する、終いには勝手に泣き出す。
女剣士の行動は完全にメンヘラのそれである。
しかし、ヒロインのそんな突飛な行動は、ラノベ業界ではしばしば見らえる光景である。
すべては作者による演出である。いちいち気にしちゃいけない。
「ゆっくりでいいから、まずは泣き止んで。その後で、どうしてこんなことをしようなんて考えたのか話してくれる?」
「ぐすっ、うぇぐすぐす……」
オークは女剣士に押し倒されていた上体を起こし、女剣士を抱きかかえてなだめていた。
女剣士の行動にドン引きしっぱなしのオークだったが、あまりに必死な女剣士の姿に、少しの同情が生まれてしまったのだ。
「あれ? これは……」
オークは女剣士の体に幾つも小さな火傷があるのを発見した。面積の少ないビキニアーマーを着ているにも関わらず上手に隠している。
「嫌ぁっ!」
火傷び痕を見られた頃とに気づいた女剣士がオークを突き飛ばし、オークの体から離れた。
直後に女剣士が突き飛ばしたオークに謝る。
「ごめんなさい、つい……」
「いや、こちらこそ見られたくないものを見てしまってゴメン」
しばし、沈黙の空気が二人の間に流れた後で、女剣士がポツポツと話始めた。
「私、幼い子供の頃に両親が死んじゃってて。それで引き取られた先は、縁もゆかりもないおじさんの家で。
私はそこのおじさんに――」
「お前……」
オークはグスッと涙を流し、目の前の女剣士に同情している。
「――とても親切に育ててくれたおかげで、すくすくと立派に成長し、今やこんな立派な変態に」
「違うのかよっ!
全く知らない赤の他人を引き取って、そこまで親切にしてくれたおじさんは何者なんだよ」
オークは女剣士の言った変態というワードには触れないでおいた。面倒くさそうだったから。
そして、そこまで親切な人に育てられておきながら、変態に育ってしまった事を思うと、本当に残念過ぎてならないと思った。
「だったら、その火傷の痕は?」
「ああこれ? 裸エプロンで揚げ物してたら油が跳ねちゃって」
「見られて嫌がったのは?」
「肉食アピールが駄目で、泣き落としが聞いたみたいなので、次は恥じらい路線でせめてみようかなと」
女剣士から貰った如何にも変態らしい返答に、オークは皮肉を込めて「どうもありがとう」と言葉を送った。
「でも、それも結局駄目でしたね。私は私はあなたを諦めます――今日の所は」
「諦める気が全くないな、この人間の女……」
女剣士、変態に変態する純なお年頃の十六歳。
頑張れオーク、負けるなオーク。いつか彼女が完全に諦めるその日までは。
「タイトルに奴隷が付いていて、しかも書籍化している作品があるくらいなのだからいけるんじゃね?」なんて気持ちでこのタイトルを考えてみたのが動機です。