7・虎狛(コハク)亭の目撃者たち。
泥だらけな姿のオキシは、キセノンの手を凝視している。キセノンに手を引かれ、連れられて歩いているその図は傍から見れば奇妙に映るだろう。
「それにしても、すごい集中力だな」
オキシは危なっかしい足取りでひょこひょこ器用に歩いている。たまにつまずきはするが、そのような時でも凸凹な地面に文句を言うだけで、視線だけは外さないのだ。
外部からの刺激を遮断できるほどの集中力は魔法を扱う時には強みになる。魔法を生成する時、強力なものほど集中力がものをいう。騒然とした周囲の状況にも惑わされず魔法を生成できるのだ。ここまでの集中力を持つのは熟練した魔術師の中でもそうそういないだろう。
しかし、それでも限度がある。集中力が切れにくいと言うことは危険に対する反応が遅くなるということだ。行き過ぎた集中力では、刻々と移りゆく状況に即座には対応できないだろう。ぼんやりと立っているのと同じで、戦場においては足手まといにしかならない。これでは、その集中力は宝の持ち腐れである。
「そこに階段があるから気をつけろ」
聞いているのか、いないのかは分からないが、キセノンは一応声をかける。オキシは一瞬だけ段差のほうは見るがすぐに視線は鱗のほうへ戻る。階段があることは認識したらしい。
熱中してしまうと、それ以外のことは自動的にこなしているだけのようだ、とキセノンはそう分析した。
石段をのぼり町を囲んでいる街門をくぐり抜ける。
この町には常駐の門衛はいない。木製の重々しい扉は常に開かれている。この壁は人の出入りを制限するものではない。壁の専らの役割は、魔物から町を守るといったものだ。
史書によれば、およそ二百年ほど前に起きた事件の教訓から建てられたものだ。その時代、魔王が復活し膨大な魔物が波となって各地を襲った。魔物が住まう森の近くに造られたフェルミの町は壊滅的な打撃を受けた。昔から定期的に魔物の群れが現れていたこともあり、少しでも町の被害を抑えるためにと町を囲む壁を建てたのだ。この壁が完成して以降、魔物の群れが現れても、町の中にまで侵入したことはない。
門をくぐり町へ入ったキセノンは、とにかく泥だらけなオキシを何とかするために、馴染みの宿まで行くことにした。
町に入り2番目の通りを右に曲がる、そして4軒目に建つ木造の建物が、彼がこの町での拠点にしている『虎狛亭』である。1階が食堂兼酒場で2階より上が宿泊施設になっている。裏手には衣服などを洗うための用水路があり、そこでオキシの泥を落とそうと考えていた。
「女将! ちょっと裏の洗い場を借りるぞ」
少し立て付けの悪い裏口を開け、店の者に声をかけると「あいよ!」と威勢のよい返事が返ってきた。
「あ、キセノンが帰ってきたんだね」
女将の息子タンタルは仕事をさぼって客舎の裏にある木陰で休憩をしていた。そこにキセノンの声が聞こえたのだ。
すぐに起き上がり木の陰から伺うと、キセノンが小さな哺乳族系の子供を連れてきたのが目に入ったのだ。
オキシの身長は日本では平均的なのだが、この場所では小柄の部類に入る。しかもここの住人たちにとっては外見も少し幼いように見えてしまうため、まだ子供であると思い込んでしまうのである。
「あの子は誰だろう?」
そこ子の服は泥だらけなのである。彼はキセノンに手を引かれてやってくる人間に興味津々だった。好奇心に満ちたタンタルの耳やヒゲがぴくぴくと動く。
これは面白そうなことが起きそうだと、タンタルは唇の端を少し上げ、もっと近くで、こっそりと様子を見るため窓から家の中に入った。
「おう、タンタル。またサボっていたのかい」
入ってすぐに見つかってしまった。タンタルによく似た容姿の中年は作業を中断し、首にかけた布で汗をぬぐう。
「ああっと、父ちゃん。そんなことよりも、キセノンが子供を連れてきてるよ。しかも泥だらけの子供」
タンタルは父親のバナジームにそう報告する。キセノンが迷い子を連れてくるのは珍しいことではない。日常的にありふれた風景なのだ。
「またか。キセノンも本当に面倒見がいい。見に行くか」
もともと好奇心の強い親子は、何があったのかと心が惹かれてならなかった。父と息子の二人は窓から外の様子を伺う。好奇心によって反応する耳とヒゲは親子そろって同じ動きをしていた。
「あんまり見かけない感じだね。迷子、かな。それにしても、キセノンを怖がらない子供がいるんだね。泣く子も怯える眼光なのに」
笑顔を浮かべながら冗談交じりにそう言った。
タンタルは自分の幼い頃を思い出した。もう十年近く昔になるだろうか、始めて会った時は爬虫族が持つ特有の鋭い瞳に、蛇ににらまれたかのようにすくんでしまったのだ。しかし、キセノンは子供の扱いにはとても慣れているようで、すぐに馴染んで仲良くなった記憶がある。
「顔はああだけれど、キセノンは良い人だからな。あの子にもそれが分かったのかもな? 優しいお兄さんだと」
バナジームもすっかり仕事のことを忘れ、好奇に満ちた目で水場にいる二人の様子を盗み見ていた。
「さて、さっそく泥を落とすか」
声をかけて汚れた服を脱ぐように言うが、オキシは鱗から視線を動かさず「後で」と言うばかり、全く動こうとしない。しっかりと腕をつかまれているので、汚れている服を脱がすにしても、それはとても面倒な作業に思えた。
「水の魔法が使えれば、あっという間なのにな」
己が苦手な属性の魔法のことを嘆いても仕方がない。キセノンは荷物を地面に下ろすと、用水路の横に積んである桶に水を汲んだ。
「まずは髪からだな」
キセノンは魔力を練りオキシの服に水が落ちないように薄い風の層をまとわせた。
そして、水をオキシの頭からかけ、髪をすくように指を絡ませる。水は髪の泥を落としながら流れ落ち、髪から落ちた水は魔法によって生まれた風の層を伝い服をぬらすことなく地面へと滴り染み込んでいった。濡れた髪の端から垂れる雫が太陽に照らされて輝いている。
「……水をかけられても、動じないとは」
それは多少雨が降ったくらいではあの場所を動かないことを意味する。体が冷えれば、それだけで体力が奪われる。そんな状態が長く続けば、本当に弱って死んでしまうかもしれない。
水を汲みながら、キセノンはそう思う。
「ん、あれ?」
はっとしたように、少し遅れて反応があった。さすがに気がついたらしい。オキシは辺りを見回している。そして首をかしげ、何かを考えているしぐさを見せた。そして、突然慌て始めた。
「ここはどこだ? あああああ! またか、また、やってしまったのか?」
気がついたら見知らぬ場所にいたので、オキシは動揺していた。昔から深く考え事をしながら散歩すると、思っていた以上に遠出してしまうことがあったのだ。
「おちつけ、おちつけ。大丈夫だから」
キセノンは迷子の子供をあやすようにやさしく声をかける。
「あれ、びしょぬれだ。雨が降ったのか?」
我にかえり、いつの間にかぬれていた髪の毛に気がついた。空を見上げるが空は青く、綿がもつれたような白く薄い巻雲が浮かんでいた。雨が降るような気配は、その空からは感じられなかった。
オキシは空を射るように見上げ、不思議そうにしている。
「泥だらけだったからな。水で少しな」
その声にオキシはキセノンのほうを見、そして彼が手に持っている水で満たされた桶を見た。
「そうか。別に汚れていたままでも、構わなかったのだけれど」
泥だらけになることは、別に苦ではない。微生物を採取するために野山や田畑と言った野外で活動することは多々あったのだ。
「それはダメだ。ほら、その白い外套を脱げ。洗うぞ」
「いや、もう十分だよ。髪もこんなに濡れているし。汚れは落ちた、落ちた、落ちました」
オキシは両手で、濡れて額にはりついている前髪を真ん中から分ける。髪からしたたる水滴にはまだ砂粒が含まれていた。
「まだ落ちていない、まったく落ちてないぞ」
髪の泥はもちろんまだすべて落ちていない、衣服の汚れにいたっては全く手をつけていないのだ。
キセノンは問答無用とばかりに再び水を頭からかけた。髪から砂の混じった水が流れ落ちる。
「わわ、う……じゃりってした」
口の中に砂の混じった水が入ったようだ。オキシは口をもごもごと動かして、眉をしかめている。
「泥はまだ落ちていないだろう。お前がおとなしく洗われていれば……ってこら、逃げるな」
オキシは逃亡を図ろうとしたが、すぐに腕を掴まれ失敗に終わった。
「あの子そうとう嫌がっているね」
タンタルはそう感じた。おそらくあの子の泥を落とそうとしているのだろうが、どうも嫌がっていてなかなか思うように洗えないようだ。
「そりゃ、あんな乱暴に水をかけられちゃ、誰でも嫌がるさ」
「それにしても、あんな雑なキセノンは珍しいね」
二人の会話はよく聞こえないので、何がどうなっているのか分からないが、やっていることがどうみても滑稽だ。親子は楽しそうに、二人の様子を覗き見ていた。
「……あ、ころんだ」
キセノンの魔の手からのがれようとしたオキシはぬかるんだ地面に足をとられ、用水路に落ちた。とても浅い用水路なのだが、尻をついてしまったために、腰の辺りまで水に漬かっている。ずいぶんと濡れてしまった。
「大丈夫か?」
キセノンはそう声をかける。
「うん、大丈夫……あぁでも、びしょびしょだ」
キセノンが先ほど使った魔法は、雨避けに使われる魔法だ。空から注ぐ程度の水に対してのみ有効で、川のような大量の水の流れに対しては効果がない。しかし、そんな魔法がかかっていることをオキシは知らない。白衣の裾を絞り、用水路から這い上がった。
「水路に落ちたのなんて何年ぶりだろう」
田んぼを駆け回っていた小学生時代以来ではないだろうか。
オキシは用水路から出る時に手についた泥を、白衣の裾で拭いた。濡れた白衣に汚れが広がっていく。
「だぁぁ! そんなところで拭くな。せっかくそこは、綺麗になったのに!」
「つい癖で。でも、白衣なんて汚れていくものだし、気にしない、気にしない」
日々実験と観察を続けている限り、白衣は大なり小なり汚れていくものなのである。実際、オキシの身につけている白衣は、よく見れば袖口やポケットの入り口付近に緑色や青紫色が薄く染みついていた。主に植物の汁からなるものであるが、それは洗濯しても落としきれず薄くシミとなって残っているのだ。
オキシは絶対に清潔を保たなくては行けない実験を行う時以外は、この普段着用の白衣を着用していた。この白衣は汚れて良しとみなしているオキシにとって、泥がつく程度の汚れは気にするものではなかった。
「汚すにも、限度があるだろう!」
白衣の役割を知らないキセノンは思わず叫ぶ。
白は汚れが目立つので、その色を身につける時は汚れに気を使っている者が多いと言うのに、オキシはどうであろうか、逆に気兼ねなく汚しているようにしかみえなかったのだ。
「キセノン。こ、怖えぇぇぇ」
覗き見ている場所にまで届く怒声にタンタルはひるんだ。声を荒げるキセノンは凄みがあり、何の関係もないはずの人でも、思わずたじろんでしまうほどの迫力である。
「あの子、泣いちゃうかなぁ」
「怖いからな、恐ろしさのあまり涙さえ出ないかもな」
しかし彼らの予想とは裏腹に、ほとんど恐れる様子を見せないその子供は、逆に何かキセノンに向かって不満を言っているようにさえ見えた。
「あの子、あんまり怖がってないね」
「あの子の神経が恐ろしい」
「……アタシの目の前で、仕事をサボるあんたらの神経が恐ろしいね」
「か、かぁちゃん」
「ド、ドブナ」
声のするほうを振り返った2人は視線の先に腕を組んで立ちはだかる女将の姿をとらえ、別の意味で震え上がった。
オキシはキセノンの大きな声に一瞬体をこわばらせたが、すぐ気を取り直した。
「そんなに大きな声を出さなくても。わかったよ、わかったよ、白衣を渡すよ」
オキシは白衣のボタンに手をかける。
「でも、こうびしょぬれなら……思い切ってこのまま泳いじゃったほうが、汚れも落ちていいかも」
オキシは手を止めて用水路を流れる水を眺めた。このくらいならいけるかもしれないと思ったのだ。
「服を着たまま泳ぐと、すぐにおぼれるぞ。それに、すぐ向こうは深くて流れも速い」
何を言っているんだとばかりにキセノンはつっこみをいれる。
水の力は侮れない。ちょっとした油断が水の事故につながるのだ。用水路の流れは穏やかに見えるが、すぐ向こうに見える本流と合流しているあたりは流れが早く、特に体の小さな子供などは流されてしまうおそれがある。
「とにかくだ。とにかく、その白衣って言ったか? 早くそれをよこせ。それから、これを洗っている間に、顔や髪を洗ってきな。ほら、これで洗え」
キセノンはさっきまで使っていた桶をオキシに手渡した。
「うん。ありがとう……あぁ、待って。ポケットの中の物を出してしまうから」
オキシは白衣のポケットに入っていた眼鏡や時計、文房具、鏡、ハンカチ等のありとあらゆる小物を取り出しはじめた。
オキシは何でもポケットに入れてしまう癖があった。研究室をうろうろ動き回るので、筆記用具など必要なものは常に身近においておきたい。しかし、持ち運びにかさばったり、両手がふさがるのは避けたい。そんな時、白衣のポケットはこれらの問題を解決する。気軽に詰め込めるため、いつしかポケットにはあふれない程度に小物がたまってしまうのである。
「ん……これは、いつもらった飴玉だろう?」
糖分が溶けたのか、飴は包み紙にへばりついていてた。しかも、さっき用水路に落ちたせいで少し湿っている。食べられないことはないだろうが、あまり食べる気が起きない状態になっていた。無論、飴と同じ場所に入っていたティッシュはもう使い物にならないだろう。
なぜ、こんなものが入っているんだろうという道具も含めて、ゴミ同然の物もいくつか出てくる。オキシはポケットに入っていた全ての物を、乾いた桶の中に入れた。そして軽くなった白衣をキセノンに渡す。
「ひどく汚れているのは、その白衣だけのようだな」
キセノンは白衣を受け取りつつ、その下の服は特に汚れていないことを確認した。
「そうだね、服は汚れてないね」
本来、白衣はそういうものなのである。
研究者をやっていると、塩酸だとか酢酸だとか神経毒だとか、ちょっとやばめな物質だとか、時に危険なものを扱う。こういったもので私服や体を汚したくないので、白衣を着ているのだ。白衣の汚れは、いうなれば身につけた者を守った誇り高き証なのだ。
「お前の場合、汚れていてもそう言うだろう」
「まぁ、そうだね。みんなからも、もう少し気を使おうって言われるけれど、衣服関係は本当に興味が無いからね」
オキシは濃い紺色の襟元を引っ張りながら言う。
その衣服は長年使い込まれ多少よれた感じはするが、古びて穴が開いたり、傷んで破れたりして直したような跡は全くない。たまたまかもしれないがあまり気を使わないといったわりに、キレイなものを着ているようにキセノンは感じた。
キセノンはオキシから受け取った白衣を洗いはじめる。素材は木綿だろうか、結構丈夫に縫われているように感じた。そういえば白衣の下に着ている服も少し変わった形をしている。簡素ながらしっかりとしたデザインで、実に動きやすそうな形状をしている。
キセノンは衣服についてはあまり詳しくは無かったが、この周辺諸国のものではないだろう。そう思いながら白衣についた泥を落としていた。
「ほら、洗い終わったぞ」
オキシは濡れた白衣を受け取った。
「ありがとう。ところで何か拭くもの無いの?」
服も髪も肌にくっついてどうも気持ちが悪い。早々に乾かしたかった。
「こうすりゃ良いんだよ」
キセノンは難しい言葉を呟きながら指をはじく動作をし、体内に内在する魔力に働きかける。指先から弾き飛ばされた魔力はあたりの大気に干渉し、触発された魔力の流れが温かな風に転換された。その風がオキシの髪や白衣を渦巻くように包み込む。
そうして風が再び元の気流に散る頃には、服も髪も全てがさっぱりと乾いていた。
「おお?」
オキシは手に持った白衣を広げひらひら揺らしたり、髪を触ってみたり、落ち着かない様子を見せている。
「何、そのドライヤー兼乾燥機な魔法みたいなの」
「ドラィヤー、ケン、カンソーキ?」
そう聞き返すキセノンだったが、オキシは答えない。
オキシは何かを突き合わせるようにしばらく黙っていたが、ひとり納得したのか「そうか、これが魔法か」と言って一人満足そうな顔をした。
「とにかくありがとう!」
「……なんなんだろう、このすっきりしない感じは」
お礼は言われたものの、釈然としない気分のキセノンは苦笑いをもらす。
「しかし魔法ってやつは初めて体験したが、なかなか興味深い現象だ。不思議だ、ちょっと楽しかった」
そう言って、オキシは乾いたばかりの白衣をまとう。そして、まるで新しい服を買ってもらった子供のように軽やかに1回転する。
経験の無い現象にすっかり魅了され、完全に乾燥した白衣に触れながら「これは、本当にいいものを体験した」とオキシは自然と笑顔になる。
そのオキシが浮かべたその満面の笑顔を見て、キセノンは鼓動が一瞬弾んだ。
「ちっ……柄でもない」
小さな子供は庇護すべき対象ではあるが、キセノンにとってはそれ以上のものではない。確かにオキシの顔は幾分好みではあったが、こんな男か女かも分からない異種族の、また卵の殻が尻についているような妙ちくりんの子供に特別な何か思いをいだくわけが無い。
(聞き分けのない小動物のようだからだろうか)
沸いてくる機微の芽生えに、なんとも一筋縄ではいかない気分に満たされたキセノンだった。
「さて、泥も落ちたところで、飯でも食いにいくか」
キセノンはその厄介な感情を振り払うかのように、そう提案した。
「でもお金ないよ?」
さきほど取り出した小物を白衣のポケットに戻しながら、オキシは言う。金目のものといえば、複雑な見た目が装飾品のように美しい機械式の懐中時計があるが、これは愛着のあるの品なので手放すつもりは無い。それに、この場所では時刻を知るという本来の目的としては使えるかどうかさえ怪しい。そうなると残りは微妙なものしか残らないのだ。
「俺のおごりだ」
「でも……その、ええと、ありがとう」
キセノンは、オキシから断ろうという気配を感じ睨みつける。オキシは素直にキセノンの好意を受け取ることにした。
「そうだ、子供は素直が一番だ」
キセノンはうなずいてオキシの頭をなでる。頭をなでられて、漠然とだがオキシは子供扱いというより、なんとなく小動物扱いされているような気分にもなった。
「……子供じゃないのに、なぁ」
「子供はみな、そう言う」
「……まぁ、そうだよね」
決して認めたくは無いのだが、今までやってきた好き勝手を思えば、わがままな子供扱いされても仕方が無い。
「じゃあ、行くか」
キセノンの案内に従って表に回り、虎狛亭に入った。