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gold

買い物を終えアパートに戻った。

 両手には一杯の荷物。近くのスーパーでは毎週金曜日は特売日だ。一人暮らしの僕は少しでも食費を浮かせようと買い物は金曜日に済ませるようにしている。一回の買い物で一週間分を済ませようとするわけだから当然、その量は大量になる。

 ドアを開けると座イスを枕にして寝転がっているノイの姿があった。

 ノイ、同居人、そしてアンドロイドだ。

「手伝えー」

 僕の声に反応したノイは「…はーい」と気の抜けた返事をして、のそのそと体を起こした。 

 ノイは袋の中から自分のもの――お菓子だけを選んで丁寧に棚に詰め始めた。まったく。

 ため息をつきながら野菜や精肉を冷蔵庫に詰める。

 ふと、ノイのさらさらとした金色の髪が目に留まった。

「今日は金髪なのか。金曜日だから?」

「ふう、そんなんじゃないよ」

 何故か軽く馬鹿にされた。

 ノイは紙の色、長さを自由に変えられる。どういう仕組みになっているのか彼女自身もよくわかっていない。

 ただ、瞬時に変わるわけではなく、一晩かけてゆっくりと変わっていくそうだ。

「人間は……、いや、日本人は金髪が好きなんでしょ」

「何、急に」

 食品を詰め終わりノイの方を見ると早速買ってきたばかりのチョコレートを頬張っていた。

「皆、とは言わないけど染めてる人多いじゃない。若い人とか特に」

「本当に好きな人は、どうなんだろうね。ただ単に変わりたいんだよ。違う自分に」

 しかし、金髪はそこまでいないんじゃないかな。大学でも見かけるのは精々茶髪までだ。たまに青色とかもみかけるが。

「クロは染めないの?」

「俺は特に染めようとは思わないな。上方に関しては特にポリシーみたいなものもないし。それに、名前と矛盾するだろ?」

 ノイはくだらない冗談にも盛大に笑ってくれた。

「ほんとだね、クロなのに金髪とかだったら変だね」

「俺には髪を染める心境ってよくわからないけど、何かわかった?」

「んー……、特に」

「だよね」

 そもそもノイの場合は根本が違うからな。染めるわけではなく元から変える。すなわちこれも元来の自分という認識なんだろうか。それか、外にめったに出ないノイの場合、だれの目にも留まらないわけだから、自分の外見などどうでもいいのだろうか。

「それと、日本の男の子は皆、金髪美女が好きなんでしょ?」

「いや、うーん、どうだろう。人は自分にないものを求めるからね。日本人ではいない金髪ってだけで最初の評価が違うのかもね」

「クロもそうなの?」

「……そういうきらいもあるかな。映画とかなんかはほとんど洋画しか見ない。やっぱり邦画はどこか非日常って感じがしない。洋画だと見知らぬ場所、俳優も普段の生活では見ない外国人だしね」

 お金の掛け方もあるだろうが。邦画はなぜかあまり好きになれない。あまり見ないで批評するのもなんだが、テレビで流れているドラマとあまり違いを感じられない。

「よし、じゃあこれからは金髪でいよう」

 ノイは声高らかにそう宣言した。

「うーん、まあ……、好きにしたら」

 そう言うとノイは途端に目を吊り上げ不機嫌を示した。

「好きなんじゃないの?」

「別に似合わないわけじゃないけどノイの顔はどっちかと言うと日本人よりだからなあ。いつも通り黒でいいんじゃないかな」

 ノイを顔を両手でつかみふにゃふにゃと動かした。手触りも弾力も人と何差変わりがない。

「えーい、離せ! もういいよ、折角好み合わせてあげようと思ったのに」

 拗ねたようにそっぽを向くノイの頭をそっと撫でた。

「なに、大切なのは見かけじゃないさ、ハートだよハート。まあ、たまには変わった髪も見せてよ」

 ハート――心なんて言葉はアンドロイドには皮肉だろうか。

「ふんっ」

 ノイは鼻を慣らして拗ねて見せたが、頭を撫でている間に頬が段々と緩んでいくのが分かった。


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