第5話・Little devil & Satan
今、俺は風呂から上がってリビングにいる。
モモちゃんは、相変わらずなぜか機嫌が悪い。
お世辞にも精神衛生上、あまりいい雰囲気とは言い難いと察した俺は、当たり障りの無い話題を振る事にした。
「そういえば、もう最近暖かくなってきたよね? さすがに春なんだなって 」
『そうだな・・・だが、お前のようなやつが増えて困るのも頂けないがな・・・ 』
(そうくるか・・・)
「モモちゃんひっでー! そうやって純粋で無垢のいたいけな美少年をからかって何が楽しいのさ? 」
『どこの世界に煙草の不始末で、部屋を半焼させる純粋で無垢のいたいけな高校生がいるのだ? 』
(あれ? オレが言った最後ん所はスルーなんだ・・・ナンカ悲シクね?)
『まぁ、やってしまった物は仕方が無い・・・ それより、学校の方はどうするのだ? こうしてる間にも、時間は刻々と過ぎていくのだぞ? 』
(ハイ、仰る通りでゴザイマス・・・)
モモちゃんの正論攻めになす術が無い俺は、大人しく登校の準備を急ぐ事にする。
(といっても、制服は着てるし後は椅子の場所に転がってる鞄を持って、出発するだけなんだけどな)
「じゃ、そろそろ・・・ 」
鞄を持ち、さあリビングを出て行こうかと言う時に
─── ぐぅ〜 ───
およそ、生きとし行ける者全てが避けて通れない生理的欲求が、俺の腹から素敵な音色となって現れる。
(あっちゃ〜! よりによって、こんなタイミングでかよ・・・そういや一昨日の晩から、何にも食ってなかったな・・・)
『・・・玄関で待ってろ 』
とモモちゃんはキッチンへ入って行く
「うん・・・ 」
これが学校でなくて良かったと、少しホッとしつつ玄関に移動し、靴を履き待っている俺。
程なく、モモちゃんが弁当箱らしき包みと、なぜか四つ折の紙を持ってそれ等を俺に渡す。
「サンキュ、学校着いてからゆっくり食うよ! であとコレ、この紙一体何なの? 」
『ああ、言うの忘れておったが昨日の夕方に、私が買い物から帰るとFAXが届いててな、どうやらお前宛てらしいぞ 』
「そうなの? ふ〜ん・・・ 」
俺はたいして気にも留めずに、紙を無造作にポケットに突っ込む。
『見てかなくていいのか? 』
「いいよ、後で確認するし、そんじゃオレ行ってくっから〜! 」
怪訝な顔をするモモちゃんを残し、俺は自宅を出る。
(はぁ〜、こっからがシンドイんだよな・・・)
自転車をこぐペダルが、やけに重たく感じられる。
何といっても俺が住む緑ヶ崎市の自宅から高校まで、大体30km以上の距離がある。
(まず、駅までチャリで約20分、そっから電車を三駅、最後にスクールバスで15分少々・・・もっと自宅から近く、楽に通学出来るトコもあったろうに・・・マッタクもって、ホント頭が下がるよオレ自身に・・・ま、自分で決めたコトだから仕方無いっちゃ、そうなんだけどな・・・)
やがて何とか、”最初の目的地”に到達した俺は、月極で契約してる近場の自転車置き場でチャリに鍵掛け、構内の改札を通り、上りのホームにて電車を待つ。
来るまで13分あるらしい。(やっぱ、今の内腹ごしらえしとくか・・・)
傍の自販機で無糖の缶コーヒーを買い、近くのベンチに腰掛ける。
そして、おもむろに鞄から弁当箱を取り出し、包みを解きフタを開けて中身に手を付ける。
(相変わらず、モモちゃんの弁当はいつ見ても美味そうだ、定番の出汁巻き卵や海老フライはもちろんの事、ごぼうの牛肉巻き、かぼちゃの煮付け、磯辺揚げ、等の脇役陣も花を添える。こういったオーソドックスな品々でも、愛情を込め手間隙掛けた料理は自然と、人を幸せな気持ちにさせてくれる)
「もぐもぐ・・・うん、こりゃ中々・・・こっちも・・・はむほむ、いいカンジだな 」
「モモちゃん、ごっそうさん!! 」
俺はすっかり満足して弁当を平らげると、その時丁度いいタイミングで電車がやって来た。
ドアが開き、そのまま乗り込む。
(朝と違って、やっぱこの時間帯は空いてていいな・・・座れるし、なんつっても楽だし )
窓枠の背もたれに片肘を掛け、缶コーヒーを飲みながら、つかの間のまったり感を満喫する。
20分ほど後
───まもなく米戸部ー、米戸部です───
車両内アナウンスで、無情にも俺の貴重な”安らぎタイム”は、そこで終了を告げられる。
数十秒後、米戸部駅に停車した車両のドアが開く。
そして床に飲み干した空き缶を放っぽって、俺は下車した。
学校行きのバスは、乗客が俺1人(当然ながら)という事意外、特に変わった事も無くそのまま最終目的地に駒を進める。
「着いたか・・・ 」
”県立米戸部第一高等学校前”と表示されたバス停で降車した俺は、校内の時計塔に目を向ける。
(午後1時26分・・・やばいな、もうとっくに5限が始まってるじゃねぇか・・・ そういえば運動場で体育の授業中のクラスを除いて、他は静かなもんだ・・・)
どうせ今更慌てた所で、どうしようも無いと思い、俺は通常のペースで校舎目指し歩みを進める。
??『県立米戸部第一高校、通称”ヨドイチ”又は”米戸高”。
全日制普通科の公立高、偏差値は県全体で中の下。
全学年の生徒総数473名、内訳は、一般ピープル65%、優等生、体育会系、オタッキー、それぞれ10%
ヤンキー4%、アウトロー(変人)1%、生徒会は存在するも、殆ど機能せず。
部活動は陸上部やソフトボール部等、一部の運動系を除いて特に目立った実績は無し。
近年稀に見る少子化傾向の煽りで、生徒数が少ない事以外、ドコにでもあるいたって普通のガッコ〜ぽよん☆
以上! 説明はこんなトコだダ〜ン!! 』
「のわっ!?・・・て、テメェ、一体何時から居やがった!? 」
(うわ〜、サイアクだ・・・来て早々、とんでもない奴に捕まっちまった・・・)
??『ほぇ?いつからって?そんなの決まってるポヨン☆ゆうとがバスから降りて、校門に入って来たときからだダ〜ン』
(こんなマネする奴は、オレの知りうる限りアイツしか考えられん・・・しかし何所から、どうツッこんで良いやら・・・)
「・・・・・・あのな、瞳子? お前、全然気配無かったぞ? あと、今授業中だろ? 大遅刻してきたオレが言うのもなんだけど、お前何故こんな所うろうろしてんだよ? それと、目のやり場に困るその服装! なんで一昔前に流行った、某美少女戦隊アニメヒロインの格好してんだよ! ここは場末のイメクラかっての! 学校にコスプレして来てはイケマセンて、周りの人に教わらなかったか? 親御さんが泣くぞ? 最後に、オレが何時お前に”米戸高”についての説明を求めたよ? つーか、そもそも”アウトロー”(変人)のお前なんかに、偉そうに講釈されたくナイっての!! 」
(オレの目前に、上目使いでこちらを見据える、小柄で華奢なツインテールの女の子・・・本名、松延瞳子 言葉遣いや、たたずまいがいやが上にも精神年齢の幼さを窺わせる・・・コイツとは中学の時からのつきあいで、一応同学年である。まぁ男のオレから見ても、その小動物を連想させるつぶらな瞳、ピンク色した可愛いほっぺで、”守ってやりたいオーラ”を全身から撒き散らす、”米戸高の男共が彼女にしたい娘No2”(オレ的にはカンベン)に位置する存在だ。 ・・・・・・そのモンダイの瞳子姫が・・・)
『そんな・・・うっく、グスッ・・・ 』
(ヤバッ! こんな場面誰か(特に野郎共)に見つかったら、100パー俺悪者やん・・・てか消サレテシマウ・・・)
「あ、あの、瞳子!? オレ言い過ぎた!わ、悪かっ・・・」
『そんな・・・そんなにいっぺん色んなコト聞かれても、ワタシ馬鹿だから分かんないよーーー!! 1コずつ質問してよーーー !!ゆうとのバカァ〜〜〜〜〜 うわぁ〜〜ん!!! 』
(なんですと?・・・つーか、怒るポイント”そこ”かいっ!)
(そもそも、自分で自分を”馬鹿”と言い切ったオンナに、すかさず”バカ”呼ばわりされる屈辱・・・)
あまりの理不尽さに、もはやブチギレ寸前の俺。
(くそ〜〜〜!・・・もうこうなったら、たとえ女・子供といえど容赦しねぇぞ〜〜!! ここはガツンと一発このアマにかましたらぁ〜〜〜 !!)
「瞳子! こっち来い!」
『ヒッ!・・・な、なにポヨン!?』
肩をビクつかせ、まるで怯えた子猫の様に返す瞳子。
「いいから、来い!」
『・・・・・・』
俺に言われ、恐る恐るこちらに近寄る瞳子。
「目を瞑れ・・・、そして歯を食いしばれ! 」(よし! ”ターゲット” ROCK ON!!)
「いいか? 瞳子・・・よく聞いてくれ、あまり人と面と向かって軽々しく”バカ”って言うもんじゃないぞ? それにな・・・さっきお前は自分に対してもその言葉を使ったな? でもさ、オレは決して瞳子の事そんな風に思っちゃいないぜ? 何故なら、あれだけ米戸高についての詳細をすらすらと俺に語ってくれたじゃないか・・・頭悪い奴にあんなマネ出来る訳ない、そうだろう? もっと自分に自信を持ってくれよ・・・な? 」
俺は、なるべく優しく語り掛け、ついでに彼女の頭もそっと撫でてやる。
『優斗・・・』
瞳子はついさっきまで肩を震わせていた事が、信じられない位今、俺に身体をあずけてきてる。何故なら、彼女の両腕がオレの背中にまわっているからだ。
(こいつ、ほんと身体小さいな・・・俺の胸板に顔がすっかり埋まっちまって・・・腕もこんなに細くて・・・ホント、抱きしめたら壊れちまいそうだよ・・・ )
『優斗の胸板って不思議と落ち着く・・・それに、なんだかいい匂いもする・・・』
「えっ? あ、あぁ出掛けに風呂入ってきたからかな、ハ、ハハハ・・・ 」
(ドキッとさせんなよ・・・柄にもなく、動揺しちまったじゃねぇか・・・)
『あれ? 今ひょっとして、心臓の音が聞こえたような気がしたポヨン? 』
(しまった・・・)
「さ、さあな・・・き、気のせいじゃねぇの? 」
我ながら苦しい言い訳、瞳子はそんな俺に対し悪戯っぽい笑みを浮かべつつ
『へぇ〜☆・・・だったら、こんなコトしちゃおうカナブンブン? 』
─── ぎゅう ───
(む・ム・胸が、小ぶりだが中身はさぞかし形の整った”ロケット”が・・・ひょえ〜〜〜は、早まっちゃ、い、いかんぞ? 瞳子君?! )
『フフフ☆・・・ゆうとってば、お顔まっ赤っ赤ぁ〜〜〜 ! 』
「ギブ!、 ギブアップ!、 本当オレが悪かった〜〜〜! もう堪忍してくれぇ〜〜〜 !!! 」
『分かればよろしこ〜〜〜 』
そう言って瞳子は、ようやく俺を解放してくれた。
(ナンで謝ってんだよ、オレ!? いつの間にか、立場逆転してるし・・・ )
『ねぇ? ドキドキしたカニ? 』
(キィ〜〜〜、憎たらしいったらありゃしない! )
「ブワァ〜〜カ! 誰がお子ちゃまに興奮するかっての! 顔洗って、出直してこい! 」
『あ〜〜! ワタシに”バカ”って言ったぁ〜〜 ひどいプリン! さっきの「瞳子の事そんな風に思っちゃいないぜ? 」 や 「もっと自分に自信を持ってくれよ 」とか、あれ全部ウソだったのポヨン?? 』
「チゲーよ、よく聞いてろよ! 今オレは、”ブワァ〜〜カ!”って言ったの! まったく、ブワァ〜〜カ! に付ける薬ナシだぜ(しみじみ)・・・ 」
『コドモみたいだポヨン・・・ 』
(ガーン!!・・・・・・お子ちゃまに”コドモ”言われてもた・・・オレ様のプライドが・・・もうこうなったら!!!!!・・・ )
(アレつかお〜〜〜と★ )
※前フリ省略、説明後述
「生活習慣!!! ”駄目人間堕殻堂舌?” 」
『??? 』
「瞳子・・・お疲れさん・・・良くそこまで、自分の魅力を最大限に引き出して頑張ったな! オレの負けだ・・・でもお前は本当に偉いよ!・・・ここまで到達するのも、並大抵の努力じゃなかった筈だよな? 俺には分かる! 痛い程良く分かる・・・マジで嬉しいよ、お前みたいな一番弟子を持って・・・ 瞳子・・・お前は俺の誇りだ!! やばい!・・・・・・グスッ・・・嬉しい筈なのに、目から汗がこみ上げてきやがった・・・よりにもよってこんな時に・・・つくづくオレは駄目な師匠だよな・・・可愛い弟子の門出だってのに・・・ 」
『いや、ワタシ別に何にも心当たりないピョン、てゆーかワかシいつ、ゆうとに弟子入りしたんだプ〜? 』
「はっはっは、瞳子は昔からほんとそそっかしいな・・・”ワタシ”が”ワかシ”になってるゾ? まぁでもこれが、お前なりの精一杯の”照れ隠し”なのかもな・・・ 」
『話についていけないピョリ〜ん・・・ 』
「ゴメン、ゴメン・・・ちょっと前置きが長すぎたな・・・反省、反省 」
「本題に入るよ、実はな瞳子がこれまで頑張ったご褒美にだ、”松延瞳子さんYUTO流処世術免許皆伝おめでとうパーティー”を、ささやかながら2人でお祝いしたくてね・・・ 」
『お祝いしてくれるニョリ!? ワタシ免許更新とか、いまいち良く分からないナリが、なんか楽しそうアル!! 』
「こらこら、一部口調がコ○助になってるゾ? ボケ(文字数のムダ遣い)も程々にね・・・ 」
「実は米戸部駅前にある、高級中華の名店”慢珍楼”に14時で予約を入れといたんだ・・・あ〜、お金の心配は要らないよ? 俺のオゴリだから、好きなだけご馳走するよ! (全部ウソだけどな) 」
『高級中華ポ・ポ・ポ・ポ〜〜〜ン☆☆☆ ワタシ中華料理大好きアルル〜〜〜 !! でも14時ってコトはだピョン・・・あと15分しかないアル〜! どうするアルか〜〜!? 』
「瞳子がこんなに喜んでくれるなんて・・・オレもマジ嬉しいよ! でも、そういえば本当に時間無いな・・・仕方ないから君だけでも、先に行って待っててくれないか? 」
『ゆうと・・・一緒に行ってくれないナリか? 』
「ごめんね、ちょっと野暮用があってさ・・・でも大丈夫! 安心して? 少し遅れるかもしれないケド、必ず駆けつけ(ない)るから!!! 」
『了解アル☆ そうと決まったらこうしてはいられないナリ!! ダッシュで先に行ってるアル!! あちょ〜〜〜〜〜〜!!! 』
─── びゅん ───
(あ〜あ、ハイスピードで行っちまったヨ・・・可哀想に、騙されてるとも露知らず・・・ )
(それにしても・・・ぷっくくく・・・つくづく単純なやつ )
(え? 良心が痛まないかって? しゃらくせぇ! そんなモンとっくの昔、どっかに置き忘れてきちまったよ!! ・・・全くどいつも、こいつも、オンナなんて・・・所詮みんな一緒さ!!・・・クソッタレが・・・ )
|