メリアがクラスに溶け込んだ? 反省して変わりたそうなコルト
「先生? 早く開始宣言してくださいよ~」
丁寧のようなそうでもないような、裏のありそうな感じの言い方。そんなコルトに軽く返事を返してやってメリアにアイコンタクトで最後の激励を伝えた。伝わったかどうかは定かではないが。
「わかった! 授業時間は定まっているわけだしな」
他の生徒達も斬新な授業内容になりそうだと楽しみにしているのがわかる。とりあえず正式な試合なら先手必勝が基本戦術だが、2人とも武器を選んで一礼するまで合図を出さないと確認した。
コルトは見た目からして現代の凶器、釘バットを選んだ。この武器はその手の漫画などの娯楽でとても危険な代物だと生半可な知識があってしまう程、恐怖心が増す。
「こっちはまだ準備中なので待ってください」
テーブルナイフを物干し竿の先にくくりつける即席武器を思いついたメリアがくくりつけて完成させる。こういう機会を先生から与えられたからには……とやるだけやろうと心に決めた。
「かかってきなさいよ。一方的だとしてもそれが実力差なんだから仕方ないわよね」
コルトが指でくいっと呼ぶようなジェスチャーをしていた。
「お手柔らかにお願いします」
微妙に慇懃無礼な振る舞いのメリアだが、コルトは意にも介さない。これからしてやろうかという方法を画策しているからか、にやついている。
対戦相手に選んだ2人を交互に見て、その後で開戦の合図を宣言した。
「怪我だけはしないように頼むぞ。試合開始」
嬉々としてコルトが釘バットを振り下ろす。今さっき即席で作った武器では強度などの問題も鑑みてあまり相性が良くなさそうなので一旦手放して攻撃をよける。
他の武器を……とメリアが箱からゴルフクラブを取り出した。まずはチャンスを狙って大ダメージを与えたいようで、コルトがまだ釘バットでめった打ちをしようと企んでいる。
「これで……どうにか」
ゴルフクラブと釘バットの金属同士がぶつかり合う嫌な音が響く。武器に例えるなら即席メイスと即席モーニングスターなのでメリアの方が競り負けた。彼女は体勢を変えようとバックステップで距離を取りながら最初に作業した物干し竿の即席槍を掴み直す。さっきとうってかわって攻勢に出る。それは間合いを取っているメリアの物干しざおが『槍』のような作用をもたらしているから。また間合いを近距離につめたいのだがコルトはそれが出来ずに冷静さを失い始めていた。この武器でボコボコにしたいという気持ちが前に出すぎて他の武器がどうこう考えられなくなっている様子だ。
おふざけの矛先を向けられているメリアはそれを身につけた理由が悲しくはあるものの観察眼が向上している。間合いを詰めさせない内に箱から取り出していたテーブルナイフ(果物ナイフ)を投げつけ、コルトに恐怖心を植えつけた。
「ちょっ!? ふざけないでよ」
鈍い光を反射させながら近くにせまるナイフを釘バットを軌道線上に立てる事でどうにかはじく。しかし、その時にはメリアが最大のチャンスをものに――(物干しざお槍をコルトの脇腹に当てる寸前で止めた)
「あんたなんかに情けとか……。認めないわこんなの」
メリアが真剣勝負なら勝利していたであろう、そんな一撃を見せてくれたので審判をつとめていた先生のリオが彼女に勝者名乗りをしてあげているのだが、頭に血が昇っているコルトには聞こえていないようだった。
「やれやれ、勝敗は決したんだけどね。まずは気を静めろ、コルト!!」
呟きながらそれでもメリアを釘バットで殴打しようとしていた(コルトの意識はそれしか集中していない状態のようで)それをリオが闘気だけで止める。いや、正確にいうとコルトがメリアに狙いを定めたように見えた瞬間に良く研いだステンレス製の定規で空気を斬ったのだ。まるで『剣』のような一閃にカマイタチのような傷を付けられたかの様なイメージを植え付けられて動きが止まる。
リオの一流技量に見学中の生徒達が固唾を呑んで見守っている状態だ。コルトは顔が青白くなって今にも卒倒しそうな見た目であった。ちなみにメリアは『信じられない』といった感じで口を手で覆っている。嬉しさより驚きが勝っているのではないだろうか。
「感情任せですいませんでした。結果は結果で受け入れようと思います」
戦う気力を失ったこれがコルトの素直な一面かどうかは想像に任せるという事で――――
特に彼女達にとって濃厚な時間、大きな変化が起きた可能性のある授業の終わりのチャイムが鳴った。
◇ ◇
早めに対策をとったおかげでメリアがイジメられなくなったはずではあるのだが、クラス内には妙な空気が残っている。特にコルトと取り巻き2人は衆人環視(同クラスの生徒達)にあっているかのようで落ち着かない。メリアの近くに行くだけで視線を痛いくらい感じさせられていた。
(敗北したから今までの所業のせいで厳しい目線を感じさせられるのはわかるわよ。だけど少なくとも面白くはないわね)
取り巻き女2人とくだらない話で盛り上がっているだけで楽しかった、退屈な毎日をメリアにした代償の重さを今更思い知らされているわとコルトはうなだれる。
どうも人間関係に失敗してしまったのではとコルトが猛省していた。だけど自分がしでかした過ちをどう直していいかわからない。行動の指針を与えて欲しくてコルトもリオ先生のいるであろう場所へ向かう。
職員室の前でメリアと、珍しく取り巻きを教室に残してきたコルトがばったりといった形で出くわす。コルトはメリアが自分を見て腰が引けている様子なのを視認し、少し前まで優位を感じていた相手なので謝罪出来ずにいる。その間にメリアが逃げるように職員室のドアを開けて入っていく。
「ああ、リオ先生の所の。彼に用があるなら中庭で休憩時間を活用して修行しているんじゃないかな」
ここに残っていても仕方がない、職員室にいた先生に教えられた場所へ2人が向かっていた。ただし、そうそう苦手意識は変わらないので前にコルト、数メートル後ろにメリアがと距離を取っている。今の彼女らの心もそれくらい(またはそれ以上)距離があるであろう。中庭で修行に励んでいる姿をそれぞれの位置から確認する。
結局は目的が同じなのだ。あまり近寄りたくないが自然とメリアとコルトの距離が近くなる。そこでコルトから今日は遠慮してくれないか発言(邪魔者扱い?)を受けた。
「あんたさっ、私は先生に聞きたい事があるし、どっか行ってくれる!?」
メリアは彼女が彼女なりの考えで何か変化を求めているのだろうなと感じ取る。自分の用件はまた今度でいいかとその場から去ろうとしたその時、人影らしきものが素早くリオ先生に不意打ちを仕掛けようとしている所を目撃した。