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格闘家の卵  作者: 霜三矢 夜新
格闘スクール教官編
36/88

メリアとコルト達の関係 3


よく寝れなかったメリアの気分はカラ元気という表現が近い。貧民街から中立通りに続く道、中立通りで一番目立つ建物になっている『メッレン武術スクール』はすぐそこだ。眠気のため、だらだらと足を動かす感じでしか進めていないが早めに家に出たメリアに遅刻の心配はないはずである。

「お・は・よ・う・メ・リ・ア」

 昨日の今日だというのにコルトの方から挨拶を強要するような事をして来た。これにはメリアの精神状態を図るという意味あいを感じ取った。


「どうもおはようございます、コルトさん」

 もっと落ち込んでいてもおかしくないのにメリアがしっかりとした挨拶をしてきた事にイジメっ子のコルトは目を丸くした。こいつにとって髪色はこだわりじゃなかったのか!? と疑念を持つ。

「私、やりすぎたと反省しましたの。これ、ヘアカラースプレー落とし代ですけれど」

 コルトの罪悪感からうなだれているというポーズを心根の優しいメリアはまだ信じている部分はあるようだ。そんな彼女が貧民らしくお金に手をつけてくれれば文字通り遊び相手にする算段を持っていたのだが――


「受け取れません! それに私、この髪色でも自信を持つようにするつもりですから」

 拒否された、その事実がコルトの心を更にささくれ立たせる。「私のオモチャなのに」と取り巻きのグレプとパラーグに愚痴っていた。

 授業と授業の間の休み時間――

今度はメリアに辱めでも与えてやらなければわからないのかしらというコルトの意見に取り巻き達が賛同する。

「昼休みにあんた達が呼び出しなさい」

 取り巻き2人がリーダーのコルトに言われて首肯した。


「ねっ、一緒に行こうよ」

 休み時間などで女の子グループがそんな話をしているなら、きっとお花を摘みにいきましょうというそれ。ただこの教室で誘っていた奴が問題だ、グレプがメリアを誘っている? 特に仲良くないあいつが!? おいおいこりねえな、あいつら……とマギーは一部始終を見ていて思う。メリアにも格闘スクールの生活を楽しんで欲しい、少数でもコルトの様な存在がいると教室内がどこかギスギスするのだ。そういった雰囲気がないようにしたいマギーがメリア達を目で追っていると、まだ問題グループのリーダー格コルトが教室内に残っていたのでどういう状況になっているのかなと考えを整理する事にした。

「あっ、おい」

 考えを巡らせて周囲の注意が散漫になる前に、教室から出て行こうとするコルトに気づいてマギーは引き留めた。するとその彼女は面倒そうに舌打ちして恥も何を気にしない感じで叫ぶ。

「お手洗い、トイレットですわよ! ついて来ないでよね」


 さすがに中を覗く事も、ましてや入るなんてマギーには無理だ。変態と糾弾され続けるのを恐れないのなら別だが。学級委員長という役職を任せられているので行動一つとっても見本の様に振舞っていなければ級友などの信頼を高められない。マギーが歯噛みしてたたらを踏んでいると女子トイレ内からコルトのかん高い声が響いてくる。

「もう一度言ってみろってのよ! あんたが私より何だって!?」

 トイレ内からまずメリアが飛び出して来て、その彼女の肩をすぐ追いついたコルトがつかむ。取り巻き女2人は予想だにしていなかった展開だったようでオロオロしているだけだ。ちなみにそれを目撃したマギーも呆気に取られていた。


 メリアがコルトのをまっすぐな視線で見つめた。彼女はそれを生意気と捉えて平手打ちをしかけたのだが――

「おっと、待った。君達、授業が始まるよ。遊び心を混じえた実戦形式だから楽しみにしておきな。何か力が有り余っているみたいだし、指名しちゃおっかな~」

 通りかかったリオ(先生)がコルトの感情に任せた攻撃をシャットアウトした。さっきの言葉が『対処』だよとリオがマギーに目配せする。


「何をさせる気なんだ? 危険はないよな!?]

小声でマギーが詳細を求める。少し綱渡りかもしれないけど今の状況では良い方法なんじゃないかと先生がマギーにだけ話しておいた。

「どういう事をさせるつもりだとかは口で説明するよりは実際目にすればすぐわかるよ」

 コルト達は内心面白くないものの、さすがに先生の前で怒りの感情を表に出して問題が起こる可能性を無視したりはしないようである。黙って教室まで一緒に足を運ぶ。


「さて、格闘スクールにきた以上武器を使った実践をしたい生徒も多いかと思う。変わったやり方から始めようか」

 生徒数人と一緒に教室に入ったリオが先生らしく、今日の授業内容を語る。この様な闘いに特化したスクールに入学した生徒の多くは大抵自分好みの武器を決めているものだ。だが、リオが教卓に用意したものはゴルフに使うクラブや釘バット、包丁などが安全を考慮した強化ガラスの箱の中におさめられているという物品であった。


「この箱の中にあるもので相手を恐怖させてギブアップさせる瞬間までのシミュレーションゲーム的な授業を開始するよ。今回は先生が指名しようか、コルトとメリア前へ」

 それはメリアにとって予想外だった。何で? どうして? と混乱してしまう。当然コルトは不敵な笑みを浮かべていた。授業を利用してさっきのストレス解消を目論んでいるに違いない。


「メリア! まずは深呼吸しようか」

 リオ先生に言われて深呼吸するメリア。混乱と不安の大きかった気持ちが、ほぼ軽微なくらいにまで抑えられる。何か他にもアドバイス的話をしてくれそうだったのでメリアはそれを待った。

「しっかり防具を身につけておけよ。忠告したからな、2人とも。それから――――」

 リオはある意味先生の特権を利用して、コルトに実力差のあるメリアが相手なんだから「作戦伝授していいな?」と確認していた。早く公然でメリアをいたぶりたいコルトはハンデなんか気にしていなかった。


 リオは信念を宿した瞳をしているメリアの自信を高めさせる。

「やりたいようにしていいんだ。君なら出来る! 正直言って君の方が強い。弱気を減らそう、ここで倒してしまえば教室の雰囲気も一変してあいつはでかい顔ができなくなるから」

 このアドバイスはコルトに聞こえていなくて当然のはずだ。悪い展開の想定はしておくもののリオにはこの授業がメリアにとって大きな転機になるだろうと予測できた。



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