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格闘家の卵  作者: 霜三矢 夜新
格闘スクール教官編
35/88

メリアとコルト達の関係 2

                     ◇

 貧民街の地区なんて興味がないからメリアは覚えていない(多分貧民街の人はそんなどうでもよいことを考える余裕すらないだろうが)でもメリアの家のすぐ近くに見える曲がり角の先にある家がリオ先生の実家だという確認情報もどこかで耳にしたことはある。

「あ~っ、気が重い……まだ両親は帰ってきてないだろうから髪の毛もごまかさなきゃ」

 メリアは彼女らにイジメられているなんて思いたくなかった。同じような経験をしている人の情報で判断されれば認めたくない現実が明らかになってしまうだろうけど、隠していればそのままですむ確率も高いだろう。親に心配をかけたくないという気持ちも強かった。

「まずは料理を作ってから髪の毛を直そっ」


 ベーコンや白菜、キャベツにもやし、ニンジンを切って入れてコンソメで煮るだけの野菜たっぷりスープ。それを作り終えた所でいつもより母親が早く帰宅してくる。

「おっ、お帰り。早かったんだね」

 普通にお出迎えの挨拶をしたつもりだったのだが、どもってしまったかもしれない。母親が怪訝な表情を浮かべたのでメリアもバツ悪そうにした。


「ただいま。メリア? その髪どうしたの!?」

 母親の帰宅前にそうした方が早いとピンク色の髪に染め上げるつもりだったメリア。見られてしまったからにはと開き直ってそれらしい理由をでっちあげた。

「2人が遅くまで働いて稼いだお金からお小遣いをくれるよね。大切に貯めていたお金でおしゃれしようとしたけど失敗しただけ」

 恥ずかしそうにしているメリアをどこか嬉しそうに母親が見つめる。


「あんたも年頃だもの、おしゃれに気を使いたくもなるわよね。私のヘアカラースプレー使っても良いわよ」

 一部だけ特売の商品で購入した品物、それ以外は試供品の置いてある母親の化粧台。商品の方をすすめてくれるという事は、ご機嫌になったみたいだ。

「とってもありがたい申し出だけど、まずは私の髪がピンクで顔と釣り合うかなとか調べてみるよ」


 母親にはオシャレだってごまかせた。問題は父親の方だ。だいたい夜の20時くらい帰宅なので、それまでの約1時間は髪の毛のまだら模様を直すのに神経を使う事が出来そうである。

「おうっ、帰ったぞ。飯は用意出来てるか? 腹減ったぞ」

 髪の毛をどうにかしている間にもう玄関の方から父親の声が聞こえてきた。筋トレ用具専門店勤務の人物。ガタイの良いプロレスラーみたいな外見で性格も豪快だ。

「メリア、いらっしゃい。晩ご飯にしましょう」

 体を動かす仕事で健康的な母親の言う事を聞いてメリアは台所に。

「2人とも、お疲れ様! いつもありがとうね」

 メリアが武術スクールに通えるのも両親の支えがあってからこそである。いたわりの気持ちを忘れなかった。

「あなたに家の事を全て任せて悪いわね」

「そんなの当然だよ。働いてもらっているんだから」


 この様なやりとりはメリアが手伝うようになってから幾度もあった。その度に彼女は母親に心配しなくて良いと言っているけど。話のタネになるからいいかとも思っている。

「今日は具たくさんスープと残り物か。ではいただこうよ」

「「「いただきます」」」

 両親2人ともそんなに食べない。結構小食なのか、確率の高さとしては外食でもしているのか(外食については自分の考えだからメリアは何も言わないようにしている)とりあえずそこまで買い食いはしていないと思う。ほとんど見覚えがないのだし。


「んん? メリア! その髪はどうしたんだ!?」

 皿を洗い場に持って行く時に父親に気づかれた。まだ後ろ髪の方を染めきれていなかったから気づかれるのも当然だろう。

「オシャレしようとしての失敗だよ。思い出させないでよ恥ずかしい」

「そうらしいのよ~。まっ、私もこの子くらいの時の失敗なんて数え切れないほど……ね」


 恥ずかしそうにする演技でメリアがもじもじする。母親もフォローしてくれたので父親も納得している風に思えた。

「それなら良かった! てっきりお前の事をイジメる存在がいるのかと思ったからな」

 たまに勘の鋭い父親にメリアは内心焦った。それを悟られないように努めて明るい声で否定する。

「やだなー、お母さんにも言ったんだけど私にこの髪色が似合うか試しただけだって」


 仮に本当の事を言ったとしたらイジメっ子の未来も危ないかもしれない。もしそうなったら罪の意識にさいなまれそうと彼女は先の事まで見据えているようだった。

「万が一そんな奴がいたら腕の1本、2本へし折ってやるからな」

 父親の腕っぷしなら実際仕事をクビになったとしてもやるだろう。他にも力仕事が山ほどある地域なので自分の子どものためにした事だという価値観も共有してもらえそうだ。だから再就職は容易だろうがそういう問題ではない。

「平気だからね! 困った事があったら相談するって約束するから。今はこの話、終わり」


              ◇                ◇


 メリアの本心としてはコルト達に何かをされるのは憂鬱である。そういう体験したくもない事を味あわされている人、味わった事がある人はわかると思うが。心を正直に出せず建前ばかり頭にめぐってしまうせいで眠りが浅かった。眠れない時間を体を横にしたままだらだらすごしていてもしょうがないので朝ご飯の準備の大半をすます。睡眠が浅いせいで疲労が残っている、回復も少ない。

「もう早朝じゃん。お父さんお母さんがすぐ食べれるようにしとかなきゃ。それでもう一眠り」

 両親ともに早朝から働いてくれているのは感謝くらいしか出来ない。こんなに彼らが長時間労働しているのに生活が貧しいままなのは貧民を低賃金で扱える駒としか考えていない経営者だからだった。

「朝から悪いわねえ」

「おうっ、今日も頑張ってくらあ」

 メリアの両親がおにぎりを手でつまんで数口で飲み込んでいった。好きな飲み物を飲んで朝の支度をすませた彼らが出て行く。

「いってくるわね、メリア」

 両親を見送ってからメリアは眠気を飛ばせないかなと大きなアクビをする。でも眠いのでボロい布団に潜って寝れるだけ寝ようと思った。


 結局眠れたんだかどうかって状態でメリアはどうにか目を覚ました。そんなに水を使わないつもりでタオルをぬらしてしぼったのち、顔をぬぐう。

「あっ……」

 洗面台にある小さな鏡で少しでも身なりを整えたいと手入れをしっかりしている髪を鏡で見て「そういえば」と再確認する。生まれつきの茶色い髪をピンクっぽく染められた、心が傷んだ。ショックを長引かせない様に母親が使っていた事のあるピンク色のヘアカラースプレーにピンク色のヘアカラー関連試供品がいくつかあったので髪色を完全にピンクにした。

「私、この髪色似あってんじゃん。良かったー。明るい色に思えるから髪色に負けないくらい明るく振舞おっと」



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