格闘大会の会議 2
前からパトリオープンに男女差別があったというのとは違う。男女の垣根をなくして女性とも剣を混じえたいというのがファーディの本音だが、建設的な意見とも取れる。
「リオ、どう思う?」
時間の経過と共に落ち着きを取り戻してきたリオがファーディに向き直ると笑顔で意見を言いやすくなるだろと暗に示していた。
「格闘スクールの入学者も女生徒が一時期より増えている印象がありますね。僕も王者を一人にした方が価値が上がると思いますけど」
実は数回前から『格闘総合審査会』で「パトリオープンのルール変更」を議論されてはいたのだ。セグとマジックスは現状維持派、ファーディが現状変化派で争っているという現在進行形の議論があるとか。ちなみにフラナはどちらかにつくことはしていない(しいていえば有利になりそうな情報を出そうとした側を邪魔するくらい=実質セグ達の妨害が多い)格闘王バトメットは最初に意見を出さないと表明して傍観者に徹している。
「面白い構図になったなセグ、マジックス。若い年代はとにかく性別で判断する必要はない、実力のある人物と戦いたいという事みたいだ。反論は?」
愉快に笑っていながらも、主張のぶつかり合いを期待しているフシがある。
まずは前からファーディに伝えてきた話を、マジックスが主にリオをメインに見て強調した。
「……歴史の長い格式の大会だ。今までの優勝者を考えても……歴史の重みがある」
的を得た反論にリオは何も言えずにいた。代わりにファーディが論破したかったが、お前ではなくリオに答えを求めているというマジックス達の視線を受けては引き下がらざるを得ない。
「俺からも言わせてもらおう。男女別で試合をしてきた歴史があるのは怪我なども考慮しての事だ。男と女の力量差で選手生命をつぶしてしまったら? どう責任取る!?」
『歴史の重み』についてリオはどうにかまとめて持論を展開しようとしたが、その前にセグにも新たな難問をつきつけられて声が発せなくなった。
「あら? そんなもの格闘大会審査員のレベルを上げればいいんじゃなくて? 私は新たなる時代が見たいわ」
ファーディ達がほぞをかむ中、フラナが話に割って入って来る。
「お前!? やはりファーディの考えに近かったのか!」
凄みのある声でセグに問われたフラナだがゆったりと首を横に振って否定した。
「違うわ。一方的な議論は好きじゃないの、さっさと反論の余地を与えないようにするか論じる気を失くすようにでもしてくれれば私も間に入らないようにするから」
「だがあいつらは何も言わねえぞ」
「あなた達の論に自分達の考えをどう言い返せば伝わるかと迷っているだけでしょ。だけどまだあきらめてなさそうよ」
フラナが視線を送った先には諦めるつもりはないという目をしたファーディとリオがいる。
良い意味で緊張感を持っているリオが、今度こそという気持ちでセグ達の前に立つ。
「筋道の通っている具体論に舌を巻いてしまっていました。でも格闘スクールに来て格闘の世界に生きる決意をした人なら性別関係なく体のケアを怠らないでしょうし覚悟も決まっているはずです。
リオの反論を受けて、マジックスが考え込んだ。
「一理ある意見……しかと聞かせてもらった。本日は……議論終了でいいのでは」
マジックスとセグと一緒に背を向け、格闘王バトメットに一礼してVIPルームの外へ出る。
「由緒ある格闘大会のルール変更をしようというんだ。賛成と反対の意見が別れて当然!! 次は決着を期待する」
昔からの格闘大会のルール変更、あと何回この審議が設けられるだろうか。どうやら今の日時での議論終了なようなので、ファーディに連れられてバトメットに挨拶してからそれぞれの仕事場に戻るのであった。
◇
そんな濃厚な時間もあって、格闘スクールの教官職に慣れようとしているリオ。もうあれから10日くらい経過している。初めて受け持ったクラスでは驚きもあったし、教官になって初の問題行動を行っているお団子頭な女生徒がリーダーの数名の姿も確認していた。男の学級委員長に(実はまだどんな子なのかしっかり確認していない)諌めてもらっているが効果は不透明だ。
何も問題を起こしてくれるなよというような雰囲気をリオは知らず知らずの内にだしてしまっているようである。格闘スクール1年生達は大半はその先生の実力を理解可能なので気圧されてしまっていた。そんなクラスで良くない行動を起こそうとしている生徒達数人はよほどのバカなのか、それとも最後まで隠し通せるとか浅はかな考えを持っている連中なのだろう。
「うちの先生さ~っ、私達を見過ぎじゃね!?」
金髪お団子頭でゴージャスなナリをしている女生徒がいつもつるんでいる取り巻きの2人に尋ねる。
「私達に気があるのかって話ですよね~」
どこかの小国出身と思われる灰色三つ編み女がまず応じた。
「言えてる~っ!!」
ゲラゲラという擬音が似合いそうなくらい大笑いしているのはアジア系の黒髪パーマ女。そのグループにもう一人輪に入っていない女の子が。
「お前らさっ! 意味もなくメリアを連れ回しているけどよ、どう見ても健全な関係じゃないだろ!」
先生のリオからクラスの治安を守って欲しいとのメモが机の上に置かれていたのでマギーは頼られた事が嬉しい。特にこの学園編入の件を隠すつもりなんてないので、後で会いに行こうかと思っていた。
「は~っ? 何言っちゃってんのー!? えっと……マギーっつったっけ。失礼極まりないんですけどー」
そうだよねと言った感じに同意を求めている金髪女。聞かれたポニーテールの気弱そうな子が流されるがままに言う事を聞いている。
「確かメリアさんだよね? 困ったと思っているのなら相談に乗るから話に乗るからさっ」
一度青い瞳で彼女がマギーを一瞬しっかり見つめたかと思ったら目を伏せて首を横に振った。
「いいえ。ご心配なく……気にかけていただいたのは嬉しく思いますが」
メリアに否定はされたものの、やっぱり隣のやつに言わされている気がした。「いや、しかし」とマギーが食い下がろうとしたが金髪お団子頭の女に話を遮られる。