私は先生が好きだった。
ある日先生は言った。
就職したら、どんなに嫌なヤツだとしても付き合っていかなきゃいけないって。
教師なんてなるんじゃなかったって。
生徒がうっとおしいって。
私はそれを聞いてしまった。
先生が携帯で友達らしき人と話している時、そう愚痴をこぼしていた。
怖くて隠れてしまった。
私は先生を疑った。
先生はまだ軽かったけどイジメを解消したことがあった。
憧れた。
先生になりたかった。
友達を助けられなかった自分にとってヒーローだった。
しかたなく助けたヒーローだった。
先生はいつも笑ってた。
やっぱりしかたなくだった。
私は先生を信じてた。
私は本当に先生が好きだった。
人を信じれなくなった。
“ONE STEP CLOSER”
「またね」
終業のチャイムと共に私の義務は終わる。
「笑う」っていう義務。
学校のみんなはバカみたいに笑う。私も笑う。もちろん回りに合わせた笑顔。
地下鉄を降りて数分、家に着けば私は素になる。
鏡を見れば仮面の顔。凍り付いた無表情しかない、本当の自分。
先生に裏切られたあの日、夕陽が沈んだ。私は夜だ。
でも、そんな日を送ってて平気なはずがない。
顔色を偽り続け、疲れ果てた私が手に入れたのは、リストカットだった。
「ん……」
部屋のベランダでナイフを手首に当て、横にスライドさせる。
何回も繰り返す、一、二、三……
深く深く傷をつけてこの自慰行為は終わる。
もちろん血はたくさん出てしまう。
肘を伝って落ちる滴、一、二、三……
やがて止まった時、小さな水溜まりを残してベッドに倒れこむ。
また私は人を殺した。
頭の中で私を殺した。
そうしないと、安心して眠ることもできなくなっていた。
血は好きだ。
眩しい空なんか写さないから。
写せないから。
私も血なら、笑顔なんてしなくてもよかったのに。
目が覚めたら、肌寒さを感じた。
暖房は入ったまま。
貧血かな、とひどく揺れる頭を持ち上げる。
鏡が結露していた。
前に立つと見えたのは、霧の中にいるような、ぼやけた自分の姿。
私は人差し指と中指で写っている私の目元を横に拭ってみる。
くもりは無くなった向こうには、あの仮面の顔しかない。
鮮明になった瞳を見ていると、表面の水滴が二つの雫になり流れ落ちていった。
仮面の私は泣いているのかも―――
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