――ハンプティー・ダンプティー。それは一度壊れてしまったら、二度ともとには戻らないもの・・・・。
2050年・・・・。今は室温が四十五℃。これはまだかなり涼しい方だ。一日で八十℃を越える日も一年を通してざっと数十回はある。こうなると人間は生きていくのが不可能だ・・・。
そこで我々は政府直々の命令で、熱を遮断する洋服を作るように命じられた。
我々は数年に渡り研究に研究を重ね、熱を遮断するには卵型がいいと判断した。いや、卵型というより卵だろう。
卵は大切なヒナを守るために母鳥が対応してきた愛情だろう。
卵の成分で洋服を作れば熱を遮断出来る。我々はそう考えたのだ。
そして案が挙がってから数年・・・・。我々はついに熱を遮断する洋服、通称ウォームシャットスーツ。頭から下半身までを卵の殻のような物で包み、手と足と目だけを出すようにした。
やがて政府はこれのスーツを認め、世界へ流布するよう言った。
しかしそれは惨劇の始まりであった・・・・。
「・・・・」
オレは闇に息を潜め、ハンプティーに忍び寄る。狙いは三丁目の花田さん一家の卵化だろう・・・・。
ウォームシャットスーツが出来上がり、政府はまず母国のアメリカへ流した。
ウォームシャットスーツは熱を遮断する事が出来る。病気にも掛かることは無い。しかし大きな難点があったのだ。ウォームシャットスーツは一度着用すると脱ぐ事が出来ないという事。無理に脱ごうとすると激痛により自我を失う事。その二つだ。政府はその難点を知りながらも熱を一刻も早く遮断しようと難点を公表せずに流した。
やがて時は経ち2080年。ウォームシャットスーツはアジア諸国の中の一つ、日本へも進出した。その時はもうアメリカの人々は自我を失っていた。
2081年、日本でウォームシャットスーツが着用され始めた。しかしそこでカオスが舞い降りた。今まで平均気温が五十℃以上だったのがいきなり七℃まで下がったのだ。
しかし時すでに遅し。日本では約半分の人々が卵化していた。あるおえらいさんはウォームシャットスーツについてこう言った。
「ウォームシャットスーツは昨年までは活躍した。しかし気温はここちよくなりもう必要ない。ウォームシャットスーツは端から見るとまるでハンプティー・ダンプティーのようだ。そんな恥らわしい格好はもうやめよう!皆で服を脱ぐんだ!」
その途端日本でも自我を失った人々が増え出した。
自我を失ったハンプティー達は仲間を増やす為に町を徘徊し、狙いを定めた奴にウォームシャットスーツを被せる。これで立派なハンプティーの出来上がりだ。
話しはそれたがオレはそんなハンプティー達を元に戻す仕事をしている。
卵化してしまった人間を元に戻すには卵の殻を割るしかない。卵の殻は硬く、なかなか悪のは難しい。しかも割るのに手間取っているうちに自分までハンプティーにされてしまう。あんなずんぐりむっくりだけはゴメンだ。
「誰だ?」
ハンプティーが言う。
「ハンプティーの癖に喋れるのか。つまりまだ自我は失っていないな?」
「あぁ・・・」
自我を失うとハンプティーは喋れなくなる。
「オレの名前は009」
「009?なんの番号だ?」
「オレの両親はアメリカでのウォームシャットスーツの着用でオレの小さい時に死んだ。それからオレはハンプティー撲滅組織、通称ハンプティー・ハンターに入れられた。009それがオレの名前だ」
「・・・・」
ハンプティーは黙り込む。
あのハンプティーはオレを哀れんでいるのか?
「私は、もうこれ以上ハンプティーの被害者を出したくないと思っている。責任者としての思い、そして君のような親を、命を、大切な人を失った人々を救わなければならない」
「・・・・あなたは?何物?責任者?」
「ウォームシャットスーツを開発したのは私の祖父だ・・・・。そしてウォームシャットスーツの危険性を知りながらもそれを隠して流したのは私の父だ。父は私の小さい頃にハンプティーとなり、死亡した。しかし父は最期、私をハンプティーにした。だから私はこの姿・・・・。さぁ、私を殺してくれ 君の恨んでる人物の息子だ!」
ハンプティーの原因はこいつの父・・・。こいつを殺しても恨みが晴れるわけではない。
「ハンプティー・ハンターの仕事はハンプティーを殺す事では無い。あくまで元通りにする事だ。だからオレはあんたを元に戻す。それが使命だから」
「・・・・そうか。私は君に殺して欲しかった。下手をすれば自我を失ってしまう事を恐れ、生きている日々はもう懲り懲りだったからね。はっきり言うと君に殺して欲しかった」
こいつは何を言っているのだ?
「だからオレはおまえを助けてやるって・・・・」
「無理だ。開発者の孫だ!君なんかよりもずっとハンプティーについて詳しい。ハンプティーは自分だけでなく、他人に抜がされそうになっただけで自我を失ってしまうんだ。かち割ろうとするなんて言語道断。自我を失うと体はハンプティーによって乗っ取られる。殻を全て壊すまでそれは解けない。それにハンプティーと化してしまったらその強さは尋常では無くなる。君みたいな子供では到底かなわない。あっという間に君もハンプティーだ!」
「子供では無理・・・か。そんなねやって見なきゃ分かんねぇよ!」
オレは地を蹴って舞い上がる。そしてハンプティーに蹴りを入れる。
「ま、まっ・・・・」
今まで普通の目をしていたハンプティーの目があっという間に黒くなり、腹部の辺りからは亀裂が入った。
自我を失ったか。
「っと。逝くぜ!ハンプティー!」
右、左、右、右、左と軽やかに蹴りを入れる。
ダン!
腹に重たい物を感じた。
「っつ!?」
腹部には亀裂を口代わりにして噛み付いているハンプティーが。
「い、いつの間に!?」
通じていないと分かっていてめつい、口からそんな言葉が漏れてしまう。
段々と血が流れて行く。意識が朦朧としてきた。
「・・・・」
オレはこのままハンプティーにされるのか?
なってたまるものか。いや、なっては行けない!ハンプティーになる位なら・・・・。
オレは最悪の事態の為に忍ばせて置いた、加工済みニトロを取り出した。加工をしたニトロは爆弾どうぜん。いや、爆弾だ。
オレは死ぬが中の人は助かる。あの人だってこんな人生を望んでなんかいなかった筈だ・・・・。
ニトロの入った試験管を地面に叩き付ける。
パリン・・・・。
クリアなガラスの割れる音が響く。
三秒・・・二秒・・・一秒・・・・。
「フィニッシュ!」
・・・・。
もう何の音も聞こえない。オレは朽ちていくだけ・・・・。あいつは生きる。立派な科学者として。祖父の跡を辿り・・・。あいつなら、ハンプティーを撲滅する研究をするだろう。たった今出会った人物にオレは賭けてみたいと思ったのだ。たとえそれが命だろうが構わない。ただオレは朽ちるだけ・・・。
死んだ後には無しかないのだろうか。まぁオレは天国だとか地獄は信じないからそれでいい。
オレは死んで無となる。
さよなら・・・。名前すら聞けなかったが、オレはおまえを信じる。オレが賭に勝つか、ハンプティーが勝つかは分からない。だが、おまえだけがオレの希望。
・・・・じゃあな。 |