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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』
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第十話 ユージ、長老たちにエルフの里の結界について話を聞く

6/25『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』発売記念の複数回更新!

本日23日分、二話目です。


『里に暮らすほとんどのエルフも知らない、エルフの里最大の秘密。山にそって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


『そ、それって……』


『エルフの里を囲む山々に結界を張っている。エルフでも長老以外では数名しか知るまい』


『張ってるってことは! その、ウチみたいに気づいたらあったんじゃないなら!』


『ええそうよ。私たち10人の長老が、意図的に張っているの』


『教えてください! どうやってるんですか!? それ、俺にもできますか!?』


『ユージ殿、落ち着くが良い。その話をするために儂らが来たのじゃからな』


 ホウジョウ村、ユージの家の前の広場には、ユージとコタロー、三人のエルフがいた。


 『魔素が見える』魔眼を持つシャルルに見てもらったところ、ユージの家の謎バリアに穴が空いていた。

 原因を調べ、解決するべくユージがケビンやバスチアン、エルフのハルに聞いてみたところ、ハルは『長老なら何か知ってるかも』とエルフの里に聞きに帰った。

 ハルが連れてきた三人の長老から『里を囲う結界』の存在を聞かされて、ユージは動揺しているようだ。


『ユージ殿、先に確認しておきたい。この家の敷地にある結界は、害意ある者の侵入を防ぐのじゃな? それだけか?』


『えっと、他にもいろいろあります。まずモンスターもですけど、中に入れる俺の攻撃でも通りません。物理的なものも魔法でもダメでした。それから、どうも害意がなくても入れないみたいです』


『ふむ……』


『ユージさん、害意がなくても入れないってどういうこと?』


『その、ケビンさんも開拓民も入れなかったんですよ。武器を持たなくてもダメで……俺と手を繋ぐと入れるんです。それで、これは多分ですけど、家で一泊すると中に入れるようになるっぽいです。あ、俺以外の入れる人と手を繋ぐのでも中に入れますね』


 謎バリアについて、これまでの検証結果を語るユージ。

 ユージなりにエルフたちを信頼しているのか、あるいは緊急事態ゆえか。


『あと、これは昨日と今日、いろいろ試してわかったんですけど……』


 そう言ってユージはポケットから実験結果をメモした紙を取り出す。


『武器、魔法。攻撃を防ぐと謎バリアの魔素が減ります。それから、家の一部が壊れたら修復されるんですけど、それも魔素を減らすみたいです。電気とかガスとか水道とかも減るって予想があるんですけど、これは今日実験中で……』


『イザベル、やはり』


『ええそうね』


『あの、どうかしましたか?』


『ユージさん。たしかにエルフの里には、外敵の侵入を拒む結界があるの。私たち長老が張った結界が。でもね……』


 細い指をアゴに当てて考える仕草を見せるイザベル。

 ユージは真剣な眼差しで見つめている。


『ユージさんの家を守るコレは、エルフの里の結界とは別モノだわ』


『え?』


『うむ。里の結界は外敵の侵入を防ぐし、武器や魔法による攻撃も防ぐ。じゃが、それだけじゃ』


『中の物は修復されぬし、そもそも害意がなければ問題なく入れるでな。モンスターはともかく、野生動物なんぞは自由に出入りしておるよ』


『別モノ……で、でも、結界の張り方を教えてください! ひょっとしたら同じものかも!』


『うむ、いちおう用意してきておる。イザベル、アレを』


『はいはい。ユージさん、これが私たちの結界の基点になっているものよ』


『えっと……なんですか、コレ? 黒い石? 黒曜石ってヤツかな?』


 リーゼの祖母で稀人のテッサの嫁だったエルフ・イザベル。

 イザベルが懐から取り出したのは、黒く光る拳大の石だった。


『私たちエルフは、これを結界石と呼んでいるわ』


『結界石。初めて聞きました』


『それはそうじゃろう。エルフの里がいまの地に移転した時に、テッサが創り出したものじゃからな』


『うむ、ニンゲンは知るまいよ。というかエルフでも長老と数人しか知らぬ』


『ま、またテッサ……』


 過去の日本人、テッサの功績だと聞いて微妙な表情を見せるユージ。

 冤罪である。

 混浴温泉や数々のネタを残しているが、テッサは役に立つ功績も残しているのだ。

 そもそもこの国からしてテッサが遺した功績である。


『使い方は単純じゃ。その結界石に魔力を込めれば良い。ユージ殿が、エルフの里で船の錠に魔力を込めたようにのう』


『魔力の量で結界の規模と期限が決まるのじゃが……まずは試してみるとよい』


『え? それだけですか?』


『うむ。ユージ殿、物は試しじゃ。やってみるとよい』


『はい、それじゃ。…………え?』


 結界石を手にして魔法を使うように魔力を込めたユージが、驚きに声を漏らす。

 足下では、コタローも目を丸くしていた。な、なにこれ、てっさ、どういうことなの、とでも言うかのように。


 ユージが握った結界石のまわりに、青白く輝く面ができていた。

 大きさはおよそ1メートル四方。

 面は透けており、反対側が見える。


 シールドである。

 見るからにシールドっぽいアレである。


『あの……そもそも、見えてるんですけど……』


『うむ。里の結界も、近づけばそのように見えるのじゃ。ゆえにのう……』


『そもそも見えないユージさんの家のコレは、別モノだと思うの。機能も違うみたいだし』


『そう、ですか……』


 わかりやすすぎる違いを目にして、ユージはがっくりと肩を落とすのだった。




『ユージ殿、すまぬ。長い時を生きておるが、儂はこの家の結界と同じものは知らぬ』


『そうねえ。過去の稀人、ほら、声かけたけど振られちゃった人たちがいたじゃない? 教会だか寺院だかと一緒に来た人たち』


『ああ、うむ、あれにも人の侵入を阻む結界があったようじゃな』


 それは過去、ユージがケビンから聞いた話。

 稀人らしき人々が、山間に建物ごとやってきたという話である。


『その人たちがどうなったかわかりますか? 建物も、結界も!』


『ただ静かに暮らし、静かに死んでいったよ。ニンゲンも幾人か逃げ込んだようじゃが、同様にな』


『ユージさん、人の生は短いもの。それから……最後には、結界は存在しなかったそうよ。いつ消えたかまではわからないけれど』


『ハルもゲガスも、彼らなりの平穏は保っていたようだと言っておった。自らの信念に従って生き、満足して死んだのだろう、とな。ハルを通して保護を提案したのじゃが、あっさり断られたのじゃ』


『そう、ですか……』


『ユージさん、いまはもう跡地だけど、見に行くならハルに声をかけてね。それから……テッサが創った結界石、いくつか予備はあるわ。機能は違うようだけれど、ユージさんが望むならこの家を守る分は貸し出すわよ?』


『うむ。役目を終えたら回収させてもらうがの。儂らにとっては短い間にすぎぬ。寂しいことにな』


『ありがとうございます。その、ちょっと考えさせてください』


『うむ。では儂らはこの場を離れよう。ぞろぞろとエルフがいては騒ぎになるかもしれぬでな』


『ユージさん、ハルは置いていくわね! 決めたらハルに言ってちょうだい! 半日もあれば駆けつけるから!』


『ユージ殿、その結界石は置いていこう。考えの役には立つじゃろうからな。じゃが、信頼できぬ人には見せぬように。テッサがいないいま、創れる者もおらぬのじゃよ』


『はい、わかりました。ありがとうございます』


 新しい情報を得て考え込んでいるユージに気を遣ったのだろう。

 エルフの長老三人は、スタスタとこの場を去っていく。

 ありがとう、と伝えるかのごとくワンッ! と吠えたコタローに見送られて。


 ユージはただ一人、考えにふけるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ユージ兄! リーゼちゃんのお祖母ちゃんと、エルフさんたちはなんて?」


「あ、アリス。うん、いろいろ教えてくれたよ。やっぱりこの謎バリアのことはわからなかったけど」


「そっかあ。ああっ! アリス、魔法を教わってない! シャルル兄も!」


「アリス、ボクはいいんだよ。またの機会にね」


「うーん、どうだろう、またの機会があるかなあ。まあボクが教えるよ! 風魔法以外も知ってるから!」


「ハル殿、ありがとうございます。ユージ殿、進展はなかったようじゃが……儂らにできることはあるかのう?」


「あ、はい、また後でシャルルくんに手伝ってもらいます。いまはちょっといろいろ考えさせてください」


「ユージ兄、どうしたの? 大丈夫?」


 ユージの顔を心配そうに覗き込むアリス。

 この世界に来てから一番付き合いが長いアリスは、ユージの雰囲気がいつもと違うことに気づいたようだ。


「うん、大丈夫だよ。ありがとうアリス」


 言葉とは裏腹に、ユージの目には力がない。

 長命種のエルフも謎バリアのことがわからなかったせいか、あるいは建物と謎バリアという同じ環境だった稀人の末路を聞いたせいか。


「ユージさん……シャルルくん、バスチアン様、ちょっと魔法の練習をしようか! 夏休みで腕が鈍ったら大変だもんね!」


「うむ、それはいい! アリスはユージ殿と一緒にいるように。ではシャルル、行こうかのう」


「はい、お祖父ちゃん! アリス、またあとでね。ユージさんも!」


 長老のエルフたちと同じように、ユージを置いて去っていくハルとバスチアン、シャルル。

 非情、ではない。

 魔法の練習と言いながら、アリスはこの場に残している。あとコタロー。


「ユージ兄、お家に帰ろう! アリス、ちょっと休憩したいなあ」


「はは、アリスに気を遣われちゃったかな。そうだね、家でゆっくりしようか」


 上目遣いでおねだりしたアリスの頭を撫でるユージ。

 休憩したいらしいが、そこに卑猥な意味はない。なにしろアリスは10才の少女なので。というかこの世界の『休憩』に違う意味はない。エルフの里にはあるかもしれないが。テッサのせいで。


 ともあれ。

 新しい情報を得たユージは、いったん家に向かう。

 リビングのソファに沈み込み、ゆっくりと考え事ができるように。

 あるいは。

 掲示板に報告して、ブレーンの意見を聞けるように。


次話、明日24日12時投稿予定です!

明日も12時、18時の複数回投稿!


エルフの里の結界は全体146話「閑話9-12 エルフの少女リーゼ、保護されて開拓地に向かう」で

リーゼがチロリとお漏らししてました。

やっと、やっと……

いかに恩義があっても、最初から秘密をぜんぶ明かすわけはないと思いまして。

長かった……

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