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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』
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第一話 ユージ、ホウジョウ村の様子を見てまわる


 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 エルフの里から帰ってきたユージは、アリスとコタローを連れてホウジョウ村をウロウロしていた。

 徘徊である。

 違う、ユージはいまだにホウジョウ村の村長。

 不在の間に変わったことがなかったか、見まわりをしているのだ。


「こんにちはー」


「みんなこんにちは!」


 ガバッと戸を開けて中を覗き込むユージとアリス。

 その下には、コタローがヒョコっと顔を出している。

 ちなみにコタロー配下の15匹のオオカミたちは、今日も元気に周辺を探索していた。

 今日のコタローは、人間の配下と行動することにしたようだ。いや一応ユージが飼い主だという意識はあるようだが。一応。


「あらユージさん! どうしたの?」


「おひさしぶりですジゼルさん! いやあ、しばらく不在にしてたから、みんなどうかなーと思いまして。あ! 布のドレス、好評でしたよ! ありがとうございました!」


「そう、よかった! ユージさんが何着か買い取りたいって言うから……ほら、ついに気になる人ができたのかってウワサしてたのよ。エルフの里にっていうのは私が黙ってたから!」


 そう言って手で口元を隠し、ニマニマと笑うジゼル。

 ケビンの妻で針子たちを仕切るケビン商会の従業員は、恋バナがお好きらしい。

 見ればその後ろで作業中の針子たちも口元がニヤついている。


「い、いやあ、あはは」


 ユージが元冒険者で副村長のブレーズ、その妻のイレーヌの二人へと送った革のブレスレットは、ここで買ったドレスと物々交換で手に入れたようだ。

 まあケビンが考えるレートとは違うため、贈り合った、と言ったほうがいいかもしれない。


「イザベルさん、リーゼのお祖母さんは喜んでくれましたよ!」


「エルフにも人気なのね! うーん、もっと増員したほうがいいかな……」


 思案を口にするジゼル。

 開拓民のうち独身女性の共同住居 兼 針子の作業所となっている建物は、木工職人のトマスの手によって増築されていた。

 何しろ針子を増員したので。


 初期に開拓地に移住した針子のユルシェルとヴァレリー夫婦、元3級冒険者の斥候・エンゾの嫁のイヴォンヌ、ケビンに声をかけられて移住した三人の独身女性。

 これまで6人だった針子は、いまや倍の12人まで増えている。

 ユージが掲示板住人から渡されたデザインと型紙で作った服やドレス、コサージュなどの装飾品は、作る端から売れていた。

 服飾品の販売が好調なため、針子の増員は予定されていたこと。

 春の終わりにようやく準備が整って、新たに6人が移住してきたのだった。



 ホウジョウ村開拓地への移住までの道のりは遠い。

 まず勤務先となるケビン商会で、会頭のケビンとジゼルの夫婦から健康か、やる気はあるか、農繁期には農作業も厭わないかが確認される。

 二人からは労働環境や給金が伝えられて、双方合わないようであればここで脱落である。


 一段階目をクリアしてもまだ関門は残っている。

 移住希望者は知らないが、その後プルミエの街の代官の指揮で人物調査が行われているのだ。

 出身地、その親の出身地、犯罪歴。

 まあこのあたりは領主夫妻というこの地の権力者が協力しているため、基本は台帳を調べるだけである。

 これが第二関門。


 第三関門は、周囲への簡単な聞き取り調査であった。

 こちらの担当はケビン商会の手の者だ。

 というかこのために、ケビンはゲガス商会から一人引き抜いていた。

 何しろけっこうな数の移住者を確保する必要があったので。


 ここまですべてクリアして、移住希望者は初めて開拓団のトップにしてホウジョウ村の村長、ユージと面談する資格を得られる。あとコタロー。

 ケビンがプルミエの街でユージとコタローを移住希望者と引き合わせる。最終面接である。

 その後、ケビンがユージに感想を聞く。

 ユージはこれまで100%オッケーを出していた。ザルである。

 まあ三つの関門を突破している者たちなのだ。

 何かあったとしてもユージ程度が見抜けるわけがない。何しろユージは10年間引きこもっていて、社会経験もなかったので。


 だが。

 時おり、コタローが移住希望者に激しく吠えたてることがある。

 そんな時、ケビンは後にユージに言うのだった。

 すみませんユージさん、以前会っていただいた方、向こうから別の仕事先に決まったと断られちゃいまして、と。

 ユージはただ、そうですか、それは残念ですね、などと言うだけである。鈍感か。

 ケビン、コタローの感覚を信用しているようだ。

 まあコタローが気に入らなかった原因はどうあれ、開拓地にはコタローと15匹のオオカミたちがウロついているのだ。

 おたがいの安全のために、落としたほうがいいだろう。


 そんな四段階の厳しい試練を経て、6人の針子たちは開拓地に移住してきていた。

 ちなみに全員女性で、独身である。といっても孤児の姉妹から未亡人までいるため歳はバラバラである。

 ユージと独身の男たちのために。

 ではない。

 そもそもこの世界において、針仕事は主に女性の仕事である。

 そしていかに給金が高く防衛戦力が充実してると言っても、街を離れて開拓地へ行こうと考える女性だ。

 独身女性が集まるのは必然であった。

 決してユージや、元5級冒険者の独身男たちを喜ばせるためではない。決して。


「また面接ですかね? その、ケビンさんとジゼルさんがオッケーなら俺はいらないような……ブレーズさんに任せちゃダメですか?」


「ダメよユージさん! ユージさんがホウジョウ村の村長なんだから!」


「はあ……」


 ユージ、いまいち納得いっていない様子だ。長なのに。

 ジゼルはそんなユージから目を逸らしてコタローにパチリとウィンクする。

 わかってるわ、とばかりにウォンッ! と吠えるコタロー。察しがいい。ユージと違って。


「ユージさん、ケビンがちょっと話したいって言ってたわよ? 今日は缶詰のほうにいるはずだから」


「あ、じゃあそっちに行ってみます」


「みんなバイバーイ!」


 明るく手を振って立ち去るアリス、ペコリと頭を下げるユージ。


 ちなみに10才のアリスはいまだに開拓地最年少だった。

 といっても、イヴォンヌの妹や今回針子として移住してきた少女など、ちょっと歳上の女の子はいる。

 本来は15才、大人と認められる歳になってから働きはじめるのだが、働かずにはいられない事情もあるのだろう。

 だが、アリスが『働いてない!』などと糾弾されることはなかった。

 新しい開拓民は、移住のための道行きで知らされるのだ。

 ホウジョウ村の防衛団の戦力と、誰が対モンスターの最終兵器なのかを。

 アリスが遊んでいようが、有事の際に敵を倒してくれればそれで問題ないのだ。

 先生お願いします! というヤツである。

 その先生は、ホウジョウ村の春の風物詩・ワイバーンを一発で堕とす。

 第三次開拓団も、それを聞いただけでアリスに『働け!』という者は存在しない。

 あと魔法による土木工事も見ているので。

 10才のアリスは、人間兵器にして人間重機なのである。


「よーしアリス、次はあっちだ!」


「はーい、ユージ兄!」


 そんな事実を気にすることなく歩みを進めるユージとアリス。

 アリスの教育は大丈夫か。

 ともあれ、平和な二人であった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「こんにちは! ケビンさんいますかー?」


「みんなこんにちは!」


 続いてユージたちが向かったのは、缶詰生産工場である。


 それにしてもユージ、たまに会社に帰ってくる中小企業の社長のような振る舞いである。

 トップのくせにふらっと出ていって、ふらっと帰ってくるあたりだいたい同じ。

 それで言うならアリスはいつも連れ出される秘書か経理という名の愛人か。

 とするとコタローはペットの犬。……まんまである。コタローは優秀だが、犬なので。


「あ、ユージさん! ちょうどいいところに! 話があったんですよ」


「はい、ジゼルさんに聞いて。それにしても……ここは活気がありますね」


「うわあ、煙がモクモクってなってる!」


「はは、こちらも人を増やして、ようやく本格稼働ですからね!」


 ホウジョウ村のケビン商会の缶詰生産拠点が完成したのは、ユージがこの世界に来てから5年目の夏の終わり。

 秋・冬の試験運転の間は、常駐の4人の鍛冶師&見習いのほか、臨時雇いの開拓民たちでまわしていた。

 6年目の春の終わりに工員も開拓民として移住してきたのだ。

 その数6人。

 男女は半々である。

 男は鍛冶師の手伝いや荷運びなど力仕事を。

 女は缶詰の中身の調理と、ホウジョウ村の食事作りを担当している。何しろ村民が増えてきたため、料理を作るのも手間となっていた。

 移住して以降、食事作りを一人で担当していたイヴォンヌの妹は、いまは缶詰工場の工員として腕を振るっている。

 ちなみにイヴォンヌの妹以外の6人は、とうぜん移住希望者の関門をクリアしてきた者たちである。


「ユージさん! 外で話をしましょうか!」


「あ、はい、了解です!」


 ケビンの誘いに従って缶詰生産工場の外に出るユージ。

 ぷはあっと大きく息をつく。

 なにしろ缶詰工場には、鍛冶場と調理場がある。

 そのあたりは木工職人のトマスも意識して建てたものの、それでも熱気はこもってしまうようだ。


「いやあホント、一気に人が増えましたね!」


「そうですねえ。針子、工員、本当はもっと増やしてもいいんですけどね。ただやはり秘密が多く、人物が大事ですから」


「そうですよね、服も缶詰も、作り方を盗まれたら大変ですもんね」


 そんな雑談を交わしながら、ユージとケビン、アリス、コタローはいつもの広場に向かう。

 ユージの家の前、切り株でできたイスが並ぶ広場である。


 ホウジョウ村開拓地に人が増えたいま、村の広場は別に作る予定であった。

 掲示板住人たちがノリノリで立てた都市計画の通りに。

 なにしろ現在、開拓民は合計で40人。今後も順次増えていくことが予想されている。

 ユージの家の前の広場では収まりきらなくなっていたのだ。

 これも発展の結果である。


 ケビンの雰囲気から、重い話ではなさそうだと見て取ったのだろう。

 ユージの足取りは軽い。

 いかにケビンがわかりやすいように振る舞っているとはいえ、これも一つの進歩である。

 ユージは、ぴょこぴょことご機嫌な様子で歩くアリスとコタローを連れて、家の前の広場に向かうのだった。




説明の文量が多く…

むしろ今話までプロローグのような気がします。

ついにエクセルでリストを作ったので、開拓民の数は間違ってないはず。

(17章で29人と書いてましたが、28人の誤りでした。修正しました)

ちなみに名前ありは50名を軽く超えています。多い……。


次話、明日18時投稿予定です!

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[一言] ドミニクの嫁の元奴隷が入ってない。
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