第十九章 エピローグ
ちょっと短めです。
アメリカ、ロサンゼルスの高級住宅街・ビバリーヒルズ。
その中では大きくない屋敷に、日本から帰ってきた面々が集まっていた。
もちろんこの屋敷の主、プロデューサーと脚本家の初老の夫婦も一緒である。
『それで、ひさしぶりの日本は楽しめたかしら?』
『はい! 友人に会えましたし、郡司さんたちと話して大枠が決まりました。気になってた藤原のおじさんとおばさんに謝れましたから。華さんにも会えましたし!』
『サクラは楽しんでたね! まあボクたちも楽しかったよ』
一つ一つ噛みしめるように指折り数えるユージの妹・サクラ。
サクラは日本での用事を片付けるだけではなく、友達にベイビーをお披露目してきていた。
まだ1才にもならないベイビーだが、髪も目も黒くない。
高校・大学時代の友人たちからは、華やいだ声で歓迎されていた。
『そうだねジョージ! 宇都宮、それに浅草もよかったなあ。もちろんアキハバラが最高だけど!』
サクラの夫・ジョージ、その友人のルイス。
時に別行動を取りながら、それぞれ日本を堪能したようだ。
宇都宮の後は東京にも泊まり、しっかり観光を楽しんでいた。
『そう、それはよかった。ケイトさんは初めての日本だったんでしょう? どうだったかしら?』
『ああ、アタシも楽しかったよ! 本場のスシも美味かったし! その、ありがとうございました!』
『うふふ、いいのいいの。華さんとお母さまと会ったんでしょう? サクラさん、それからケイトさんも一緒に、今後、検証番組に出てもらうかもしれないもの』
『え?』
『ケイトさんだってお祖父さんからいくつかエピソードを聞いているでしょ? そうねえ、何も知らされずに残された者たちの思いっていう切り口で……』
『おまえ、それは映像にしづらいんじゃないか? それに検証番組の趣旨から外れるだろう?』
『そうねえ。うーん、どこかで使いたいんだけど。その時はお願いね、ケイトさん!』
『あ、ああ。アタシの旅費を出してもらったわけだし、それぐらいいつでも協力するけどさ』
稀人のキースの子孫・ケイト。
まだ大学生の彼女は、この旅の飛行機代や宿泊費を負担してもらっていた。
日本に行く前、ピッツバーグからロサンゼルスへの飛行機代も含めて。
その代わり、検証番組や映画化にあたって協力してほしいことができたらお願いする、という約束だったのだ。
まあそれにしても、見合わない金額を負担してもらったことになるだろう。
何しろ日本までビジネスクラスの往復飛行機代を出してもらったので。
『それよりルイスくん、本当に買ったのかね?』
『はい! でもまだ送金してないんですけどね! とりあえず銀行に行って相談しないと!』
『思い切ったわねえ。そんなによかったの?』
『ほら、ボクはもともと日本が好きで。ユージさんの家の跡地も近いし、いいかなあって。飽きたら帰ってくればいいんだしね!』
『はは、独身はフットワークが軽いね。ふむ、ユージさんの家の跡地が近い場所、か……』
『あなた? まだほとんど研究が進んでないわよ?』
『だが、そうとわかってからでは遅いだろう? 秘匿せずに公開する。それを研究者に求めているのは私たちなのだから』
『そうねえ』
『あ、グンジさんにお願いしておく? 近い場所で中古の一軒家! うーん、でもお二人なら土地だけで好きに建てたかったりするんですかね?』
『ルイスくん、やはり日本の住宅は一部屋が狭かったかい?』
『ウチはそうですね! ボクはその方が落ち着くから気にならないけど。どうなのサクラさん?』
『えっと、アメリカに比べたらそりゃ狭いですけど……え? お二人とも本気ですか?』
『ふむ、では土地を探してもらうことにしよう。予算を決めてグンジさんに連絡するか』
『あなた、でもこの仕事が落ち着くまで日本には行けませんよ』
『それは仕方あるまい。私たちの仕事はこれからが本番だからな』
あっさりと土地を買うことを決めた初老の夫婦に、サクラはちょっと引き気味である。小市民なので。
1000万円、2000万円は、彼らにとってたいした額ではないらしい。
金銭感覚おかしくなりそう、などとぼやくのも仕方ないことだろう。
そもそもビバリーヒルズの中では小さなこの屋敷からして、億など軽く超えている。
サクラ、いつの間にかブルジョワな人たちに囲まれていたようだ。
『サクラさん。予定では、間もなくドキュメント番組の第三回を放送する。その後はシーズンごと、秋に第四回、冬に第五回。来年の春に最終回を放送して、そのまま映画の告知へという流れだ』
『あ、はい。いよいよですね』
『ああ。このままの進行であれば、映画はおそらく来年の春の終わりから夏のどこかで公開、というところだろう。これは製作というよりは配給の都合次第だな。少なくとも日米で同時公開したいと考えている』
『……そうですね、それはみんな喜ぶと思います!』
『くっ! キャンプオフとかぶる可能性があるのか! どっちで観よう!』
『ルイス、気が早いぞ。その頃には手が空いているんだ、近づいたら考えればいいんだろう?』
『うんまあそうなんだけど! はあ、楽しみだ! みんなどんな反応してくれるかなー』
『キャンプオフ……春に公開されるなら、みんなで観るのも楽しそうね!』
『ふふ、サクラの好きにするといい』
『キャンプオフは毎年4月12日だったかしら? ううん、4月前半はどうかしらねえ……』
『それはムリだな。おそらく最後の詰めがその頃だろう』
『そうですか……まあしょうがないですね! でも楽しみです!』
ユージが異世界に行ってから6年目の春の終わり。
この6年目、ユージの物語のドキュメント&検証番組は残り4回、季節ごとに放送される。
それが終わる頃、来年の6月、7月頃にはいよいよユージの物語の映画が公開される。
日本でも、アメリカでも。ユージの物語は、加速度を増して知られていくことになるようだ。
あわせてサクラの身辺は、常にボディガードに守られている。
なにしろ『異世界が存在する』という話なのだ。
オカルトに傾倒した危ない人や、神が創ったのはこの世界だけと主張する狂信者はいくらでもいる。
一方でユージを神のごとく崇拝する一派も生まれているのだが。家も含めてノアの方舟的なアレである。
日本でも、アメリカでも。どれだけ身を守るべく気をつかっても、遣い過ぎということはないだろう。
有名になっていることも身の危険も、いまいち実感がないのはユージだけであるようだ。
エピローグなのでちょっと短めです。
次話、明日18時投稿予定!
何話か異世界側の閑話を挟んで、舞台はそのまま異世界へ!