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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十八章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 1』
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第十三話 ユージ、サクラから元の世界で有名になってるらしいことを聞く

 ワイバーンを討伐した翌日。

 後始末はノリノリのケビンとゲガスに任せて、ユージは自分の部屋にいた。

 アリスは、リーゼのお祖母ちゃんたちに魔法を教えてもらうんだ、と外に。

 コタローはオオカミを引き連れていつもの見まわりに。

 家にいるのはユージ一人である。


 パソコンの前に座るユージ。

 ひさしぶりに家に一人なので自家発電をしていた、わけではない。

 モニターに映るのは妹のサクラの姿。

 ユージはまたSkyp○をしているようだ。


ユージ:それで、写真は大丈夫そう?


サクラ:いまチェックしてもらってるよ。思ったより使えそうだって喜んでたからたぶん大丈夫だと思う!


ユージ:よかった、けっこう大変だったから。掲示板のみんなも盛り上がっちゃって


サクラ:うん、見てた。お兄ちゃんは気づいてないかもしれないけど、それぐらいすごいことなんだよ?


ユージ:そうなんだ。LIF○って読んだことないからなあ


サクラ:もう! こっちは大騒ぎなのに!


 ユージが復刊したLI○E本誌の表紙になる。

 それを聞いた掲示板住人は驚き、盛り上がっていた。

 特にコテハン・カメラおっさんの気合いの入りようは尋常じゃないほどに。

 指示を受けつつユージが撮った写真は、まあまあ使えるものになっていたようだ。

 さすがテストと称して何枚も撮影させ、遠隔で細かく指示を受けていただけのことはある。

 ユージが撮影した本番のデータはアップを要求しない分別はあったようだが。


ユージ:そんなにすごいの?


サクラ:もう、何回も説明したでしょ! プロデューサーさんたちはともかく、私もジョージもボディガードがついてるのよ?


ユージ:え? 戦えない女性や子供には護衛がつくものじゃない? 開拓地はそうだよ?


サクラ:お兄ちゃんが異世界になじんでる……こっちはそんなことないから! 思い出して!


ユージ:ああそっか。はは、もう6年目だからなあ……


サクラ:そうね……じゃなくて! こっちが大変だって話! 家の跡地とかすごいんだって!


ユージ:え? いま何もないんでしょ?


サクラ:うん。でも検証番組のシリーズがはじまって、すぐに場所が特定されて。さっそく見に行くミーハーな人とか調べに行った研究者とか、ちょっとアレな人たちとか……


ユージ:あ、インフラ屋とかクールなニートたちが、なんか宇都宮に外国人が増えてるって言ってた


サクラ:そうなの! それぐらい影響があるってこと!


ユージ:あれ? でもウチって車じゃないと行きにくいよね?


サクラ:そうなのよ。警備の人がどれだけ言っても路上駐車がひどくて迷惑かけてるみたいで……


ユージ:うわあ、そこまでなんだ


サクラ:近くには藤原さんの家しかないし、郡司さんに謝りに行ってもらったんだけど……今度直接行かないとなあ


ユージ:想像できない……


サクラ:なんでよ! テレビは見られなくてもネットは繋がってるでしょ! そういうニュース見ないの?


ユージ:うーん、いまは掲示板と調べものとメール、Sk○peぐらいしかしないから


サクラ:浦島ユージか!


ユージ:……


サクラ:ちょっとお兄ちゃん、スルーしないでよ!


ユージ:ごめん、こんな時どんな反応したらいいかわからなかった


サクラ:はあ、もう……ってことで○IFEの取材が終わったら、ジョージくんとベイビーと日本に行くことになったから!


ユージ:了解、気をつけてね。その、藤原さんによろしく!


サクラ:うん、それもあるんだけど。映画が放送される前からもうこんな状態だし、ウチの跡地とまわりの土地をどうしようかって


ユージ:そっか、騒ぎになるだろうからって押さえたんだっけ


サクラ:うん、郡司さんたちが動いてね。ほんとよかったよー


ユージ:それで、どうなるの? もしかしたら家ごと戻れるかもしれないんだし、できれば


サクラ:家があった元の場所は何もしないつもり! その条件でNPOの人たちがプランを立てたんだけど……


ユージ:どうするつもりだって?


サクラ:私設のキャンプ場にするつもりみたい


ユージ:え?


サクラ:私設のキャンプ場! 入場料と駐車料金を取れば警備会社への支払いはまかなえるだろうし、ブームがおさまっても維持費はたかが知れてるしって。迷惑駐車もなくなるしね!


ユージ:は、はあ


サクラ:それに研究する人はちゃんと近づきたいだろうし、掲示板のみんなも見たいだろうし、徐々にでも大きくしていけば、いずれはキャンプオフもここで、だって


ユージ:おお! なんか楽しそうだね!


サクラ:楽しそうって……とにかくそんなことを考えてて事業計画もできたみたいだから、一度直接話したいって言われてたんだよね


ユージ:そっか。よろしくサクラ! 任せるよ!


サクラ:……お兄ちゃん、ちょっとは考えよう? 戻れたら大変だよ?


ユージ:ほんと実感がわかないんだよなあ


サクラ:もう! じゃあ今度日本に行った時に、家のまわりの写真撮ってくるから!


ユージ:あ、うん


サクラ:あと宇都宮の街の様子も!


ユージ:そんなに変わったの?


サクラ:うん。外国人も増えたんだけど、日本人も増えたって! お兄ちゃんの検証番組がメディアで取り上げられて掲示板を見に行って、それで宇都宮に遊びに来たりとか……春のキャンプオフもすごい人数だったみたいだし!


ユージ:そっか、うん、そっか


サクラ:どうしたのお兄ちゃん?


ユージ:それだけ人が集まってくるってことはさ、俺と同じような引きニートだった人とか、ニートとかもいるでしょ?


サクラ:うん。いまの宇都宮はわかんないけど、キャンプオフはユニク○も恵美の友達が集めた美容師さんたちも、けっこうお客さんが来たって


ユージ:それがうれしくて。俺でも誰かの役に立てたんだなって


サクラ:お兄ちゃん……うん


ユージ:だから俺、がんばるよ。検証番組とか映画とか、そりゃ情報とか研究が進むかもしれないってのもあるけど


サクラ:うん


ユージ:俺を見て、ちょっとでも行動してくれる人が増えるならさ


サクラ:うん


ユージ:それだけでも充分だから


サクラ:そうだね……よし!


ユージ:サクラ?


サクラ:お兄ちゃん、こっちは任せて! もう好きなようにしたらいいよ!


ユージ:え、あ、うん


サクラ:じゃあいろいろやることができたし今日はここでね! 写真はどうなるかはっきりしたらメールするから!


ユージ:うん、わかった。俺も出かけてるかもしれないけど……


サクラ:まだ時間に余裕はあるみたいだから大丈夫! じゃあまたね!



 最後はサクラの勢いのまま、あっさりS○ypeが切られる。

 ユージと違って行動派なサクラは、思い立ったら止まらないようだ。


 うーん、と伸びをしてひと息入れるユージ。

 だが、席は立たない。


 ユージはチラリと窓の外に目を向けて、続けてチラリとドアを見て聞き耳を立てる。

 アリスの声もコタローの声も、不審な物音も聞こえない。


 よし、と一つ気合いを入れるユージ。

 マウスを操作する。

 カチカチッと勢いよくダブルクリック。


 モニターいっぱいに広がったのは、水着姿の女性だった。とうぜん巨乳である。


 ユージ、やっぱり一人で仕事をするようだ。

 独身男性の楽しい時間である。終了後の虚しさを考えてはいけない。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ユージさん! 用事は済んだんですか?」


「あ、はいケビンさん! おお、もう解体終わったんですね!」


「俺とケビンの二人がかりならな。肉はほとんどダメだったがよ」


 家を出たユージは、すぐ前の広場でワイバーンの解体をしていたケビンとゲガスに声をかけられる。

 スッキリした顔つきのユージだが、シャワーを浴びたためである。ついさっきシャワーを浴びたためである。

 ケビンもゲガスも指摘しない。独身男が家に一人。異世界でも同じようなことがあるのだろう。二人とも突っ込まないタイプの大人であるようだ。


「そうですか……まあしょうがないです! おかげで苦戦しなかったわけですし!」


 ユージ、賢者の時間は終えているのかテンションが高い。

 満足いくシャワータイムであったようだ。昼間からシャワーを浴びる贅沢のせいである。パソコンは関係ない。


「そうですよユージさん。おかげさまで小さな傷跡一つの皮が手に入ったんです。この利益で珍しい干し肉でも買ってきますよ」


 ケビンはホクホク顏である。

 隣にいたゲガスも笑っているが、こちらは地の顔が凶悪すぎてただ凄んでいるようにしか見えない。


「ユージさん、そんなわけで私は明日にでも街に戻ります。ユージさんはどうしますか?」


「あ、俺も一緒に行きます! ワイバーンも倒しましたし、これで自由に動けますからね!」



 ホウジョウ村開拓地、春の風物詩となったワイバーンの襲来。

 2年続けて無傷で倒したが、それは戦力が揃っているからである。

 ホウジョウ村開拓地に来る方はともかく、ワイバーンが来るとわかっている時期には、開拓地から出かけるわけにはいかない。

 無事に討伐したことで、ユージはまた街に出かけるようだ。

 目的地はプルミエの街である。

 プルミエの街が目的地で、プルミエの街の歓楽街が目的地ではないだろう。たぶん。


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